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笹竜胆之影武者〜影の勇弟(ゆうてい) "源義門"〜(真 転生源氏英雄伝)  作者: 綴 K氏郎
序章 大蔵合戦、それは保元へのいばら道
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義平駆ける

亀ヶ谷館には普段と変わらない時が流れる。しかし、それは表向きはだ。


ガヤつきながら笑顔で運び込まれる莚の中身は、最も物騒な物の象徴なのだ。


「・・・。」


「義平様。我が父、義明及び鎌倉党、千葉に上総は協力に了承致しました。その他土豪もこの流れに任せるようです。」


いつもなら愛する弟のことばかりで馬鹿のように見えかねないが、今ばかりはひとかどの武将であった。しかし、そうさせるにも義平に譲れないものがあった。


「弟君は・・・未だ目覚めませぬ・・・。」


パキ・・・・ッ!


持っていた扇子が二つに泣き別れて手から落ちる。冷静ではあるものの義平の怒りは既に頂点を超えていた。


「俺の中であいつらが許されることは無い。命乞いには絶対応じない。皆殺しだ。」


濃密な殺意にそばの祥寿姫も朱若と義平本人を案じるような顔つきをする。


「義澄、重弘を呼べ。大蔵館周辺の地理をもう一度洗い直す。そして、奴には戦うための理由にいち早く掴ませる。」


「はは、仰せのままに。」


「実平、そなたは朱若の家臣たちをこの亀ヶ谷に招集しろ。朱若の看病する人間と重臣だけは念の為残しておけ。」


「はい、そのように・・・。」


未だ目覚めない弟を案じるように額に手を置いて地面を見てため息が漏れる。


「義平様・・・。ご自愛なさってください。」


そばに優しく妻が寄り添う。


「ありがとう。これでも俺は大分お前に支えられている。朱若にしてくれたことは絶対に許さない。どうにかして戦をするだけの確信が欲し

い・・・ただそれだけだ。」




期待の情報は来ないまま、日は進むのだった。


















ーーーーーーーーーーーーーーー


久寿二年(1155年) 葉月十五日


亀ヶ谷館には見覚えのある男達が招集されていた。


「よし、集まったな。」


中央の少し高い位置の上座に座る義平はその男たちの顔を見渡した。


「そなたらが朱若自らの目で見出した郎党か。」


「筆頭、大庭景義にございます。」


景義が平伏したまま、言上するとその他家臣も、さらに頭を深く下げる。


「景義は・・・父の交で知っておる。久しいな。」


「はい、数年振りでございますな。」


「すまないが、家臣たちを紹介してくれ。」


(朱若の家臣たちは何分その実態が掴めない。)


朱若の家臣たちはあまりどのような人物がいるのかは公にされておらず、景義や義隆などの知られている人物は除いてもその可能性は他所から見れば未知数なのである。


「源義隆、まぁ、儂は説明不要じゃろう。」


「ああ、大叔父上。この度は参上感謝するぜ。」


義隆は軽くうなづいてさがった。


「源荒加賀入道が末子!源季邦にございます!

得意なことは槍仕事です!」


(ほう、彼の者があの義国の末息子か。噂には荒武者と聞いていたが、顔に似合わずだな。)


