騎士として
「———————え?」
「———————なっ!?」
これには後ろで話を聞いていた青年も流石に反応せざるを得なかった。訳が分からない少女は必死に説明を求める。
「ちょ、ちょっと待って下さい!いきなり出頭命令って・・・!私なにもしてません!理由はなんですか!?」
「すいません、罪状はこの場では申し上げられません」
「どうして答えられないの!?私が何をしたの!?」
「これ以上の言い訳は出頭拒否と公務執行妨害として取り扱います」
「どうしてっ!?」
「捕まえろ」
男たちは抵抗する少女を無理矢理捕まえようと中に押し入ってきた。少女が捕まえられそうになった次の瞬間、後ろから伊勢の良い声が響いた。
「待ちなさい」
「ん?誰だアンタは?」
「お客さん・・・」
それはなんと後ろでずっと話を聞いていたあの青年だった。男たちはその声に動きを止め、青年と向き合う。そして青年は口を開いて問う。
「話は聞いていた。この店主の出頭命令だな?だが些か不明な点がある。確認させて頂きたい」
「なんですかね美しいお嬢さん?」
「まず、令状について。警察が直接容疑者に出頭命令を伝える場合、必ず令状を提示し、罪状の内容を確認しなければならない。貴方たちはなぜ、罪状の確認も、令状の提示もせずに彼女を捕縛しようとしているのか」
「・・・」
「もう一つ、警察には民間人の家に伺う際は警察手帳の提示も義務付けられているはずだ。見ていたが貴方たちは手帳の開示も行わず公務を執行しようとしたな?」
「・・・」
青年は男たち静かに睨みつけて言う。
「これらを踏まえて聞かせて貰う。貴方たちは本当に警察の者だろうか」
男たちはずっと青年を睨んで黙っていた。だが青年を見て黙っていた口が不機嫌そうに歪んだ。
「チッ、どうやら俺たちは何か不運に見舞われたようだ。本当なら閉店して1人になった娘を攫って届けちまえばそれで仕舞いだったのによ。夜遅く、目撃されても良いように警官の格好までして完璧にしてたはずだった。
だがなんの間違いか、作戦決行日に限ってアンタという異分子が現れちまった。女、邪魔したお前もただじゃおかねぇぞ」
「やはりなにかおかしいと思えば、お前たちは盗賊か。答えろ、依頼主は誰だ?なぜ店主を狙う?」
「アンタの賢さには恐れ入る、だが俺たちにも事情がある。依頼主の名は明かせねぇ。なぜそこの娘が目的なのかは俺たちは聞かされちゃいねぇし、聞く気もない。金さえ貰えりゃなんでもする、それが俺らのポリシーだ」
男は不機嫌な顔から更に圧を強めた顔に変えてそう言う。
「理解した。だが店主は渡せない、僕はこの店主に恩がある」
「残念だが見ちまったアンタももうターゲットだ。ただでさえヤな依頼なんだ、とっとと終わらせるために娘は貰うし、アンタには死んで貰う」
『し、死ぬって・・・!?』
男たちはそう言って腰からナイフを出して構える。
「そうか・・・店主、僕の後ろへ」
「は、はい!」
そして少女は青年の後ろに回り、青年は背負っていた長物を手に取って戦闘の準備をする。
だが少女は青年の腕をそっと掴んだ。青年は振り返って少女の心配そうな顔を見て、優しく笑う。
「大丈夫です。僕に任せて下さい」
そして青年はまた盗賊たちに向き合う。そして先頭の男の男が飛び出してくる。
「間違っても俺らを恨むなよ」
だが青年は突撃してくる男のナイフの刃部分を持っていた長物で正確に殴って砕いた。男は一瞬で砕かれたナイフを見て思わず声を上げる。
「はぁ!?ぐッ!!」
青年はその隙を見逃さず、強烈な回し蹴りを浴びせる。咄嗟に腕でガードするもその力は体格以上に強く、10メートルは吹っ飛ばされてしまった。
「はッ!?リーダー!?」
「遅い、仲間が戦っているならカバーに来るもの」
「なッ!?」
残りの男たちはその光景を見て一瞬酷く動揺していた。まさかリーダーの男があっさり吹き飛ばされるとは思っていなかった。その隙は青年が距離を縮めるには十分な時間だ。
男2人は距離を詰めてくる青年に焦ってナイフを横薙ぎに払うも、正確に見切られてしまい、青年の髪を掠めるに留まる。
青年が1人のナイフを片手で払い落とし、1人は長物で殴られ気絶。もう1人は素早い青年の動きを追えず、巧みに操った長物は既に男に向けられており、先端部分で顎を突かれ怯んだところを肘で鳩尾を射抜かれ気絶した。
「なんだよコイツ!?」
最後に残った男は慌てながらも少女の元まで急いで向かう。
「せめてこのガキだけでもッ!!」
「きゃっ!」
だが青年は冷静に片手で長物を持ち直す。青年は長物に巻かれていた布を軽く振る。するとそれに呼応するように簡単に布が外れ、中から銀色に輝き鮮やかな華の模様が描かれたボルトアクションライフルが現れた。
「選択を間違えたな」
青年がライフルで正確に男の頭部目掛けて発泡する。
バンッッ!!
