2年の時を経て
戦争終結から2年後〜
ある日の朝、大国モーゼの西部にあるカーメル地区の森に少し大きめの屋敷があった。その部屋の一室のベッドで少女は鳥の囀り声を聞いて目を覚ました。
「ふぁ〜、今日も起こしてくれてありがとう〜」
時刻は午前6時を少し回った頃。いつもと同じ時間に起きれている。
「ん〜!」
少女は腕を伸ばして寝ている間に固まった体を解していく。ある程度伸ばしたら、次は着替えと洗顔を行う。少女が先に行うのは洗顔。起きたら最初は眠気を飛ばしてやる気を出すためだ。洗面台で顔を洗い、瑠璃紺色の瞳を瞬かせる。
「よしっ」
着替えは至って簡単で、ブーツを履いて、白のブラウスを着た後、黒紐を胸元でリボンを作り、上から紺色の肩掛けワンピースを着るだけ。ワンピースのスカートは足首元まで長く、ちゃんと綺麗か鏡に向かって揺らす。最後にレモン色の髪は丁寧に解かしたあと黒リボンの髪留めでサイドテールを作って終わり。
「良い感じ!」
そしてそれらの身の回りのことが終われば店を開くための下準備をするため、玄関の踊り場に降りればすぐ食事場へと向かう。
少女はテーブルに掛かっている布を1枚1枚取っていき、カーテンを開け、扉を開ける。外の食事テーブルの分も布を取るとランタンに火を灯していく。食事場の準備を終え、ついにキッチンで食事の準備を始める。昨日からの作り置きを確認し、足りない分を足して、残っていない料理は慣れた手つきで最初から作り始める。
だが少し問題が起きてしまった。少し材料が切れてしまっていた。
「うわ!やっちゃったぁ!んーと、どうしようかな?今から買い出しに行けば間に合うかな?」
時計を見てみれば今は午前8時。
「開店が10時で町まで片道15分。必要なのはレタスと牛乳ときのこ。必要なものは全部八百屋で買えるから・・・。ギリギリ大丈夫だね」
少女は急いで買い物鞄を持ち、町に向かって屋敷をあとにした。
少女は町に向かって森を歩いていく。木々は少女の何倍も高さのあるものが多く、太陽の日差しを隠してしまいそうなほどだが、木々の葉から漏れ出てくる日差しが心地良いくらいに暖かい。
すると目の前から鹿とウサギが少女を待っていたかのように近付いてきた。
「わぁ、2人ともおはよう!」
少女が頭を撫でてやると、2匹は嬉しく目を細め、耳を揺らした。
「ちょっと待ってね、はい!昨日の材料で余っちゃったにんじん!じゃあ私急いでるからまたね!」
少女がそう言い別れると2匹は少女のほうを向いてお礼を言うように頭を下げた・・・。
しばらく森を歩いていくと、ついに街が見えてきた。このカーメル1番の街、ランテラ街だ。
白レンガで作られた家々の屋根からは煙がもくもくと出ていて、市場は朝8時であってもとんでもない賑わいを見せていた。
市場に入ると早速横から声を掛けられた。
「おっ!メルちゃんじゃないか!今日も可愛いねぇ、買い出しかい?」
「オールさん!おはようございます!ちょっと材料切らしちゃってて・・・」
声を掛けてきたのは少女が小さな頃から世話になっている男性のオールさん。普段は牧場を営んでいて、市場では卵やお肉を売っている。レストランを開店するにあたってとても手助けしてくれた少女にとっての恩人の1人だ。
「今日はなんだい?お肉切らしちゃったの?うちの買ってくかい?」
「ごめんなさいオールさん。今日切らしちゃったのはお肉じゃないの」
「そうかそりゃ残念だ!レストラン最近行けてないけど順調かい?」
「とても順調ですよ。この前はお客さん100人くらい来てくれててんてこ舞いですよ」
「大盛況じゃないかそうか良かった!じゃあ今日は暇作って久々に行ってみるかね」
「味の腕上げたつもりなので是非どうぞ!」
「そりゃ楽しみだ!辛口評価してやるよ!」
そして少女はオールさんと別れたあと色んな人から声を掛けられた。ありがたいことに声を掛けてくれる人たち全員がレストランの客になったことのある人たちだ。
「自分で言うのもなんだけど人気者だな・・・」
そんなこんなで、目的の八百屋に着いた。すると奥から40歳くらいの女性が出てきた。
「おや?メルちゃん!久しぶりね〜」
「ミサさんお久しぶりです!料理の材料が買いたくて!」
「良いわよ、言ってごらん」
「レタスと牛乳と、じゃがいも4つください!」
「了解、ちょっと待ってね〜」
