第75話 通り抜け
「アッシュ様。囚人に餌を与えよとの命令が来ました」
ハイドラコニアンのアリス女王がいそいそやって来ると嬉しそうに伝えた。
「ついに来たか」
「よし」
「さあ、勝負だぞ」
クラスメイトたちが口々に叫ぶ。気合いを入れているのだ。
あるいは死地への特攻にもなりかねないのだ。
「わたくしたちもお供します」
アリス女王は勢揃いしている一族を示しながら言う。
「いや、だから俺たちだけで大丈夫だよ」
無頓着にアッシュは言う。
「さすがアッシュ様。きっと勝算があるのでしょうね」
うっとりして聖女マリアが言う。
「もちろんです。我らが神であるアッシュ様に不可能はありません」
水晶の化身レディが強く言う。
「はい。神です」
アッシュ教の教祖ミイも後に続く。
「またやってる」
「ほんと」
「まあ確かにアッシュだしな」
「それな」
クラスメイトたちが、ひとごとのように呟いた。
「もう。みんな買い被りすぎだよ」
アッシュが悲鳴をあげる。
「「行くぞ」」
叫んだのは武闘派の姫騎士アテナと剣鬼ライドの二人だ。
「行くぞ、皆の者我らに付いて参れ!」
何よりも風流を愛する魔導王子バインドが扇子をひらり開いてアッシュ教徒とハイドラコニアンたちに振って見せる。
その合図と同時に数百人に膨れ上がった彼らがズン、ズン、ズンと足並みを揃えて行進し始めた。
先頭には食事を乗せたお膳を掲げたクラスメイトたち。アッシュは例の如くクラスメイトの最後列にほんわかした笑顔で付いていく。
「なんだあれは?」
古代龍の一頭が尋ねた。
「ん? アケマドーレ様が食事を用意させたらしいぞ。派手なことだな」
呆れたような声が答える。
これほど派手に行進しているのに、いやそれが返ってカモフラージュになるのか一行は、誰にも咎められることなく最強の大ボス真祖アケマドーレの部屋にやって来たのだった。
部屋は大き過ぎて全貌が全く分からないほどに巨大なドアが視界を埋めていた。
「どうするの?」
商人の息子エディが途方に暮れてドアを見つめる。
「アリス陛下、こんなのどうやって開けんの?」
ドアを指さしながら魔眼のソフィアが尋ねた。
首を傾げるアリス女王。
「分かりません。こんな真奥まで来たのは初めてです」
アリス女王のとんでもない告白に一同は唖然とする。
なんと、入り口のドアすら開けられないとは……
「あるよ」
そんな声が皆の耳に届いた。言わずと知れたアッシュの声だ。
「「「「「「あるならさっさと出せよ」」」」」」
クラスメイトたちが一斉にツッコむ。
それには答えずニヘラッと笑ってアッシュは無限収納庫から輪っかを出した。
「「「「「「また変身すんのかよ!」」」」」
「ちがうよ。これは通り抜けリング。これをこうやってドアにつけるとこの丸いところから中に……」
アッシュの無双は相変わらずなのであった。
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