第10話 初優勝!四天王のガルバの挑戦
「始めっ!」
審判の合図とともに、闘技場に爆音と熱気が弾けた。
初戦の相手は「中央都市」。
前回大会の覇者でもある中央都市の選手たちは、伝統的な型と威力を誇る強力な魔法や剣術を次々と繰り出してきた。
だが――誠が鍛え上げた南領地チームの敵ではなかった。
魔法科の生徒が詠唱を開始した、その一瞬の隙を見逃さない。
柔道科の生徒は、ゴム帯特訓で培った爆発的なスタートダッシュで、一気に懐へ肉薄する。
石を包んだ布製のボールを、極限まで狭い空間で避け続けたことで鍛えられた動体視力と俊敏性は伊達ではない。
相手が呪文を放つ前に手首を掴み、電光石火の支釣込足や背負い投げで、硬い石畳へと叩き落としていく。
さらに、剣術科の猛者に対しても、大振りの一撃を放ちきった瞬間に生じる「死角」と「隙」を見極め、懐へ飛び込んだ。
木剣の打撃を恐れず、鋭く懐へ侵入して体を密着させる。
そうなれば、長い武器など、ただの邪魔な棒切れに過ぎない。
腕を極め、軸足を払い、鮮やかな大外刈りが決まるたびに、豪快な衝撃音が闘技場に轟いた。
「な……なんだ、あの技は!? 魔法も剣も使わずに、あの強力な騎士や魔導士たちを圧倒しているぞ!?」
観客席から驚愕の声が上がる。
最上階の特別席に座る四天王や魔王までもが、身を乗り出して試合を見つめていた。
前回覇者であり、魔国の精鋭が集う中央都市。
そして、北領地。
どちらの生徒たちも、南領地の圧倒的な勢いを止めることはできなかった。
そして迎えた大将戦。
南領地の柔道科の生徒が、見事な一本背負投を叩き込み、審判の手が大きく上がった。
「勝者――南領地!!」
その瞬間、巨大な闘技場は一瞬、静寂に包まれた。
「優勝――南領地校!!」
「あの弱小と侮られていた南領地が……?」
「あの武器も持たない奇妙な格闘術で、絶対王者を倒したというのか……!?」
誰もが目の前の光景を信じられないといった様子で固まっていた。
だが、やがて事態を理解した観客たちから、地鳴りのような万雷の拍手と、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
「すごいぞ、南領地!」
「あの格闘術は一体何なんだ!?」
歓喜に沸く闘技場の中央で、柔道科の生徒たちは涙を流しながら抱き合っていた。
そして観客席の誠に向かって、誇らしげに拳を突き上げる。
その姿を見つめながら、誠もまた、胸の奥から込み上げてくるものを感じていた。
(よくやったな……お前たち)
まさか、自分が教えた柔道が、ここまで通用するとは思っていなかった。
だが――。
物語は、ここで終わらなかった。
表彰式の最中、納得がいかない表情で前へ進み出たのは、北領地を率いる四天王の一人――「豪腕」のガルバだった。
「待て!」
突然の大声に、会場中の視線が一斉に集まる。
「生徒たちの戦いは見事だった。……だが!」
ガルバは、誠を睨みつける。
「魔法も剣も使わぬ怪しげな技で勝つなど、魔国の四天王として認められるか!」
そして、誠を指差した。
「その技を教えたという指導者――山田誠! 貴様、俺と勝負しろ!」
会場がざわめく。
「模範演技として、俺と闘ってみせろ!」
「無礼だぞ、ガルバ!」
イリスが怒りを露わにして、一歩前へ出ようとする。
だが、誠はそれを静かに手で制した。
生徒たちが、血の滲むような特訓の末に掴み取った優勝だ。
ここで指導者である自分が逃げてしまえば、生徒たちの努力や「実戦柔道」の価値まで疑われてしまう。
「いいでしょう。お相手します」
誠は静かに答えた。
※ ※ ※
こうして始まった模範試合。
闘技場の中央で、二人が対峙する。
北領地を率いる四天王ガルバは、巨躯を誇る猛者だった。
その身体は、まさに筋肉の鎧。
圧倒的なパワーで知られるガルバは、素手で一礼をする誠に対し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
次の瞬間――。
一気に間合いを詰めてくる。
(速い……! だが、攻撃の軌道は大振りだ!)
ガルバは片手で木剣を豪快に振りかざし、そのまま誠へ叩きつけた。
左へ半歩。紙一重の差でそれをかわした。
木剣は誠の足先、親指すれすれをかすめ、石畳の床へ激しく突き刺さった。
さらにガルバは、空いたもう一方の丸太のような太い腕を伸ばし、誠の襟元を掴もうと迫る。
その瞬間――。
誠の目が光った。
伸びてきた腕の力を殺すことなく、巧みにいなす。
そして、その腕の袖口と襟を正確に掴み取った。
深く軸足を踏み込み、腰をガルバの巨大な懐へと鋭く滑り込ませる。
(技の切れ味なら、毎日イリスと特訓してきたんだ……!)
一瞬の静寂。
誠は背中でガルバの重厚な巨体を受け止めると、膝のバネと腰の回転を一気に爆発させた。
――ズドンッ!!!!
豪快な衝撃音が、闘技場全体に轟いた。
四天王ガルバの巨体が、美しい放物線を描いて空を舞う。
そして次の瞬間――。
ドゴォンッ!!
ガルバの背中が、石畳の床へと激しく叩きつけられた。
「一本!!」
審判の声が響く。
だが――。
会場は、完全に静まり返っていた。
何が起きたのか理解できず、一瞬だけ天井を見上げるガルバ。
そして、そのまま白目をむいて気絶してしまった。
誠は呼吸ひとつ乱さず、すっと立ち上がる。
衣服の乱れを静かに整えると、石畳に横たわる四天王へ向かって、深く一礼を捧げた。
誰も声を発することができない。
ただ一人、イリスだけが――。
「……ふふっ」
口元を緩め、誇らしげに誠を見つめていた。




