第64話 殲滅龍
古代龍ギガズは、巨大な翼を大きくはためかせた。
もちろん、龍種の翼には鳥のような浮力はない。故に翼の動きに意味は無い。が、ギガズは翼を雄大に広げて羽ばたくその勇姿に意味があると思っている。
そう、彼は馬鹿ではない。
ハイエルフの王女が一番危惧しているほどに馬鹿ではないのだ。
「殲滅龍いるか?」
しかし、何も考えていない。思いつきで行動する。それが種としての在り方。そう彼は信じて行動している。
返事の代わりに、猛烈な火炎が彼の頭を襲った。
「ギャー」
ギガズは驚きで吠える。
もちろん、龍種に龍固有のブレスは効かない。
では全く無傷なのか?
いいや、凄く痛い。
「まてまてまて」
慌ててギガズが叫ぶ。
「坊主、ギャオずだったか?」
殲滅龍の異名を冠する古代龍ディーガが聞いた。
「ギガズだよ!」
間髪入れずにギガズが訂正する。
「小僧。何しに来た」
もう、種固有の能力と言っても良いだろう。相手の話を全く聞こうとしない殲滅龍ディーガが片目だけを開いて尋ねる。
「いや、だからギガズって呼べよ」
「小僧、さっさと来た理由を話さぬと消し炭にしてやるぞ」
互いに人の言うことを聞こうとせずもはや喧嘩腰だ。
「ちっ。せっかく出してやりに来たのに……」
ギガズの悪態に、ディーガが遮る。
「何? 出れるだと?」
「ああ、真祖様が……」
ギガズがそこまで言うと先程の何百倍もの炎が山のように巨大なギガズの全身を直撃したのだった。
☆★☆
「俺様の前であの糞野郎の名前を出すんじゃねぇ」
殲滅龍ディーガは目の前で小さく震えるギガズを睨みつけながら宣言した。
普通なら種固有のブレス攻撃によってこれほど痛めつけられる事はない。それほどにディーガの攻撃力が大きいのだ。
「殲滅龍様。彼はあなたにアッシュと言う奴を殲滅して連れてこいと」
「アッシュ? なんだその枯れた名前の奴は?」
「人間です」
殲滅龍はギガズの答えにムッと口をつぐむ。
「人間をわざわざ俺様に攻撃させる? 奴の本音はなんだ?」
口から煙を出しながら聞くディーガに、ギガズは頭を低くする。それは相手への服従の動作だ。
「殲滅龍様。アケマドーレ様は拉致したハイエルフの娘が持つアーティファクトに執着されているのです」
ギガズが説明する。桜と豚のマスコットに執着していたのは自分だ。
宝物に貪欲なのは龍種の本能のようなものだ。そして殲滅龍も貪欲さにかけてはギガズに引けを取らない。
いきなり目の色が変わっている。
「そのアーティファクトとアッシュと言う人間とにどんな関係がある?」
「そのハイエルフの娘の言うことにはそのアーティファクトを作ったのがそのアッシュです」
それを聞いた途端、殲滅龍は首を高く掲げて吠えた。
「あははは。よし、アケマドーレが執着したその人間を我が物とし、アケマドーレに一泡吹かせてやるぞ。
行くぞ」
一声高く言うと殲滅龍ディーガはギガズと百余りの飛竜を伴って大空に飛び立ったのであった。
☆★☆
「殲滅龍様。奴の魔力の波動はあちらです」
ギガズが尖った顎で前方を指しながら説明した。
「よし、小手調べだ。ギガズ、十頭ほどを連れて、相手の実力を測って来い」
殲滅龍が命じた。
「殲滅龍様、殺してしまっても良いですか?」
ギガズが心配そうに尋ねた。
「ああ、やれるんなら遠慮はいらんぞ」
「殲滅龍様、俺がやっちゃっても怒りませんか?」
恐々とギガズが尋ねた。
「怒らない」
「手加減なんて器用な真似はできませんよ」
ギガズはしつこく聞く。
「良いからやって来いや!」
「はっひぃーー」
ギガズは矢のようにすっ飛んで行った。
ギガズの前方の丘の上には、アッシュ達一行の姿があった。
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