ミサも少女が小さな頃から世話になっている人物で、レストランを開くための料理スキルを伝授してくれた恩人だ。他にも相談役に向いていて、少女の生活に困った時に良く相談に乗ってくれていた。
ミサは手慣れた様子でレタスと牛乳を買い物鞄にいれ、じゃがいもを5つ入れて、少女に手渡す。
「はい、全部で460リルね。じゃがいも1つはおまけしたげる」
「ありがとうございますミサさん!はいっ!」
「まいどあり、レストラン大丈夫?1人で生活出来てる?」
「大丈夫ですよ!なんとかレストランも生活もできてます!」
「良い返事ね。最近はレストランに行くまでが大変で通えてないからね〜、歳って怖いわぁ」
「私が料理を持っていきましょうか?」
「大丈夫よ。無理させる訳にはいかないし、行くなら自分の足で行きたいもの」
「・・・分かりました!是非来てください!」
「うんうん、メルちゃんも頑張り過ぎないようにね。前にも言ったけど無理は1番の敵だからね」
「はい!」
そうして少女は気持ち良く、八百屋をあとにするのだった。
「元気ねぇ」
「ミサさん、あの子は?」
「あらマリさん来てたのね。知らないの?森のレストランの小さな店主さんよ」
「あんな小さな子供が1人でレストランをしてるのかい?大変だろうに」
「そうよ、でもしっかりしてる良い子よ」
「誰も止めないのかい?」
「最初は止めたんだけど、あの子自身がずっと夢に見続けてたことだからね。『あの人みたいに人を笑顔にするんだ!』とか言っちゃって・・・。心配にはなるけど、やらせてあげて正解だったわよ」
「良いねぇ、夢がある若い子がいて。私なんか戦争が終わって2年経ってもこの先が心配でね・・・」
「そうねぇ、国の復興は少しずつ進んでるけどお偉いさんたちはまだ揉めあってるからねぇ。確か王族の生き残りがいなくなって誰を建てて国を進めるかって問題になってるのよね」
そう言ってミサは目を細くして元気に去っていく少女の背中を見て呟く。
「心配事は出来るだけ早くなくなって欲しいものね」
※
屋敷に着くと早速残りの準備に取り掛かって、下準備を終わらせる。
「ふぅ、お店を始める前から疲れちゃった・・・」
時刻は午前10時前。
そろそろ開店頃だ。店の外を見ると既に数組のお客さんが来ていた。せっかくもう来て並んでくれているのだ。待たせる訳にもいかない。
そして少女は定員エプロンに着替え、気合いを入れる。
「よし!今日も頑張るぞ!」
顔をパチパチと軽く叩いて、店の入り口の扉を開ける。
「いらっしゃいませ!これより森のレストラン『フレミア』!開店します!」
※
「ご馳走さん、やっぱりメルちゃんの料理は美味いや!辛口なんて出来ないな!」
「ご来店ありがとうございましたオールさん!また来て下さいね!」
時刻は午後21時に近づいており、閉店は21時なのでもうすぐ閉店の時間。
今日は本当に疲れた。オールさんが帰り、やっと休憩出来る。今日はこの前の100人を超えたんじゃないだろうかと思うくらい人が来たと思う。辺りは暗く、フクロウが鳴いている。残り10分くらいあるが、まぁもう多分お客さんは来なそうなので閉店準備を始めることにした。
だがいざ始めようと立ち上がった瞬間——————。
コンコンッ。
オールさんで最後だと思って閉めていた入り口の扉からノック音が聞こえた。
「え?まだお客さんがいたのかな?」
自分の経験上、夜にはあまり人が来ない。
場所が場所なだけに、夜の森に来る人はそうそういないからだ。
そうして少女はそろそろと扉に向かった。そしてゆっくり扉を開けた。
「・・・はーい、あれ?」
だが扉の前に人の姿はなかった。不思議に思って外へ出てみるが・・・。
「誰かいますか?」
・・・・・・
「おかしいな・・・」
「すいません」
「ピィッ!!!」
突然後ろから声を掛けられたために悲鳴に近い声を出してしまった。
驚いて後ろを振り向くと、入り口扉の横に全身をローブで纏い、背中に布で覆った長物を背負った恐らく人がそこにいた。
“え?そのローブ・・・”
ローブの人物は焦って少女に声を掛けた。
「すいません!中々気づいてくれないもので声を掛けたのですが驚かせてしまった。申し訳ありません」
「だ、大丈夫です・・・」
今のでドッと疲れが出てきた気がするが人の前なので顔には出さない。そして今は本当の気持ちを押し殺していつも通りの笑顔で対応する。
「それで、どうされましたか?」
そしてローブの人物は静かに聞いた。
「——————今まだお店は開いていますか?」
——————と。




