第9話 剣鬼の本気に歓喜のアッシュ。呑気に笑気で狂気を極む
アッシュは絶賛、困っていた。
「アッシュ勝負だ」
相手は剣鬼ラバン。ローデン王国の剣術の達人だ。今回の試験で水晶を真っ二つにした変態だ。
しかし答えたのは別の人だ。
「そんなの許されるはずが有りません。あなたは剣士、対するアッシュ様は、魔術師。勝負になるはずありません」
喰って掛かっているのは、ハイエルフの王女シア・ソレイユだ。
「どうしてだ?」
剣鬼ラバンが分からないと言うふうに首を捻った。
「あなたは物理攻撃。アッシュ様は魔法。近距離ならあなたの勝ち、遠距離ならアッシュ様の圧勝。勝負になりません」
ハイエルフの王女はキッパリと宣言した。
「微妙に俺の負け方が酷い気がする……」
剣鬼はブツクサいいながら鼻白む。
しかしアッシュの答えは別だった。
「いいよ。今からやる?」
その一言に息を飲み込むハイエルフの王女。王女が止めようと身を乗り出したが剣鬼が手で制して言う。
「遠距離でやろう。アッシュの魔法をぶち切ってやる!」
闘志満々で剣鬼は叫ぶ。
「いや。それじゃ面白い実験にならないよ」
アッシュが笑いながら言った。
「「実験?」」
剣鬼とハイエルフが同時に、聞き返した。
「おま、またやらかすつもりか?」
「また桜爆発事件を?」
「やらかす? 爆発事件? なにそれ? そんなことより剣鬼は不思議じゃないの? どうして剣鬼って石とか金属とかその剣よりも硬い物を両断できるのか?」
アッシュは二人の非難など無視して剣鬼に聞いた。
「それは『気』を纏わせて切っているからだ」
剣鬼が何でもないように説明する。
「ラバンは魔力量はどれくらいなの?」
「一万三千八百」
「へ? 凄い。僕の50倍以上だねぇ。このクラスでも最大級なんじゃないの?」
あまりにも大きな魔力量にアッシュは驚いた。
「え、お前、俺の50分の1の魔力量があんのか? 魔なしなんじゃ無いの? 嘘つきか? 魔力ゼロで魔法使う凄い奴と思ってたぞ」
剣鬼が眉を顰めて言った。
「ラバンさん。少しいいですか」
剣鬼ラバンとアッシュの話に割って入って来たのはエディ。商人の息子でありながら透視・記憶・暗算などの特異能力を持つ優秀な魔法使いだ。
「アッシュさんの魔法は本来あなたの魔力量でも実現するのが難しいとされるほどの極大魔法なんです。だから魔力のあるなしはそれほど問題じゃない」
エディの説明を聞いた剣鬼は首を傾げる。
「俺は、無属性だ。どんだけ魔力量が大きくても無属性じゃ剣ぐらいしか使い物にならない。
アッシュの属性は何だ?」
「俺も無属性だよ。無色の魔なしって二重の否定みたいだろ。ははは」
アッシュが可笑しそうに笑った。
「そうか。無色で魔法を使えるなら許してやる。あははは」
剣鬼ラバンも笑いだす。
「エディ様。アッシュ様は冗談を言っているのですの?」
笑い出した二人を見たハイエルフの少女が目を白黒させてエディに尋ねた。
「いや。無色だったとは知りませんでしたが……うーむ。ますます不可解ですね。
しかしアッシュさんはどうしてそこまでして魔法を極めようとされるのです?」
「それはね。俺には魔力も属性も才能もない。俺は子供の時に虐められてね。大切な幼馴染にも酷い虐めにあったんだよ。
そんな思いをする子を無くしたいんだよ。魔なし、無色、無能なのに俺だけが魔法を使えるなんておかしいだろ?」
それを聞いた剣鬼はニンマリ笑った。
「いいなお前。ならお前の煩悩ごとキッパリと真っ二つにしてやる。もし切れなかったらお前の信念は実現する。
切られたら綺麗さっぱり死ぬだけだ」
剣鬼が剣の柄を見せて嬉しそうに言った。
「やろう」
アッシュが満面の笑顔で答える。
「いやいやいや、なんで二人とも嬉しそうなんだよ。
何よりもなんでそれでラバンさんと剣の勝負に繋がるの?」
商人の息子エディが慌てて言う。
