第67話 アーマード
「これまでか……」
古代龍ギガズを追ってきた姫騎士アテナは、前方に群れている龍たちを見た瞬間に思わず呟いていた。
さすがにこれは無理だ。
特に真ん中にいる巨大な龍を見た瞬間に強い威圧感を感じた。
その禍々しい雰囲気に姫騎士は思わず身震いしていた。
───あれはダメだな。
☆★☆
「おお、帰ってきた」
空を指差してエディが叫んだ。
その声にクラスメイトたちが空を見上げる。
みるみる真っ赤なアーマーが近付いてくる。
「どうだったの?」
勢い込んで魔眼のソフィアが尋ねた。
「それがとんでもない奴がいてな……」
姫騎士の説明にクラスメイトたちは頷いた。
「その巨大で悪寒が走るような龍ってもしかして伝説の殲滅龍なんじゃないの?」
ソフィアが疑問を呈する。
「残念ながらそんな気がする。真っ黒な巨体、紅い瞳、首に黄色の輪が二つ。伝説の通りだった。
なんとも形容のできない禍々しい存在だった」
姫騎士アテナが言う。
途端にクラスメイトたちの雰囲気が暗くなる。
一人アッシュだけは平常運転でアテナのアーマーの検査をしている。
「アッシュ君。そんなの意味があんの? 殲滅龍が来たらひとたまりもないんじゃ……」
坊主頭をかきながらエディが叫んだ。
「アテナ。あれを試す?」
アッシュが尋ねた。その顔は少しいたずらっ子の顔になっている。口角は僅かに上がっているが目元は笑っていない。
その一言を聞いたアテナは真顔で絶叫する。
「なに? あれを使えだと?」
その様子にクラスメイトたちがギョッとした顔になって注目した。
豪気なアテナ姫がこれほど動揺する『あれ』とは何だ? それは恐らく想像もできない攻撃に違いない。
「無茶なことはダメだぞ」
本来一番無茶をやりかねない剣鬼ライドが慌てて割って入る。
ライドは元を正せばローデン王国の貴族、アテナは主筋にあたる。
やんちゃ姫が無茶をしないか心配なのだ。
「ライド。わたくしが活躍するのが羨ましいか?」
ニヤリと笑いアテナが聞く。
「いえ。殿下が活躍するのは嬉しいですが、無理はなさらないでください」
ライドは真剣な表情で言う。
アテナもそれ以上ライドをからかうようなことはせず、素直に頷く。
「心配するな。十分に気をつけるし、このアーマーがあれば少々のことは大丈夫だ」
アテナはそう言うと胸をドンと叩いてみせた。
ライドは頷かざるを得ない。
そんな話をしていると遥か彼方に無数の黒点が現れる。それは一瞬で近付いてきて空を無数の飛竜で埋める。
「来たな。では、アッシュ頼む」
アテナが言うと、アッシュは彼女の前に跪いて腰に手を当てる。何をしているのかとクラスメイトは興味津々で覗き込んだ。
どうやら何やら仕込んでいるようだ。
「アッシュ君。何をしているの?」
商人の息子エディがアッシュの横に跪いて尋ねた。
見るとアッシュは、アーマーに数本の黒光りする筆のような物体を丁寧に仕込んでいる。
それにはアッシュらしい微細な魔法陣が全体に隈なく掘り込まれていた。
「アテナの指示通り調整したよ」
アッシュはその物体を彼女に見せながら言った。
「そうか、それは楽しみだな」
アテナがニッコリと笑って言った。
アッシュはうんうんと頷く。
「ねぇ、アッシュ君ったら。それは何なの?」
再度、エディが尋ねた。
アッシュは、視線をエディに向けると彼の耳元に口を近付けて何か囁いた。
アッシュの説明を聞いているエディの目が驚きのために次第に大きくなっていく。遂には目がジト目に変わる。
「本当に君は……」
呆れたようにエディが呟いた。
「おい、エディ。説明しろ」
聖女の幼馴染ギネスが強い口調で問いただす。その声は焦りのためか僅かに震えていた。
姫騎士アテナはエディが説明するのを遮って言う。
「ギネス殿も、そう焦らずに。見ての楽しみってことで」
そう言う彼女の顔もアッシュと同様にいたずらっ子の顔になってニヤリと笑っていた。
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