運命の子、駒王、確約されし奸雄
「う〜。」
「はいは〜い。ご飯が食べたいのね〜。」
大蔵館の一角には口に白飯を運ぶ新妻と童の姿があった。
「あっ・・・!」
パリーーーーーーーーン!!!
不意に皿に触れた駒王丸の手でバランスを崩して皿を割ってしまった。
「あらもう〜。お皿割っちゃって・・・。」
不意に駒王丸の触れた手で皿を割ってしまった。
小夜は呆れつつも優しくたしなめ、気にせずにぼんやりしている唯我独尊と言わんばかりの駒王丸に微笑ましく感じた。
ただ砕けた土器の物語る無常さがいささか引っかかる。
(この頃きな臭いようですが、この皿が関係しないといいのだけど・・・。)
「駒王には関係ないですよね〜?」
「うきゃ!きゃ!」
あやすと顔をしわくちゃにして笑う姿がまた小夜には愛おしい。
その童が未来を左右する運命の子とは知らずに・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「くくく・・・なかなかよくできてるではないか。」
「ええ、万事抜かりなく進んでおります。」
六波羅の主の心はまさに流れる水のように掴みどころがないじゃじゃ馬の暴れ川。
「まさか、資金援助しただけでここまで容易く動かすことが出来ようとはな。」
「重隆めは野心はあれど決行に踏み切る度量と勇気がありませんがため、少しの餌をぶら下げれば傀儡にするのも易きことです。」
「まぁ、俺とそなたには要らぬ理解であるしのう。」
秩父に金を出すと言った時には初めは割と驚きはしたが、ここまで大っぴらにことが起きようとは考えつかなかった。
この目の前の主には母君の腹の中にいる前からの縁があるが、やはり改めてその賢さを思い知らされる。
「成長・・・致しましたな。」
「なんだ?改まって。俺の覇道はまだまだこれからだ。貧しいくせに無駄にボロボロの誇りだけを上から振りかざす畜生貴族共を足蹴にして、散々見下してきた武士が栄華を極めたその瞬間をまざまざと見せつける。これほどまでにこの日の本に蔓延る悪しき身分への最上の復讐が見れようか。」
家貞は清盛のこの上流貴族への憎しみに近いものに心当たりがある。
「いや〜、殿はまだあのことをお気にされておいでで?」
家貞はわざととぼけた調子を装う。
「よいよい。そなたは俺を馬鹿にしないことはわかっておる。遠慮は要らん。」
そこには普段悪巧みをする二人の阿吽とも言うべき信頼が垣間見える。
「なるほど。では申す。殿は『高平太』のことや、『白河院の落とし胤』の件について根に持たれてないのでございますか?」
清盛はその質問が来ることを分かっていたように納得しつつその上で少し考えて告げる。
「今は気にしていないな・・・と言いたいところだが、よく考えると俺の夢の始まりはあのころの恨みやら憎しみやらが薄れ忘れた後もいつの間にか俺の中で体を動かしている何かになってるのかもしれないな。」
幼少期、清盛の周囲は家族や家臣達を除いて彼を快く思わなかった。
当然、もはや腐敗した貴族主義の公家たちは我先にと罵る標的として彼を専ら馬鹿にした。
もう、過ぎた二十年前の話のはずなのに当時はやるせない怒りを爆発させて、その憎悪が薄れた今でも少なからず自身の中で強い衝動を巻き起こしていることに清盛は思わず自身の青さを苦笑した。
「だが、あの経験がなければ俺の心は磨かれることは無かったししょうもないことですぐ折れたつまらんやつになってたかと思うとな。」
「我が主はなかなか底のしれない大器のようだな。」
「大器であることは俺の夢でまず前提なんだよ。」
白い歯を見せてイタズラな笑みを浮かべる姿はまだ高下駄をはいた頃の無邪気な少年を彷彿させた。
「まぁ、それとして目の前のことだ。ここで大蔵館の居候一族には義平と潰しあってもらわねばな。秩父諸共消えてもらえれば好都合。」
「源氏は義家公の頃より衰退の一途をたどっておりまする。執拗に源氏の凋落を助けるのはなぜにござる?」
清盛にとって武士の頂点というのはさっきも言ったことだ。同じ武士の源氏を潰すのは矛盾していることなのだ。家貞は疑問を呈さずにはいられない。
ただ、清盛には違った。
その理屈はあくまで至上。
その理由はただの一つのみである。
「頂点を極める武士は、俺だけでいい。いや、平氏の・・・俺の一族が日ノ本で天下唯一の至高を目指すんだ。」
平清盛。
日本史上、最初の秩序の破壊者。
まさに今、その歴史へと駆け上がり始める。




