第66話 VS古代龍ギガズ
「いつ見ても壮観だね」
アッシュが呑気に言う。
はぁー
魔眼のソフィアのため息だ。
その横から商人の息子エディが全力で顔を左右に振った。
「いやいやいや、アッシュ君。そんな呑気な、あれはどう見てもただの龍じゃあありませんよ」
エディが全力で忠告する。
しかし、アッシュ達の前には新生アーマーに身を包む姫騎士アテナが剣を掲げて巨大な龍と対峙しているのだ。
姫騎士は「手出しは無用だ」と叫んで飛び出して行った。
しかし、ずんずん近付いて来る龍の大きさが異常だったのだ。
「あの龍は、あんなに大きかったんですね」
空を覆うという表現そのままの存在だ。
「前に見た時は、思ったよりもハイエルフの里から遠いところにいたんだろうね」
アッシュが冷静すぎる説明をする。
「アッシュ様、本当に大丈夫でしょうか?」
聖女マリアが心配そうに尋ねた。
早くも癒しの神聖な魔力が彼女の周りを漂い始めている。
「そうだね。見た感じあの龍の防御魔法よりアテナの魔法の方が上、そもそもの防御力は龍の方に分があるね」
またもや冷静すぎる説明。
マリアの美しい眉が寄せられる。
「はい、そこっ! イチャイチャしてないで何かあったら助けに入るよ」
突っ込んだのは魔眼のソフィアだ。
彼女は一歩前に出て、いつでも加勢に出られる準備をしている。
一方、魔導王子バインドと剣鬼ライドの二人は全く警戒すらしていない。
「「なんで?」」
戦闘が不得意な魔眼のソフィアと商家のエディが同時に優等生のギネスに尋ねた。
ギネスは冷たい表情で二人の顔を見て呟くように答えた。
「アッシュがあれほどのんびり見ているのだ。大丈夫と言うことだろ」
ギネスは説明した後に、何かが気に入らないのか顔を顰めていた。
彼の視線は、アッシュに心配そうな顔で話しかけている聖女マリアに向けられている。
魔眼のソフィアは、ギネスに憐れみの眼差しを向けてから言う。
「エディ。私たちはあっちで見物してるわよ」
ソフィアはエディの袖を摘んでよっこらしょと、腰を下ろして観戦し始めた。
☆★☆
もはや古代龍ギガズは我を忘れていた。
目はハート型になって、見つめるのは姫騎士の胸の辺りだ。
もちろん龍が姫騎士に興味があるわけではない。ギガズが強く惹かれたのは姫騎士アテナが着ているアーマーに対してだ。
彼女のアーマーは陽光に輝き、美しいフォルムのアーマーであるが、ただ美しいだけで古代龍がこれほど惚れ込んで見つめるはずもない。
ギガズの興味を強く引いたのはそのアイテムが持つ驚異的な性能、つまりアイテムの価値に対してだ。
龍種の業のようなものだ。アイテムの価値が高ければ高いほど強欲にそれを欲するのだ。
「トカゲ。そのいやらしい視線をわたくしに向けることは許しません」
毅然と姫騎士アテナが叫ぶ。同時に腰に差した剣をサラリと引き抜いた。
直後、ギガズは今度は剣に目を奪われる。
「人間、その剣はなんだ?」
またもや目がハート型だ。
その剣もまた、アッシュから姫騎士に贈られた剣だ。
細身の刀身が金色に輝いている。
「今度はこの剣に執着するか? 良いだろう、思う存分剣の味を味わうがよい」
姫騎士はそう言うと、ギガズに向けて跳躍した。
ギガズは巨大である。目の前に降り立ったとは言え、まだまだ距離はあるはず。
しかし意にも介さず、ギガズに向けて凄まじい速度で突っ込んで行った。
普通なら届くはずも無い跳躍。しかし、今回は違った。なぜなら彼女が着ているアーマーには筋力を強化するバフが掛かっていたからだ。
アテナは大砲の弾丸のように吹き飛んで行ってギガズの頭を斬り下げた。
その途端にあまりに凄まじい威力にギガズが大きく後ろに吹き飛ばされていた。
「「「「「「おおー」」」」」」
クラスメイトたちの歓声があがる。
ギガズは後ろにタタラを踏んで背中からドサっと倒れて行く。
何が起こったのかさえ分からないようで目を回してしまう。
次の瞬間、慌てて龍は空に舞いあがる。
一目散に逃げて行った。
「行っちゃったな」
誰ともなく言う。
次の瞬間、姫騎士アテナは地を蹴っていた。
すぐに目にも止まらぬ速度で龍を追うように空を駆け始めた。
「「「「「飛べるのかよ!」」」」」
クラスメイトたちが強烈に突っ込むのだった。




