第31話 犯罪は冤罪へと
ある日、バイキングのガンダルフが港へと戻ってきた。
大量の魚を仕留めていた。
ガンダルフは以前、魚の獲り方についてマコトから話を聞いていた。
かつて筏や小舟で漁をしていた頃は、投網を使うのが普通だった。しかし、今の船は大きすぎるため、従来の網では海面に届かない。網の周囲に重りをつけ、中心に長いロープを結びつけて海へ投げ込んでみても、思うようにはいかなかったのだ。
船の甲板が高すぎるため、網が海面に届く頃には重り同士が絡まり合ってしまっていたのだった。
それに対してマコトはこう教えていた。
「今の船は以前と違ってパワーがある。だから網の重りの部分にそれぞれ長いロープを取り付けて、網を袋状にして引きながら船を前進させればいいんだよ」
――トロール漁(船引き網漁)である。
この方法を試したところ、網には大型の魚もかかっていた。
港での引き揚げには、てこの原理と滑車を利用したクレーン方式を使い、次々と陸へ揚げる。
この圧巻の光景を、なんと海の無い北の領主がお忍びで見学に訪れていた。
「これはこれは、豪腕のガルバ様ではないですか!」
「ガルバ様も、この港の見学に来られたのですか?」
周りの領民たちが次々と挨拶をしていく。
本人はお忍びのつもりでいるようだが、人の倍はある筋骨隆々の巨躯は、どうあがいても隠しきれるものではなかった。
網を引き揚げる活気ある港の喧騒の中、ひときわ目を引く大柄な男の背中に、親しげな声がかけられた。
「やあ、ガルバ! 噂通りの豪腕ぶりだね」
声をかけたのはイリスとマコトだった。
二人に気づかれた「豪腕のガルバ」は、巨大な肩をすくめ、ばつの悪そうな苦笑いを浮かべてごまかした。お忍びのつもりで変装までしていたのだろうが、人の倍近くもある恵まれた体躯と圧倒的な威圧感は、どうあがいても隠し通せるものではなかったのだ。
「いやなに……最近、南の領地があまりにも目覚ましい発展を遂げていると評判だからな。この目で確かめておきたかったのだよ」
照れ隠しのように髭を撫でるガルバに対し、イリスは悪戯っぽく微笑んだ。
「せっかく見学に来てくれたんだ。港の案内だけじゃもったいない。今夜は我が家で晩餐と決め込もうじゃないか」
こうしてその夜、宴の席が設けられた。
熱を帯びた会話の中で、ガルバから本音がこぼれ出る。
「実はな……北の地にも、あの『軌道列車』の鉄路を引きたいと考えているのだ」
「中央と北の領地間での話なら、手続き上の問題はないでしょう。物流も劇的に変わるはずです」
マコトが即座に頷き、実用化に向けた前向きな見解を示す。……しかし、真面目な政治の話もそこそこに、運ばれてきた料理の香ばしい匂いによって、場の空気は一気に和らいでいった。
「まあ、堅苦しい話はまた明日にしよう! 今夜はこのビールとジンギスカンを楽しまないと損だ!」
ガルバが豪快に笑いながらグラスを掲げ、話題はあっという間に極上の酒と料理へとすり替えられてしまった。
だが、この和やかな宴席は単なる酒盛りでは終わらなかった。
北の地には豊かな「金の鉱脈」があり、広大な大地で育まれる「野菜の栽培・収穫」という強大な産業が存在する。旨い肉とビールを酌み交わすうちに、双方にとって大きな利益をもたらす貿易の交渉へと、自然な流れでつながっていくのだった。
※ ※ ※
その後、誠殺害を企てていた「角なし」八名への拷問により、とんでもない口割りが得られた。
なんと、実行部隊の中にいた元Bランクパーティ《七星の牙》のリーダー・コペルキースの口から、すべての真相が明かされたのだ。
拷問の最中に五名が自害し、三名が服役中となる惨状のなか、誠の背中を惨殺目的で背後から切りつけた斥候部隊の一人こそが、コペルキース本人であると特定された。
さらに、かつて「誠が洞窟内で元メンバー三人を殺害して逃亡した」として冤罪を着せ、指名手配にまで追い込んだ根源もコペルキースだったことが判明する。
その醜悪な動機の端緒(ボタンの掛け違い)は、あまりにも身勝手な過信と嫉妬だった。
かつて《七星の牙》がBランクでありながらAランク相当の凄まじい戦闘力を誇っていたのは、すべて誠が提供していた特殊な「食材」の効果によるものだった。しかし、自らの力だと錯覚したコペルキースは実力を過信し、無謀にも「最強ダンジョン」へと足を踏み入れてしまう。
結果、誠の食材による補正を失ったパーティーは魔獣の群れに壊滅させられ、仲間たちが次々と倒れていった。
自分の無策と無能による惨劇の責任から逃れるため、コペルキースは瀕死の誠を深い森の奥へと置き去りにし、「誠が仲間を殺して逃げた」という濡れ衣を背負わせたのだ。
全ての真実が白日の下に晒されたことで、誠たちはコペルキースを除く生き残りの二名を釈放する決定を下し、誠の濡れ衣も完全に晴れることとなった。
魔獣が巣食う危険な森の中、生き残った勇者パーティーの二人は人間界の魔獣討伐隊によって保護され、本国へ情報を持ち帰る役割を果たす。しかし彼らは、自らが偽名を使い誠を狙った勇者パーティーのメンバーであることだけは伏せていた。
そして本国へ戻った二人は、衝撃の事実を語り始める。
誠に着せられていた濡れ衣が晴れたこと、そして何より――魔国へ亡命した誠がもたらす規格外の能力と「食材」によって、魔国が恐ろしいほどの勢いで発展を遂げているという現実を。
その驚愕の報せは風の如く、人間界全土へと瞬く間に広がっていった。




