2人の始まり
それから少しして、男は他3人を起こし、店から出て行く所だった。
「・・・さっきも言ったが依頼主のことは明かせねぇ、これは俺らのポリシーだ。いくらアンタたちに恩があっても、いくら依頼主がクズでもそこだけは曲げれねぇ。すまねぇな」
「あぁ、承知している。それと、僕のことは他言無用で頼む。人に知られたくないんだ」
「わかった。なぜ姿を消したのか、なぜ正体を隠すのか諸々知りてぇが聞かないでおこう。店主さん、改めてすまなかった」
「大丈夫ですよ、次来る時はお客さんとしていらして下さい!」
「あぁ、そのときは礼金を持って訪れるとしよう。そして気をつけた方が良い、理由はわからねぇがアンタは今回みたいに狙われることが多くなりそうだ」
そして男たちは夜の森に溶けるように姿を消した。
「やっと一段落しましたね、今日の夜は予想外のことが多い気がします」
「ええ、ですが・・・」
リコグレースが店を見渡す。少女も続いて見渡すと、そこには嵐が去った後のように壊れた机や椅子などの家具や、壁がボロボロになっていた。
「ボロボロ、ですね・・・」
「・・・これは僕の責任でもあります。もう少し周りに配慮して戦えていれば・・・」
「そんなことはありません!私が助かったのは他でもない貴方のお陰です!壁は修繕できますし、机や椅子の替えは倉庫にあります!気を落とさないで下さい!」
「それでも、僕は恩人の貴方に迷惑をかけてしまったことが許せない。何か手伝わせて欲しいんです、駄目だろうか?」
そうやってリコグレースは頭を下げた。
少女は困った。少女にとっては青年の責任など一切感じていないのだ。だが青年の熱意は凄いもので、願いを聞いてくれないと一生動かない気さえした。
すると少女はなにかを閃いたように顔を上げると近くの椅子に腰を下ろした。
「それを答える前に少し話さない?」
そう言うと少女は隣の椅子をポンポンと叩いた。
「は、はい?」
「いいから!」
困惑するリコグレースの腕を引っ張って座らせると、少女はちょっと悩んだ。
「何から話せば良いかな・・・」
「・・・」
「・・・うん!まずは、ありがとう。私を助けてくれて」
「・・・はい。お安いご用です」
「ふふ、変わらないんだね。その返事」
「変わらないって言うのは・・・」
「そうだよね、4年も前だから、忘れてもおかしくないよね。貴方は私のこと、覚えてる?」
「・・・もしかして君は廃屋で助けたあの時の?」
「覚えてるのっ!?」
「つい先程、感謝を言われた際に聞き覚えのある言葉だなと思いまして。少しだけ思い出したんです。でも、そうか、あんなにか弱かったあの女の子が貴方だったとは・・・」
そこでリコグレースは懐かしいものを見るような目で、少女を見る。
「私!貴方のお陰で今凄く楽しいんだよ!色んな周りの人から助けてもらって、自分のやりたいことを見つけて、たくさん嬉しいことがあった。
これも全部、貴方のお陰なんだよ?いま生きらてるのも、私に夢をくれたのも、貴方のお陰。だからね、ずっとお礼が言いたかった。“ありがとう”って」
リコグレースは眩しい笑顔に、思わず恥ずかしくて顔を背けた。
「そんな、僕は、大したことはしてないですよ」
「そんなことないよ。私は、貴方に助けられたときの私みたいに、人を笑顔にさせられるようにって思ってこのお店を開いたんだから」
そして少女は青年の方を見て言う。
「私ずっと貴方にお礼が言いたくて、ずっと探してたんだよ?でも色んな人に聞いても『知らない』って言われちゃって困ってた。でも今日貴方に逢えて、名前も、どんな人かも知れた。
まさか貴方がお国の偉い人だったなんて・・・。そりゃそうよね、そんな人にそうそう会えないもんね。ねぇ、どうしてお仕事辞めてこの店に来たの?」
青年は一瞬渋るような顔をしたが、すぐに口を開いた。
「それは、僕に、国の上の立場というものがあまりにも重すぎたからです」
「どうして?」
「僕は、上から指揮をするような立場に向いていない。どちらかというと、指示を受けて動く方が向いています。そんな僕には上という立場があまりにも苦しかった。それが一つ目の理由です」
「他には?」
「二つ目は、僕は国の立場そのものに相応しくないからです。誇れることではないですが、僕は1番戦いで戦果を上げたと言われました。人の命を奪って積み上げた戦果を、です。最初はなんとかそれで国を平和に出来るならと、耐えてはいたのですが・・・」
「うん・・・」
「実際に戦いで勝利をすると、次に国民にこう言われました、『戦争を終わらせた英雄』と。人の死体を作り上げた人間に、国民はそう言うんです。僕は『英雄』というのをとても良いこととして捉えることが出来なかった。そのせいで本当の正義というものが分からなくなって、逃げてしまったんです。
ここに辿り着いたのは本当に成り行きで、住む場所も、食料もないので何日も野宿をして、食べ物を探して、歩き続けて...そんなお腹が減ったときにこのレストランの話を聞いたんです」
そして青年は沈んだ目で小さく震える両手を見つめ、声を出す。
「僕は、沢山命を奪ったこの手が怖い、そして僕が勝手なことをしたせいでまたきっと多大な迷惑をかけたと思うと、少し後悔してるんです。僕はまだあそこにいなきゃいけなかったのかって、考えてしまう・・・」
それを見た少女は俯いて、青年の前に立つと頭を下げた。
「ごめんなさい、貴方に嫌なことを思いださせたよね」
「いえ!気になさらず!勝手に落ち込んでるだけですから—————」
「でもっ!」
いきなりの大きな声に思わず青年は目を丸くした。そして少女は真剣な顔で青年を見ると、言った。
「私は貴方が正しいと思う」
「えっ?」
「確かに戦争で人は死んじゃうことは悲しいこと。でもそれを貴方だけが背負うものじゃない!皆んなで背負って先に進むの!
