第8話 三学科対抗戦と実戦柔道
校内対抗戦に向けて、誠は思考を巡らせていた。
魔法科に対しては、どうしても距離(間合い)がある。ならば、動体視力と俊敏性に自信のある者を当てればいい。
一方、剣術科との間合いは、お互い様だ。相手が木剣とはいえ、まともに食らえば骨が折れても不思議ではない。
そこで誠は、肘に装着する小盾のような防具を用意してはどうかと、生徒たちに提案してみた。
しかし――。
「いつものスタイルで戦いたい!」
生徒たちからは、あっさりと拒絶されてしまった。
会場となる闘技場の床は、固い石畳だ。柔道の投げ技で叩きつければ、相手は間違いなく気絶するか、重傷を負うだろう。
誠は念のため、イリスに確認する。
「イリス、この試合の勝敗の判定はどうなるんだ? 相手が戦闘不能になるか、『参った』と言ったらでいいんだな?」
「ああ。怪我人が出てもヒーラーがいるから、心配はいらないぞ」
「なるほど……。なら、遠慮なく思い切り投げ技を決められるな」
対抗戦には、魔法科・剣術科・柔道科から、それぞれ十名ずつが出場する。
魔法科と剣術科の代表の中には、誠の部活動――つまり道場に顔を出していた生徒も数名混ざっていた。
さすがに彼らを相手にするのは、一筋縄ではいかないだろう。
誠はそう踏んでいた。
そして迎えた初日。
例年通り、魔法科対剣術科の対決が行われる。柔道科のメンバーは全員、観客席から試合を見学することになった。
魔法科は弱い順、対する剣術科は強い順で選手を送り出してきた。
間合いを取る魔法科の生徒に対し、剣術科の生徒が距離を詰めようと走り出す。
魔法科の生徒は闘技場の隅まで下がり、詠唱を終えて魔力を蓄えている。対する剣術科の生徒は猛スピードで突進し、残り五メートルまで迫っていた。
木剣とはいえ、勢いよく突っ込んでくるその迫力は凄まじい。
次の瞬間――。
放たれたファイアーボールが、見事に剣術科の生徒の胴体を捉えた!
……が、同時に振り下ろされた剣術科の木剣もまた、魔法科の生徒の頭部を的確に捉えていた。
判定は、剣術科の勝利。
初日の結果は五対五。
お互いに「実力順」どおりに白星を重ね、見応えのある好試合となった。
※ ※ ※
翌日。
柔道科対魔法科――前日の勝者五名を含む、十名による試合が執り行われた。
柔道科の出場順は、くじ引きやメンバー同士の相談によって決めたらしい。
剣を持たない柔道科の生徒たちだったが、対魔法科における間合いの詰め方はダントツだった。
相手が呪文の詠唱を終える前に一気に距離を詰め、そのまま投げ飛ばしてしまう生徒まで出る始末。
まさに、日頃の特訓の賜物だった。
結果は七対三で、柔道科の圧勝。
ただし、実力順による勝利というよりは、相性や運も味方した結果だった。
※ ※ ※
一日の休息を挟み、最終日は柔道科対剣術科の決戦となった。
剣術科は今年も例年どおり、「強い順」で選手を送り出してくるという。
対する柔道科も、大将から順番に出場することになった。
初期位置の間合いは、ほとんどない。
素手で、どれだけ木剣に対抗できるかが勝負の分かれ目だった。
木剣は真剣と違って軽いぶん、振り回しやすい。しかし、その軽さゆえに一撃の重みはそこまでない。
みぞおちへの一撃や、首への強い打撃さえ避ければ、試合中に分泌される脳内物質も手伝って、痛みはほとんど感じないのだ。
相手が正面から木剣を振り下ろす、あるいは突いてきた瞬間――。
その木剣を掴んで支点にし、そのまま豪快な投げ技へと持ち込んでいく。
結果は八対二。
柔道科の完勝だった。
観客席で見学していたイリスは、
「さすがは誠の生徒だ!」
と、有頂天になって喜んでいた。
ちなみに、柔道科が敗れた二敗の相手は、誠の部活動に通っていた生徒たちだった。
(さすがに、あいつらは強くなっているな……)
敗北にも、どこか誇らしさを感じていた。
誠は、彼らの成長に頼もしさを覚えるのだった。
そして数日後。
学校にて、大競技大会へ向けた南領地校の代表メンバーが正式に決定した。
結果は、魔法科から三名、剣術科から三名、そして柔道科から四名。
計十名の代表選手が選ばれた。
それに加え、各科から数名ずつの補欠も選出された。
柔道科が圧勝したとはいえ、初めての参加ということもあり、今回は他学科とのバランスを考慮して、この人数で折り合いをつけることになったのだ。
「今年の大会は楽勝だな!」
イリスは、鼻高々に胸を張っていた。
※ ※ ※
そして迎えた、大会出発の前夜。
誠とイリスは、代表に選ばれた十名の生徒に加え、惜しくも選考から漏れてしまった柔道科の生徒六名を含む、計十六名を自宅に招き、盛大な壮行会を開いた。
イリスの遠征も無事に終わり、自宅で落ち着いて過ごせるようになったこともあって、誠のステータスウィンドウには、手つかずの豪華な食材が大量に眠っていたのだ。
(自分の生徒を、えこひいきしすぎか?)
一瞬、そんな思いも頭をよぎった。
だが、イリスも「祭りだ!」とばかりにノリノリで手伝ってくれている。
落ち込んでいたかもしれない落選組の生徒たちも、この温かい心遣いに、一気に表情を明るくさせていた。
今回の豪華な料理は、明日からの領地対抗戦の会場に持ち込む昼食――いわゆる弁当の試食も兼ねていた。
スタミナ抜群の絶品料理を食べさせるのだ。
これで勝てないわけがない。
テーブルに並べられた、見たこともないごちそうに、生徒たちは目を輝かせていた。
「先生、いつもこんなに豪華な食事をしているんですか!?」
「すごい! 美味しすぎる!」
「これ、明日の昼も食べられるんですか!?」
「こんな料理、初めて食べました!」
「すごい」の連呼と歓声が飛び交い、前夜祭は大いに盛り上がった。
明日からの本番に向け、生徒たちの士気は、これ以上ないほど高まっていた。




