第77話 ありえない
「みんな待ってくれ」
精霊王子がずんずん進むアッシュを追い越して言う。
その呼び声に全員が立ち止まる。
「恐らくあの角を曲がるとアケマドーレと対峙することになると思う。
まず、シアのためにここまでしてくれたことを感謝する。
アッシュ殿。ここより先はせめて並んで行かせてくれ。姫を救うための決死行だ。そうせねばならん」
精霊王子は沈痛な顔で言う。
「ああ。心強いよ」
アッシュが快諾する。
「待て待て、お前たちだけを先頭に行かせたら一生の不覚、我も並ばせてもらおう」
魔導王子バインドがスッと前に出た。
「お待ちください。その席はわたくしのもの」
そう言いながら聖女マリアがスッと前に出る。ちゃっかりとアッシュの右手に全力で掴まる。
「「「あ」」」
慌てて女の子たちがアッシュに群がる。
「ダメだよ。歩けないよ」
いきなりシリアスな雰囲気が壊れる。
クラスメイトたちは一列に横並びに並んだ。
そして揃って前に進み始めるのだった。
☆★☆
その光景に学園のSクラスの一同は、唖然として大きく開いた口を閉じることができなかった。
「あれは」
「なんだ」
「うそだろ」
あんまりな光景にクラスメイトたちは口々に驚愕の言葉を漏らす。
その光景はあまりにも衝撃的だった。
彼らの目の前には、それだけで山のような巨龍の顔があった。
ドアップと言うにもほどがある。
そしてアッシュたちの前には囚われて酷い目にあっているはずのハイエルフのシア王女の背中があった。
そして、二人はなんと楽しそうに談笑していたのである。
「姫、そんなに惚けておるのか?」
声量を抑えているのだろうがあまりにも巨大な存在の声はとても重々しく聞こえた。
「はい。とても」
恐らく大きな存在に聞こえるように配慮したのだろう。かなりの声量で話す姫の声が背後のアッシュたちにも聞こえた。
「どうも理解できんな。そんなに惚けておるやつが本当にいるのか?」
アケマドーレが巨大な首をゆっくりと傾けた。
それだけで世界が歪んだように錯覚してしまう。それほどに巨大だ。
「はい。それはそれは筋金入りですわ」
シアがまた嬉しそうに答える。
会話から察するに惚けた人のことを語っている。もちろんアッシュのことだとたった一人を除いて皆が気づいた。
「誰のことだ?」
たった一人気付いていない天然なアッシュがシリアスに呟いた。
「「「「「「「「「「お前だろう」」」」」」」」」」
超巨大龍の目の前にいると言う緊張した状態なのに、クラスメイトを始め、アッシュ教徒たち、アリス女王やハイドラコニアンの一団が辺りを憚ることなく、全員によるツッコミが入る。
さすがに、全員のツッコミにアケマドーレもシア王女も彼らの存在に気づいてしまう。
「あ、アッシュ様。来てくださったのですわね」
叫んでシア王女がアッシュに駆け寄ると胸に飛び込んだ。
「おわっ。シア殿下元気?」
アッシュは相変わらず惚けた質問をしている。
その時だった。
巨大な音と共に大地が鳴動した。大地震のように地面が揺れた。
アッシュたちが驚いて前方を見るとなんと超巨大龍が地面に平伏していたのだ。
そしてその巨大な顎から悲鳴が漏れる。
「ありえない」
あれほど威厳に満ちていた鋭い目が畏怖のために見開かれている。その視線はアッシュに釘付けだった。
彼らの頭上にはアケマドーレの悲惨な姿に驚き騒いで右往左往する数え切れないほどの古代龍たちが飛び回っていた。
そして主人の窮地と悟った彼らが大挙して舞い降りて来るのが見えた。
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