第10話 ダメだこりゃ
「アッシュ、行くぞ」
嬉しそうな声は剣鬼の物だ。
精神集中する。
「万山乱舞……参る」
剣鬼が技名を言って剣を構えた。技の名から幾千万もの巨大な斬撃が放たれる凄い技が繰り出されると誰しもが身を固くした時。
笛の音が校庭に響いた。
ピーヒョロ、ピーヒョロ……
剣鬼の集中が途切れる。はぁーーと大きく息を吐き出す剣鬼。
「はは、最高の技が出せそうだったんだけどな
まぁいっか」
呟きながら彼は、音のする方に視線を向ける。少し寄っていた眉間の皺はすぐに消えて笑顔が広がる。
アッシュも観衆たちも同様に視線を向ける。
大小様々な魔物が笛の音に乗りゆるゆるとアッシュ達の方に近付いてきていた。
見るとその先頭には──
同級生の自称魔導王バインドが巨大な魔物の軍馬に乗って歩いてくる。
彼が横笛を吹いているのだ。
「またなんかくるぞ」
「あれは魔導王の百鬼夜行だ」
「なんか、大名行列みたいなのだよな」
「あれな」
静々と魔物の行列が歩いてくる。
ピーヒョロ、ピーヒョロ
歩いてくる。
まだくる。
少しずつ歩いてきて、アッシュと剣鬼の真ん中を突っ切るように進む。
そして魔導王バインドはおもむろに笛をやめると馬上で叫ぶ。
「止めぬと俺もやめぬ。つまらぬ検証は許さぬ。ささっ、どなた様もお開き! お開き!」
魔導王バインドは叫びながら練り歩いてくる。
そしてアッシュの前で止まる。
「お主。あの美しい木の演出は認めよう。だが、剣技をつまらぬ理論に落としてどうする?
剣には剣の魔法には魔法のロマンがあろう」
魔導王はアッシュを見ながら諭すように言った。
アッシュはただ唖然と馬上のバインドを見上げるだけだ。
馬上のバインドは次に唄い始める。
剣の道 極めし雄を
振りも見で
理を読みまつる
花ぞあはれ
(剣の道を極めた勇者を顧みもせず。理をとくなど、桜の花が悲しいことよ)
バインドはそれ以上何も言わずそのまま校庭を歩み去ってしまう。
その背中はなんの迷いも照れもなく堂々としていた。
彼のゆるゆると歩み去る様をじっと見送るクラスメイト達。
魔導王達が校舎に消える。
「何なんだあれは?」
「さあ、しかし今年の一年坊主は濃いな」
「それな」
タッタッタと走り寄った剣鬼がアッシュに向かって言う。
「アッシュ。なんかやめようか」
そんな剣鬼の言葉など耳に入らないのかアッシュは既に別のことを考えているようだ。
「あの魔物の群れも実は召喚ではなくて魔物が発動しているのかもしれません。
実証したい……」
アッシュの言葉にクラスメイトがずっこける。
「「「ダメだこりゃ」」」




