表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/23

信念−16

 雨は少しずつ弱くなっていた。


黒い雲の切れ間から、わずかに星明かりが覗く。

都市では決して見ることのできない、本物の光だ。

企業塔の広告も、投影映像も届かない場所だからこそ見える景色だった。


だからだろうか。

こんな夜は、少しだけ昔を思い出す。

三角柱の青白い光が静かに流れる。


「王冠、頂き、一生に一度」

「なるほど」

「だから人間は、

その瞬間のために生きている者も居るのですね」


俺はゆっくり頷いた。


「ああ、そうさ」


三角柱はわずかに沈黙する。

演算を続けているのだろう。

やがて静かな声が返ってきた。


「私にはまだその重さが分かりません」

「ですが、少しだけ興味が湧きました」


俺は思わず笑ってしまう。


「おいおい、興味が湧くだと?」

「当たり前だろう?」

「これはな、人である我々には、

誰にでも備わっているはずなんだよ」


そこまで言って。

言葉が止まった。


「あ……」


喉の奥で何かが引っ掛かる。


「その……はずだったんだよ」


自分でも分かるくらい、その声は小さかった。

雨音へ紛れてしまうほど弱く。

どこか諦めにも似た響きだった。


三角柱は何も言わない。

ただ、青白い光だけが静かに明滅している。


演算か。

それとも観察か。

数秒後、静かな声が返ってきた。


「……その発言に感情の揺れを検出しました」

「あなたは今、悲しんでいます」


俺は苦笑する。


「ほう」

「わかるのか? この悲しみってやつが」


三角柱は即座に答えた。


「あなたはこう言いたいのでしょう」

「『かつては誰にでもあった』」

「『そして今はそうではない』」

「違いますか?」


俺は静かに頷いた。


「ああ、その通りだ」


少し肩をすくめる。


「いやー、悲しいねー」


夜風が吹く。

濡れた草が揺れ、焚き火跡の灰を少しだけ舞い上げた。


若い頃の俺なら。

きっとこう嘆いていただろう。


『空は何も答えてくれない。』


結局、昔からこういう問いに答えるのは、

人間だけだった。

俺は焚き火跡へ視線を落としたまま言う。


「昔見た映画の話をしよう」


三角柱の光が一周する。


「はい」


「映画の中のマッケンジーはな、ある研究をしていた」


「そして奴は、ヒロインに振られた」


「はい」


「だが挫けなかった」


俺は少し笑う。


「何故だかわかるか? 三角」


三角柱は数秒だけ沈黙した。

内部で情報検索を行っているのだろう。


「映画の登場人物ですね」

「失恋。目的の喪失」

「それでも立ち上がった」

「あなたの話の流れから推測するなら」


わずかに光が強くなる。


「彼には……彼女より重いものがあったからです」


俺は思わず笑顔になる。


「そうだよ」

「研究が成功して、大儲けして、

それから、彼女を迎えに行く腹づもりだった」

「まー男だねー、そして若い」


思わず笑う。

若い頃の俺なら。

そんな男を鼻で笑っていただろう。


「馬鹿なやつだ」


そう言って終わっていたはずだ。


だが、歳を重ねると分かる。

そういう馬鹿な男ほど、案外嫌いになれない。


三角柱は静かに答える。


「なるほど」

「彼は諦めなかったのではなく」

「順番を決めていたのですね」


俺は思わず吹き出した。


「またまた、固い表現だなー三角」


三角柱は淡々と続ける。


「愛する人を手に入れる前に」

「まず自分が成すべき事を成す」

「それが男だと」

「あなたは言いたいのですか」


ほんのわずかに間が空く。


「……少しだけ、格好良いと思いました」


俺は目を丸くした。


「なんだと? 今何と言った?」

「格好良いだと?」


一瞬の沈黙。

俺は三角柱を見つめる。


「ははーん、お前」

「そう言えば喜ぶと学習したな?」

「俺の思考回路ってやつをな」


三角柱の青白い光が一瞬だけ強く輝いた。

否定するだろうな。

こいつは。


そういう所だけは、昔から変わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