貴方は背負うのが嫌になったんじゃない。他の人の分まで背負おうとしたの。だから“それ”から逃げたって私は貴方を責めないわ、だって貴方も人間だもの。自分の分だけ背負えば良いの。だからその先は自分の思うやりたいことをその分だけすれば良いのよ」
「・・・ッ!」
そして少女は青年の手を掴むとあまりにも眩しい笑顔で言う。
「だって貴方はこの手で私を助けてくれたでしょ?」
「あっ・・・」
青年は酷く動揺して、感動で肩を震わして、やがて泣いた。
「あぅ、あぁっ!うぅ、ぐすっ・・・!」
青年は言葉に出した以上に溜め込んでいたのだろう、腕で涙を擦っても擦っても、涙は止まらない。
「泣いて良いんだよ。私の恩人が言ってた、『無理は1番の敵だよ』って」
青年は少し泣いて、落ち着きを取り戻すとぎこちなく微笑んだ。
「ありがとう貴方にそう言って貰えるのなら、僕は今も胸を張って生きれる」
※
「お見苦しい所を見せて申し訳ありません」
「大丈夫だって。むしろありがとう、本当のことを言ってくれて」
「それで僕はなにをしたら良いのでしょう?」
「うん、決めたよ。じゃあね、これからお店を手伝うのと、私を守ってくれない?」
「え?それはどういう?」
少女の衝撃の告白にまだ理解が追いつかない青年は思わず聞き返してしまう。それに対して少女は不思議そうな顔をして続ける。
「そのままの意味よ?貴方、いま住む家が無いんでしょう?だから私が住む家を提供するから、お店を手伝って欲しいのよ。最近ちょっと忙しくて人手が欲しいと思ってた所なのっ!
それに、さっきの男の人たちが言ってたように何故か私これから狙われるかも知れないのよね。だから貴方が側に居てくれたら安心だなって!」
「それは有難い提案ですが、壁とか椅子は・・・」
「さっきも言ったけどそれは大丈夫よ。ただ私は困ってる貴方になにかしてあげられないか考えてこう言っただけ。もちろん嫌なら断ってくれても構わないよ!」
青年はまたもや意表を突かれて固まっていたが、すぐに答えを示した。
「ふふ、優しくて意地悪な提案ですね。であれば断ることは出来ません。これから僕は貴方のボディガード兼定員になります、よろしくお願いします店主さん」
「よろしく!お兄さん!あでも『お兄さん』じゃちょっと呼びにくいな、どう呼べばいい?」
「どう呼んでもらっても構いません、今は貴方が僕の上司ですから」
「そう?じゃあこれからは『リグ』って呼ばせて貰うね!『リコグレース』だから『リグ』!良いでしょ?」
「はい、とても良い名前です。ところで店主のお名前はなんと言うのでしょうか?」
「あっそういえば私の自己紹介がまだだったよね。私って興奮すると物事をすっ飛ばしちゃう癖があるから・・・」
そして少女は改まった様子でリグの前に立つと自身を持った目で堂々と答える。
「私の名前は“メルアマリード・アルフレデリア”!街の人からは『メル』とか『メルア』って呼ばれてる!これから貴方の店主になる女よ、よろしくね!」
「はい!こちらこそお世話になります、メル店主」
そうして森の小さな店主と一人の傭兵は初めて出会って6年経ったいま、こうして二人は運命の再会を果たした。そして少女メルアの店に一人目の定員としてリグが仲間になるのだった・・・。
年齢
メルア:14歳
リグ:19歳