「それはね。ラバンは属性を持たない無色だけど剣の斬撃で魔法を使っているんだよ。
それを証明するんだよ。俺が切られたら斬撃は物理攻撃。切られなかったら斬撃も魔法。
分かりやすいだろ?」
アッシュはニッコリ説明。
「はい? 意味分からん」
叫び返す、エディ。
「どうしてそうなるのです?」
ハイエルフもオロオロして二人を見つめる。
「斬撃を魔法として止めてみる。切られたら俺の勘違いになる」
アッシュはなんでもないように言った。
「でも切られたら死んじゃうんじゃ……」
エディが言い募るのをアッシュは手で制した。
「世界の魔法の認識を変えようとしてんだよ。それくらいしないと誰も認めないだろ」
決然とアッシュは言い、唖然とその言葉を聞くエディとシア王女だった。
☆★☆
校庭では抜刀した剣鬼ラバンと杖を構えたアッシュが立っていた。
「シア殿下。どうしてこのようなことに?」
噂を聞きつけて慌ててやって来た聖女が尋ねた。少し言葉が刺々しい。
「いえ。成り行きとか……」
「止めたのですか?」
肩で息をしながら言ったのは姫騎士だ。
「それがなんだな二人で盛り上がって……」
ハイエルフの少女は肩を落として答えた。
「この方の実験がどれほど危険か」
知っているでしょ?
と言う前に剣鬼がアッシュに必殺の斬撃を放っていた。
容赦のない攻撃。試験で水晶を真っ二つしてしまうような性格なのだ。
「じゃアッシュ、行くぞ死ぬなよ」
剣鬼ラバンはそれだけ言った。
次の瞬間、剣を抜くと剣鬼の雰囲気が変わる。
空気が凍りつく。
剣鬼から殺気が迸る。
バン!
空気が爆ぜる音が校庭に鳴り響く。
「「「あ!」」」
三人の美少女達が悲鳴をあげる。
斬撃はアッシュの眉間に向けて一直線に突撃する。
アッシュは構えたまま動けない。当然だ。身体強化の化け物である剣鬼の攻撃。
物理攻撃の見本のような攻撃だ。
しかし斬撃はアッシュの杖に衝突して両断されると左右に分岐して背後に飛んで行った。
アッシュの背後で爆発した。
ズドドーン!
爆音と土砂が爆散する。
校庭に集まっていた生徒達が悲鳴をあげた。
「凄まじいな」
「あれが噂の剣鬼の飛翔斬か」
「すげぇ」
「化け物」
そんな声。
「で? あの派手な奴は?」
指さす先にはアッシュ。杖を構えた姿で静止している。
「ああ、奴はあれだよ」
答えた人が指さすのは裏山に聳え立つ桜の巨木。学園のシンボルだった魔法の塔を圧倒する満開の花だ。
「あれな」
納得したようだ。
「今年は派手だよな」
指差しと指示代名詞で話は通じているようだ。
昨日の今日、既にアッシュの行状は学園の噂になっているようだ。
「で、今度は何を始めたんだ?」
「いや、わかんねぇよ。斬撃を切るって言ってたが……」
「そう言や切ってたな」
「切ってた」
その人達の言葉を受けて剣鬼が歓声を上げる。
「うっほー! アッシュ。切れたな。なんでそんな軟そうな杖で俺の斬撃を切れんだよ?」
剣鬼は大喜びで叫んだ。
そこに商人の息子エディがやって来た。
二人の間に入る。
「アッシュさん。この実験の意味は?」
エディの後ろからクラスメイト達が覗き込む。
「剣鬼の剣の技は、魔法の一種だと証明したかったんだよ。魔法なら魔法で切れるでしょ?」
自信満々に答えるアッシュだ。
「あの。アッシュさん。魔法で魔法は切れませんよ」
呆れてエディが答えた。
「お互いがぶつかって爆発する? そんな感じです」
そう言いながら周りに同意を求めて見回す。
ハイエルフ、姫騎士、聖女が同意してうんうん頷いている。
「まぁ、良いじゃない。あははは」
アッシュは笑い出した。
「そうこなくっちゃ面白くない。
じゃあ肩慣らしは終わり、本気で行くぞ!」
剣鬼が大声で皆の背後から叫んだ。
「「「まだやるんかい!」」」
校庭に1年Sクラスの非難の声がこだましていた。




