第9話 波乱の開幕! 南領地 vs 中央都市
中央都市に向けて出発した。
馬車に揺られること丸一日。
前夜の豪華な食事でパワーがみなぎっている生徒たちは、長旅の疲れなどまったく感じていない様子だった。
他の西領地や東領地は、二日前から出発しているらしい。南領地は中央都市に比較的近い場所に街があるため、一日で到着できた。
翌朝には宿屋に到着し、荷下ろしも無事に完了していた。
「よし! 今日は明日に備えて体力温存だ! 無理のない範囲で都内を見学してきていいぞ。ただし、必ず三人以上で行動すること。昼飯までには戻れ。いいな!」
「「はい!」」
誠が声をかけると、生徒たちは元気いっぱいに駆け出していった。
誠とイリスも、少し街を見て回ることにした。
誠にとっては、見るものすべてが新鮮な光景でイリスにとっても、誠とここへ来るのは久しぶりの散策だった。
昼食を全員で食べるため、補欠の生徒を含めた二十二人分の席を飯屋で予約する。
「二十二人! 競技大会の生徒と先生方かい?」
「ああ」
イリスが南領地から来たことを告げると、店主は気さくに笑った。
「あそこは強いのかい? 今回の中央は強いから、負けないよ!」
「そうか。それは楽しみだな」
そんな軽口を交わしながら、予約を済ませた。
※ ※ ※
昼食の時間になると、全員がきっちり揃った。
「よし、食べるか!」
賑やかに食事を取る中、生徒の一人が尋ねてきた。
「先生、対抗戦の組み合わせは、まだ分からないんですか?」
「それは明日、現地で確認することになっているそうだ」
(まあ、事前に相手を知ったところで、今のあいつらに高度な戦略まで読み切るのは難しいだろうがな)
誠がそんなことを考えていると、昨年も出場した魔法科の二人と剣術科の三人を中心に、自主的に生徒を集めてミーティングを始めていた。
実に頼もしいチームワークだ。
もともとは弱小扱いだった柔道科のメンバーにとっても、他学科の経験者から話を聞けるだけで、いい勉強になるだろう。
昼食後、「少し偵察をしてくる」と言って、イリスが出かけていった。
中央都市に顔が利く彼女の存在は、本当に心強い。
今回の宿屋は、南領地の生徒たちと教師陣で貸し切りになっていた。
イリスを待つ間、全員が食堂に集まり、明日に備えた準備を進める。
リーダーとなった剣術科四年のカジュームが、全員に対抗戦の流れや出場順などをテキパキと説明していた。
「今夜は、ゆっくり休むように!」
そう言いはしたものの、大会前夜にそう簡単に眠れるはずもないことを、誠はよく知っていた。
そして夜。
戻ってきたイリスが、気になる情報を口にする。
「西領地からの到着が遅れているらしい」
途中で野獣が出現し、その討伐に時間がかかっているのだという。
護衛隊も数名付き添っているとのことなので、大事には至らないと思うのだが……。
※ ※ ※
ついに迎えた、大競技大会の当日。
中央都市の中心に鎮座する巨大コロシアム――闘技場は、早朝から押し寄せた超満員の観客で熱気に包まれていた。
地鳴りのような歓声が響き渡り、空気をビリビリと振動させている。
観覧席の最上階、一際豪華な特別席には、この魔国を統治する魔王と、イリスを除く三人の四天王たちの姿があった。
その圧倒的な存在感は、グラウンドに立つ生徒たちにまで伝わるほどだった。
各領地から集結した精鋭チームが、闘技場の中央へと行進してくる。
その中でも、ひと際周囲の視線を集めていたのが、我が南領地チームだった。
世間から長年「弱小」と侮られてきた南領地。
だが、今の彼らは違う。
誠のもとで地獄のような特訓を乗り越え、実戦に特化した圧倒的な力を秘めた「最強」の集団なのだ。
さらに、そのチーム内でも一際異彩を放っていたのが、白い柔道着を身にまとった柔道科の生徒たちだった。
「おい、見ろよ。あの変な白い服を着た連中はなんだ?」
「南領地だろ? 剣も持たずに、素手で戦うつもりか?」
観客や他校の生徒たちから、戸惑いや嘲笑の混じった声が漏れ聞こえる。
だが、誠と生徒たちは動じることなく、静かにその成果を国中に示す時を待っていた。
※ ※ ※
しかし、開会式を前にして、予想外の事態が発生する。
本来、南領地の初戦相手となるはずだった西領地チームが、途中での野獣討伐に時間を取られ、いまだに到着していなかったのだ。
「これ以上、開始を遅らせるわけにはいかぬ」
魔王の判断により、開会式は西領地を待たずに執り行われた。
そして大会の組み合わせも急遽変更となり、開幕戦は「北領地対東領地」の対抗戦から行われることになった。
誠は観客席の最前列で、生徒たちとともに第一試合を見守る。
「みんな、よく見ておけ。北も東も『従来の戦い方』の最高峰だ。相手の詠唱のタイミング、剣の大振りの癖、間合いの取り方――すべてを目に焼き付けろ」
「「「はいっ!!」」」
審判の合図とともに始まった「北対東」の試合は、激しい魔法の爆炎と剣戟の音が交錯する、まさに激闘となった。
会場は大歓声に包まれる。
しかし、誠や柔道科の生徒たちの目には、彼らの「詠唱中の隙」や「型に頼った大振り」が、はっきりと見えていた。
(いける……! 俺たちがやってきた特訓のほうが、はるかに実戦的だ)
生徒たちの目に、静かな自信が宿っていく。
激闘の末、第一試合は北領地が7対3で勝利を収めた。
※ ※ ※
そして、第一試合が終わってもなお、西領地は到着していなかった。
ざわつく会場の中、審判が中央へ進み出て、衝撃のアナウンスを響かせる。
「西領地の到着が遅れているため、試合順を変更する! 第二試合――前回覇者、中央都市対南領地!」
「なっ……!? いきなり中央とやるのか!?」
会場が一気に揺れ動いた。
優勝候補筆頭の「中央都市」と、弱小と馬鹿にされている「南領地」。
誰もが中央都市の圧倒的な勝利を疑わないカードだった。
中央都市の生徒たちも、どこか余裕の笑みを浮かべながら入場してくる。
だが、誠はニヤリと口元を緩めた。
相手が油断している今こそ、最高の奇襲になる。
誠は柔道科の生徒たちの背中を、ポンと力強く叩いた。
「よし、行ってこい。ナメてかかってくる中央の鼻を、俺たちの『実戦柔道』で明かしてやれ!」
「「「はいっ! 叩きのめしてきます!!」」」
不敵な笑みを浮かべた南領地の精鋭たちが、ついに絶対王者・中央都市が待つ巨大な舞台へと足を踏み出した




