急変
どうやらお客さんのようだった。少女は急いで時計を見ると時計は閉店前の21時を5分前を指していた。
本来なら、やんわりとお断りする。この人物のために閉店時間を遅らせるということは自分の時間も相手に提供するということと同義だ。
だが今回は話が違った。
「大丈夫ですよ、どうぞ入って下さい」
「ありがとうございます」
ローブの人物は礼儀正しくお礼をしながら少女に続いて食堂に入る。
声質的に男性っぽいが女性のように高い。
少女は客をキッチン前のカウンター席に連れていくと、水を渡して注文を伺う。
「ありがとうございます」
「いえ大丈夫ですよ。注文はどうされますか?」
「僕はあまりお金を持っていないので1000リル以内で食べられる料理を頂けますか?」
「私が決めちゃいますけど、大丈夫ですか?」
「ええ、店主さんに決めて貰えればそれを頂きます」
「かしこまりました」
少女はキッチンに戻ると手慣れた手つきで今日最後の料理を作り始める。
卵を割り、黄身を混ぜて少しふわふわになるくらいにフライパンで温める。そして皿に温めていたチキンライスと、卵をライスの上に乗せ、デミグラスソースをかける。おまけにパクチーを乗せて、きのこのスープをカップに注いで完成。
「お待たせ致しました、この店で1番安いオムライスです!」
「おお!ありがとうございます。でも店主さん、スープはメニューのオムライスに付いていませんが・・・」
「私からのサービスです」
「ふふ、分かりました。有り難く頂きます」
そしてローブの人物はフードを被ってまま料理を食べようとした。しかし、少女は慌ててそれを止める。
「お客さま!」
「はい?」
「料理を食べるときはフードは外して頂けますか?」
するとローブの人物はびっくりしたように声を上げる。
「フ、フードをですか!?」
「はい、ご飯を頂くときはフードを取るのがお食事のマナーですよ」
少女は笑顔で答える。ローブの人物はまだ渋るように聞いた。
「ど、どうしてもでしょうか?」
「はい、私はお食事を提供するときは料理を食べるときのお客さまの顔を伺うようにしてるんです。
私は人を笑顔にしたいと思って料理をお出しします。お客さまの笑顔を見れれば私の日々の励みになりますし、もし笑顔に出来なかったら反省して料理の味を見直す。これが私の料理人として大事な決まりなんです。ですからお顔が隠されるのは私のポリシーの反してしまいます。なのでフードは外して頂けますか?」
「・・・」
少女の想いを聞いてローブの人物も黙り込んでしばらく悩んでいたが、やがて意を決して答えた。
「・・・分かりました。夜分遅くに料理を作ってもらって、ご好意でスープも貰ったのであれば、僕もそれに答えなければなりません」
そしてそのお客さんは少し恥ずかしがりながらゆっくりフードを外した。
「・・・あの、変ではないでしょうか?」
「わぁぁ・・・」
思わず少女は感動の声を上げていた。
髪は天色のようで空に綺羅星の欠片を混ぜ込んだ綺麗な色をしていて、腰ほどの長さ伸ばし、首元付近で束ねられ、前髪の左側は三つ編みに編まれている。金色の瞳は本物の黄金のように煌めいていて、宝石のよう。左耳にはアウイナイトの耳飾りがつけられている。
そして若々しいのと同時にどこか幼さを感じさせる顔立ちはまるで—————。
「・・・女の子みたい...」
「いえ、僕はちゃんと男ですよ」
そう言って青年?はぎこちなく微笑んだ。そして確認するかのように少女に問う。
「これで大丈夫でしょうか・・・?」
一気にモジモジして始めて、どうにも落ち着かないつかないようだ。
『どうみたって女の子にしか見えない・・・』
だが少女はハッとして言葉を返した。
「あ、ありがとうございます!召し上がって貰って大丈夫ですよ」
「では・・・」
そしてようやく青年は料理にありついた。青年はオムライスを口にした瞬間、思わず綺麗な目を丸くした。
「お、美味しい!美味しいですよ店主さん!」
「それはとても良かったです!」
その言葉を最後に青年はもくもくとオムライスを頬張っていた。
青年の食事をするときの表情はとても純粋で、オムライスを口に含んだと思えば頬に手を当て噛み締める。スープを飲み始めたかと思えば舌を巻いていた。もうフードをつけていないこと忘れてるようでとても無邪気。それはまるで子供みたいで、見ている側にすればこれほどほっこりするものはないだろう。
青年は僅か5分ほどで全て完食した。
「本当に、美味しかったよ店主さん!ご馳走様です!こちらは代金です」
青年は綺麗な目を更に輝かせて言う。
「ええ、お粗末様です」
「では、僕はこれで・・・」
そうして彼は立ち上がるのを少女は急いで止めた。彼にはまだ聞きたいことがあるのだ。
「ちょっと待って!」
「どうされましたか?もしかして代金足りませんでしたか?」
「あいや、それは大丈夫なんですけど、あなたにどうしても聞きたいことがあるんです。まだ時間はありますか?」
「僕に?ええ、それは十分にありますが・・・」
そして少女はキッチンから彼の隣の席に座ると、真っ直ぐな眼差しで、意を決して彼に聞く。
だが・・・。
「あのね、前に私と—————」
コンコンコンッ
突如また入り口からノック音が聞こえた。
「・・・ごめんなさい、ちょっと出てきますね。少し待ってて下さい」
「・・・ええ、構いません」
少し変な空気になってしまった。それにしてもまたこんな時間に誰だろうか。閉店時間を書いてる看板は入り口に置いてあるのだけど・・・。
そして少女はまた入り口の扉をそっと開ける。
「どちら様ですか?」
するとそこには大柄な体格の男が4人立っていた。4人共頭に官帽を被り、この国の警察官の格好をしていた。
『警察!?』
そして先頭の男が口を開く。
「夜分遅くにすいません。我々は警察の者です。アルフレデリアさんで間違いないでしょうか?」
「ええ、間違いないですが・・・」
急な警察の来訪に少女に戸惑いを隠せなかったが、それ以上の違和感が頭によぎっていた。
『こんな時間に警察?』
そして警察を名乗る男は衝撃的なことを言う。
「貴方に国からの出頭命令が出ています。我々にご同行願えますか?」