「藤原範信にござる。基本は槍仕事をしている。」


「ほう、なら他には何を任されている?」


「ああ。まだ、軽くだが勘定を任されている。」


「なるほど。」


勘定と聞いてあまりピントは来なかったが、義平は戦前に色々考え事は増やしたくなかったので次に移った。


「畠山次郎庄司重能にござる。」


「そなたは知っておるぞ。重弘殿の嫡男であろう。」


「存じておられましたか・・・。」


「ん?さっきから汗をかいているが熱いのか?」


「あ・・・いえいえ、お気になさらず・・・。こういう場にはまだ慣れていませぬもので。」


重能は首筋に脂汗をかいていた。


「・・・そうか。あんま緊張しなくていいぞ。俺は堅苦しいのは嫌いだからな。」


「ありがたき気遣い痛み入ります。」


重能が安堵して下がったと同時に少年が進みでる。


「信太小次郎です。朱若様には頭を使うことを任されておりました。」


「貴様が戦略を仕込んでおったのか?」


「毎度私だけとは言えませぬが・・・。」


義平はあの朱若が見出した頭脳を持つこの少年を測りたくなった。


「なら、もし秩父と戦をするとなった時そなたはどうする?」


愕然過ぎる問いに景義は一瞬焦って義平を止めようとしたが小次郎は景義を手で制した。


「某の心配は要りませぬ。まかせてくだされ。」


「あまり気負うんじゃないぞ。」


「はい。」


義平の前まで進み出て腰を下ろす。


「地図はありませぬか?」


「地図をだせ!」


三浦義澄がいそいそと持ってきた地図を広げて義平の傍にさがった。


「秩父や義賢のいる大蔵館は武蔵嵐山とその傍を流れる川に囲まれまさに天然の要害です。まず兵が集まった時点でここを落としにかかるのは難しい。だから、ここは館から出てきて南にある平野にて陣を構えたところに我らも大きな陣を引いて目を引かせまする。相手とぶつかりあった時に釘付けになってきた所を後方の兵で遊軍を編成して左側面から叩く。さすれば互角の兵力とはいえ、相手は崩れ申す。仮に戦略を仕掛けられても、遊軍を念の為二つほど作って居れば臨機応変に戦えましょう。」


「若いのになかなかだな。」


義平は感心して小次郎を褒めた。

それを合図とみて小次郎は軽く会釈してさがった。

与力の土肥次郎は義平の末席に戻り、朱若たちは一通り、紹介を終えた。


「そなたらにはここでわれらと手を組む人物を紹介しておこう。入ってくれ。」


髭面で右目の瞼に切り傷のある男が現れた。


「秩父重弘にござる。」


「父上!」


重能が歓喜混じりに父と顔を合わせる。


「しばらくだったな。」


「重弘には秩父党の状況を逐一教えてくれている。」


義平は突然黙り込んで意を決した様子で切り出す。


「朱若のことは絶対に許せない。俺は徹底的にやる。だから、一度俺の傘下に入ってはくれないか。朱若が目覚めたその時は戻って構わない。だが、今は・・・俺の弟の為に俺と戦って欲しい。」


「・・・。」


一同は苦渋の顔で沈黙する。


(如何する?景義。)


「我々も、覚悟はするべきですな。」


「ほう。」


義隆の怪しい笑い。それを他所に決意した景義は義平を真っ直ぐ見た。


「我ら一同、秩父との戦。朱若様の仇を討つため義平様に従いまする。」















ーーーーーーーーーーーーーーーー


「あれでよかったのか?景義。」


義平との対面を終えた亀ヶ谷館の廊下で義隆は景義に尋ねる。


「所属だけは・・・ある方がいいのでは?」


「所属だけは・・・か。面白い。」


「朱若様はきっと戦までに戻ってこられる。あの方は常々この秩父との戦を予見しておられた。あの方にとってこの戦は何か重要なもの握っていると踏んでおられる。あの方自ら参戦しないということは決してありませぬ。」


「朱若がのう・・・。」


「小次郎も私と同じであの策を言上致しました。」


「そうなのか?ある意味的を射ておったが。」


「小次郎は最良策はひとつと言っておりました。かねてより朱若も同じことを言っていたようです。それは・・・」










「兵が集まりきる前に大蔵館に奇襲を掛けることです。」













「奇襲・・・か。」


「しかし、奇襲だと朱若様が間に合わぬかもしれない。だからこそ時間を稼ぐために事前策でござる。」


証拠はないが確信はある。

我らが主人はここぞと決めた場所に必ず現れる。


残された我ら家臣はこの場の主人の指示でないとしても全力で主を支えなくてはならない。


源朱若という主人なら必ず旋風を巻き起こしてくれる。


景義はそんな気がした。
















ーーーーーーーーーーーーーーーー


既に日は周り真っ暗な大蔵館に響き渡る雑な寝相とうるさいいびき。


「ッ!?」


途端覚醒する。


「義平殿。」


「重弘か。如何した。」


重弘は左の口角を少しあげた。


「この頃大蔵館に入っていた物資が兵糧から武具に変わり申した。言い逃れできませぬ。」


「大義は俺たちにあるな。」













「時は・・・満ち申した。」












「そうか。」









短く、心得て寝床から立ち上がる。



「戦じゃ!戦の準備をしろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



真夜中の亀ヶ谷館に怒号が響き渡る。


そばで寝ていた祥寿姫が義平のもとに駆け寄る。


「義平様!戦準備とは・・・!?」


「すまん祥寿、今は時間が無い。戻ったら話す。とりあえず湯漬を持て!」


急造で仕込まれた湯漬をサラサラと流し込んで直垂の上に鎧を着込んだ。


「馬は!」


「ここに!」


「準備が出来次第俺に続けぇぇぇぇぇ!!!」









義平は闇夜の中に駆けた。目指すは・・・

































「敵は秩父重隆!敵は・・・大蔵館にありィィィィィィィッ!!!」













久寿二年(1155年)葉月十六日未明



























大蔵合戦勃発ーーーーーーーーーー。












それは、相手はおろか味方すらも静かな夜に酔いしれていた中での始まりであった。




















一人の若大将の突然の出陣によって・・・



































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