「ひっ!ひぃッ!」
弾はちょうど男の眼前を通り過ぎ、当たるスレスレのところで店の壁に当たる。そして跳ね返ったゴム弾は男の頭目掛けて思いっきり被弾した。
「がッ!」
「これで最後、目標から目を離しては返って自殺行為ですよ」
青年は何事も無かったかのようにライフルに布を再度巻き付け直し、少女の元に駆け寄った。
「お怪我はありませんか?」
「凄い!凄いよお兄さん!カッコ良かったよ、ありがとう!」
少女は思わずそう声を掛けていた。その言葉を聞いた瞬間、青年の頭にある言葉が響いた。
“————カッコ良かった・・・!”
「えっ、君は・・・」
だが————。
「クソッ!テメェ何者だ!」
なんとが立ち上がってきた。リーダーは吹っ飛ばされながらもガードをしていたことによってなんとか意識を保っていた。だが体はもう吹っ飛ばされだ影響でボロボロになっていた。
「中々復帰しないと思ったら...なにしてたんです?仲間はもう寝てるぞ」
「うるせぇ!俺たちがただの一般人相手に無傷でやられる訳ねえ!答えろ!テメェは何者だッ!」
「いえ貴方が合図も無く突撃するから仲間も対応が遅れたんだろう。貴方はもうちょっと連携というものを—————」
「うるせぇうるせぇ!!誰なんだてめ...ぇは....」
だが威勢の良かったリーダーの顔は青年の胸のシンボルを捉えた瞬間、どんどん青ざめ、声のトーンを落としていく。
「お、お前!その!その『シンボル』はぁ!」
すると青年は体を動かした影響でローブが弛んでいることに気づいた。というかフードを付けずに今まで戦闘していたことに気づいた。慌ててシンボルを隠して言い訳をする。
「あっ!いや!その、これは・・・」
「と、とぼけるなッ!そのシンボルは、国家の選ばれた者した与えられない唯一無二の物だッ!」
「え!?」
思わず少女も驚いてしまう。
良く見てみれば今までローブで隠れていたが、青年のローブの下は正式な軍服を着ていた。
少女はあまりの衝撃についつい青年の顔を覗き込む。
青年は居心地があるそうにしていたが、そこまで迫られると青年は諦めたように肩をすくめた。そして心を決め、すぐに威勢よくその名を告げた。
「良いだろう、この場を借りて名乗らせて頂く。僕の名は“リコグレース・エル・フレンダ”!祖国モーゼ『元維持派』副将及び第六部隊隊長だ!」
少女はいきなりの告白の内容に今まで緊張が全て吹き飛んでしまった。
「えぇ!ええぇっ!?」
「なにぃぃぃッ!?」
少し離れたところでリーダーの男も驚愕の声を上げていた。
祖国モーゼ国軍『維持派』、この国の命運を賭けた戦争『第一次魔銃大戦』を終結に導いた英雄派閥だ。その数は『保守派』や『革新派』に比べて10分の1程度だが、1人1人の戦闘力は他の派閥を優に超えており、特に6人の親衛隊である部隊長は並外れた銃と魔法の技術を持ち、戦場で大活躍した。
戦争後は、『維持派』の1人部隊長である“キルシスヴァルド・ラストオーダー”という人物が国のトップに立った。彼女はモーゼを東西南北の4つの区に分割し、その内北部を保守派エリア、南部を革新派エリアへと指定し、それぞれの発展と交友を命じた。
そのあとは各エリアの様々な法の改正と国の復興を最優先に活躍しているという。
“なんでこんな所に『維持派』の、それも副将ともあろう人がこんなところに••••••••”
「出鱈目だッ!」
リーダーの男はまだ納得していないようだ。
「確かに半年前、『維持派』の人物が突然消息不明になったと世間で大騒ぎになった。その時は国のトップが総力を出して捜索するほどにだ!だがなぜそんな大物がこんな辺境地にいるッ!?あり得ねぇだろッ!」
「•••••••••」
リコグレースはしばらく口を開かなかったが、やがてこう口にする。
「一つ、僕はそのことで正しておかなければならないことがある」
そして真っ直ぐ目を向け、次の言葉を言う。
「僕はもう『維持派』じゃない。さっきも述べたように、僕は『元維持派』だ。そこは間違えないで欲しい。だから僕は大物なんかでもないし、誰かに称えられる存在じゃない」
「はぁ?それがなんだってんだ」
「僕はもう国家の人間じゃ無い、だから貴方達にどうこうするつもりはない。だからここは、引いて欲しい」
「•••••••••ッ!」
「•••••••••••」
しばらく2人は睨み合っていたが、やがてリーダーの男が「やれやれ」と言い、観念したようにその場に座り込んだ。
「わかったわかった、もう聞かねぇよ。俺たちは負けたんだ、敗者に口無しってな。そら、煮るなり焼くなり好きにしな」
その声を聞くと、リコグレースは口角を上げ、ジト目で少女の顔を伺う。少女は意味を理解すると、答えを返すように頷いた。
「いや、何もしない。さっきも言ったように僕はもう国の者ではない。それにこれは店主の意思だ、だから僕にお前たちをどうこうすることは出来ない」
「なんだと・・・!?」
リコグレースに合わせて少女も微笑んで言葉を放つ。
「今回はお兄さんのお陰で無事でしたが、結構的には何もなかったので貴方達をどうすることもしません。次からはもうしないで下さいね」
「う、ぁ・・・」
男はしばらく呆然となっていたが、やがて頭を下げた。
「はぁ・・・。こんな無垢な子供を狙っていたとは・・・。本当にッ、情けねぇ!今回は本当に、すまなかったッ!」
そして青年と少女は顔を合わせて微笑んだ。




