第76話 前進
一行はボス部屋に入って絶句した。
真祖アケマドーレがあまりにも巨大だったからだ。
もういっそ山と言ったほうがイメージ通りだろう。
真祖アケマドーレはそれほどに巨大だった。
部屋の中央にいるのだろう。しかし少し霞むほどの距離感がある。
なんとも想定外の大きさもあったものだ。
それほどに巨大な存在はもはやただの山にしか見えない。ところがその山が動いているのだ。
アケマドーレは鋭く足元を睨みつけていた。
そして彼の巨大な顎がゆっくりと開閉している。話しているのだ。その声で世界がブルブルと振動し、溢れ出る威圧感に押し潰されそうだ。
本来巨大なはずの古代龍ですらアケマドーレの周りでは、ハエが飛んでいるようにしか見えない。
規格外な大きさがあったものだ。
我を忘れて上を見上げる一行であった。
「アッシュ。あれはダメだぞ」
先頭を歩いていた姫騎士アテナが走り寄ってきて言う。
「あんなの敵うわけ無いよ」
魔眼のソフィアもアテナと同意見なようだ。
「いくらなんでもあれは切れないなあ」
いつも強気の剣鬼ですら弱音を吐く。
「死出の花にしても、あれはあまりにも……」
魔導王子バインドですら二の足を踏むようだ。
彼らの一行は、総勢数百、ハイドラコニアンが最も多く次いで獣人たち。それに魔法学園のクラスメイトたちだ。
一方ドラゴンたちは数の上でも遥かに多そうに見えるし、何よりも真祖アケマドーレの存在が圧倒的だ。
無理だ。
誰しもがそう思う。
ところが……
「お前たち。何を怖気付いている。神の前で等しく無力と知るがよい」
言い放ったのは水晶の化身レディだ。
「レディ。あなたにはアッシュ様なら大丈夫だと言う確信があるのですか?」
目を丸く開いて聖女マリアが尋ねた。
その質問に自信満々で頷くレディだ。
「当然です。あのデカ物も所詮は我らが創造したただの生き物に過ぎません。一方、我が神アッシュ様は、遥かに偉大な存在。負けるはずがありません。
皆さんはアッシュ様の背後に子猫のように隠れていればよいです」
胸を張って自信満々に宣言するレディだ。
「馬鹿なこと言わないんだよ。レディ。俺なんてただの無力な人間だよ。君たちの力を借りているだけだよ」
アッシュが言う。
「我が神アッシュ様。謙遜は不要です。我らはあくまでもあなた様の存在なくしては何もできない半端もの。
偉大な神がおられて初めて我らは偉大たり得るのです」
そう言いながらレディがアッシュの前にひざまずいた。
それにアッシュ教の教祖ミイがレディの後に続く。
すぐにアッシュ教徒の獣人たちが一斉に跪いた。更にアリス女王以下ハイドラコニアンたちが跪いた。
それは壮観な眺めだ。
立っているのはクラスメイトの六人だけだ。
しかしすぐに聖女マリアがレディの横に跪いた。
慌てて商人の息子エディが跪く。続いて魔眼のソフィア。
そこで堪らなくなったアッシュが一声叫んだ。
「やめて! みんな立って!」
珍しく強い調子でアッシュが言った。
あるいは初めての命令口調と言ってもよいかもしれない。
すると、一斉に示し合わせたように全ての人が立ち上がっていた。
それは本人の意志と言うよりもアッシュの命令に従ったとしか言えなかった。
「アッシュ、お前はやっぱりただものじゃねぇな」
感心する剣鬼ライド。
「本当に神かもな」
追随するバインド。
「もう、やめてよ」
アッシュは弱りきった声でそう言うと首を左右に振る。
「いいね。そう言うのは無しだからね。みんなで行くよ」
アッシュは念を押して、先頭をずんずん歩き出した。
その後にレディとミイが従い、慌ててクラスメイトたちが追随する。
「なんかアッシュの後ろにいると安心だな。あの山のような怪物も小さく感じやがるから不思議だ」
剣鬼ライドがしみじみと言った。
一行はどんどん真祖アケマドーレに向かって行進するのだった。
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