第63話 聖女の誓い
さて、出発の時だ。
「あれ? アッシュの奴はどこに行った?」
聖女の幼馴染ギネスがクラスメイトたちに尋ねた。
「アッシュ様は、眷属たちを連れて里の浄化をされておられます」
答えたのは結晶の化身レディだ。
「「「「「「お掃除か?」」」」」」
クラスメイトたちが声を揃えて叫んだ。
慌ててクラスメイトたちは宿を飛び出した。
そしてもはやお馴染みの奇跡を目の当たりにする。
アッシュの後を追ってやってきた獣人達が鈴をリンリン鳴らして練り歩き、深々と何度も頭を下げている。
先頭はアッシュだ。
豚と桜の魔法陣を大きく空中に描いている。
そしてハイエルフの里は美しい桜が満開に咲き誇っていた。
「美しい」
聖女マリアがポツリと呟いた。彼女の視線はアッシュに釘付けだ。
「やっぱり本当に何者なのだろうな」
呟いたのは魔導王子バインドだ。
「アッシュ様は神です」
確信を持って答えのはレディである。
しかし、もやはそれを否定しようとする者はおらず、アッシュを学園から追放させたギネスでさえもはやアッシュを畏敬の眼差しで見ていた。
「奴の詮索など不要。奴は我らの友。それで十分」
しんみりするクラスメイトにバインドが言う。
「そうですわね。わたくしのアッシュ様は偉大ですわ」
聖女マリアがうっとりとした顔で言う。
「マリアっち。いつアッシュ君があなたのものになったのかしら?」
魔眼のソフィアが少し強めの口調で言った。
「だってわたくしはアッシュ様のものですもの」
聖女マリアがソフィアを振り返って言った。
「いやいや、聖女は神様の代理でしょ。個人のものになっちゃいけないんじゃ」
ソフィアが慌てたように指摘する。
「そうだぞ聖女殿。お主の気持ちは分かるがそなたの立場もあろう」
姫騎士アテナが諭すように言う。
「いいえ。わたくしはアッシュ様にお仕えする事に決めました」
聖女マリアがキッパリと宣言した。
その衝撃の告白に絶句することクラス。全員が彼女とギネスの二人を交互に見る。
ギネスは一瞬、驚愕して立ちすくんだが、すぐに我に返って聖女の前に走り寄って叫ぶ。
「聖女様。何を言っておられるのです?」
「ギネス様。わたくしはセレン聖王国には帰りません。アッシュ様にお仕えします」
聖女マリアが静かに言う。
「まてまてまて」
異様な雰囲気になるのを遮ったのは魔導王子バインドだ。
「ひとまずシア殿を救出してからだ。ここで皆が争っても仕方あるまい。
聖女殿。そなたの気持ちもその後に話されてはいかがかな?」
バインドの目は優しい。聖女の気持ちが誰にも覆すことはできないと彼には分かっているのか。
ギネスは惚けた顔でバインドを振り返り、いったん何かを言おうとして、頭を左右に振る。
そして意を決したようにクラスメイトたちを見回した。
クラスメイトたちの視線はとても優しく彼を包み込むかのようだ。
ギネスは一つ大きく頷いてみせると前の聖女の方に向き直った。
「聖女殿、いやマリア。私はあなたが本気でそれを望むのなら、幼馴染として応援するしかない。
しかし、それはイバラの道ですよ」
ギネスは神秘的な静かさを持つ声で言う。
「ギネス様。ありがとうございます」
聖女マリアが深々と頭を下げた。
二人の幼馴染の決意にクラスメイトたちは優しく守るように見つめていた。
彼らは美しい桜の木々に囲まれて新たな時代の幕開けを演出しているかのようだった。
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