第23話 誠街への高速馬車
人間界では魔王討伐に向け、勇者パーティーと聖騎士団八十名からなる討伐隊が編成されていた。
ちょうどその頃、魔国の南領地に潜入していた斥候部隊の一人、フランプルが、ようやく人間界へ戻ってきた。
魔国の南領地に住み着くようにして潜伏し、情報を集めていたのだ。
ひと月もの時間をかけ、険しい山脈を越え、魔獣の棲む森をひたすら北東へ北東へと抜ける。
命懸けの道のりを経て、彼は大量の情報が記された報告書を携え、ようやく人間側の本部へと辿り着いた。
「こちらが、南領地で確認した情報です」
フランプルが差し出した報告書を、討伐隊の幹部たちが取り囲むようにして読み始める。
その内容は、想像以上のものだった。
――魔国は、これまで以上に勢力を上げて魔獣狩りを行っている。
――南領地を治める四天王イリスの側近として、人間である山田誠という男がいる。
――山田誠は人間でありながら、いまだ人間側には知られていない未知の力を秘めている可能性がある。
――魔王城をはじめとする建造物や城跡では、「コンクリート」と呼ばれる未知の建築資材が使用されている。
そのほかにも、十数項目に及ぶ情報が詳細に記されていた。
「……これほどとは」
報告書を読み終えた男が、思わず呟く。
だが、別の男がある項目を指でなぞった。
「山田誠……この人物について、さらに調べたのか?」
「はい」
フランプルは一度息を整えると、答えた。
「調査したところ、以前はBランクパーティー『七星の牙』に所属していたようです」
「Bランクパーティーだと?」
「はい。そして……ダンジョン内で、仲間三人を殺害したとの情報があります。その後、行方不明となっていました」
室内に、ざわめきが広がる。
「三人を……殺害?」
「その件については、当時のパーティーリーダーだったコペルキースの証言も残っています。かなり信憑性の高い情報かと」
「現在そのコペルキースは勇者パーティーのメンバーでも有ります!なるほど……」
幹部の一人が腕を組み、しばらく考え込む。
やがて、その男はゆっくりと顔を上げた。
「であれば……」
その視線が、報告書に記された『山田誠』という名前に向けられる。
「魔王討伐に向かう前に、その山田誠を始末するのが賢明かもしれぬな」
誰も、その言葉を否定する者はいなかった。
――しかし、人間界に伝わっていたその情報には、大きな誤解が含まれていた。
山田誠が本当に仲間三人を殺害したのか。
そして、なぜ彼が魔国へ渡ったのか。
その真相を、この場にいる誰一人として知る者はいなかった。
「では、聖騎士団八十名は、魔獣が棲みつく森を抜けるところまでとする」
討伐隊の指揮官が、広げた地図を指差しながら指示を出す。
「魔国への侵入は、勇者パーティー八名のみ。大人数で動けば、どうしても目立つ。少人数ならば、魔国側に気づかれる可能性も低いだろう」
指揮官は、地図に記された南領地へと視線を移した。
「まずは山田誠の行動を探れ。奴が四天王イリスの側近を務めている以上、接近するには十分な警戒が必要だ」
「承知しました」
フランプルが答える。
「お前は先に魔国へ戻り、山田誠の行動を探っておけ。勇者パーティーが魔国へ侵入した段階で、我々と合流する手筈だ」
「分かりました」
「くれぐれも、こちらの動きを悟られるな」
「お任せください」
フランプルは深く頭を下げると、その場を後にした。
こうして、人間側の魔王討伐計画は着々と進められていった。
彼らが知る山田誠は、元Bランクパーティーの一員。
そして、仲間三人を殺害したとされる、お尋ね者だった。
それ以上のことを、彼らは知らない。
まさか、その山田誠が魔国で何を成し遂げているのか。
この時の彼らには、知る由もなかった。
※ ※ ※
魔国側の漁村も、今では人が集まり、いつの間にか一つの街が形成されていた。
その街の名は――なぜか「誠街」(まことまち)となっていた。
「誠街か……いいではないか!」
その名を聞いたイリスは、嬉しそうに笑っている。
「やはり、自然についた名前が一番だ。住民たちが、そう名乗りたかったということだろう!」
「まあ……そうなんだろうけどな」
誠は、なんとも言えない表情で苦笑する。
自分の名前が、そのまま街の名前になってしまったのだ。
いくらなんでも、少し気恥ずかしい。
そんな誠街からイリスの領主邸宅までは、以前なら旧式の馬車で三日ほどかかっていた。
しかし今では、その距離を半日ほどで到着できるようになっているのだ。
理由は、整備された道路にある。
石畳を平坦に敷き詰めたことで、馬車の揺れは大幅に減少。
さらに車輪にはベアリングを採用し、サスペンションまで改良している。
石畳の平坦さ。
ベアリングによる滑らかな走行。
そして、サスペンションによる快適な乗り心地。
それらが組み合わさった結果、馬車の速度は以前とは比べものにならないほど向上していた。
しかも今では、馬車を引く馬も一頭ではない。
二頭引きが当たり前になっている。
到着した馬たちにも、それほど疲れた様子は見られなかった。
その理由は、道や馬車だけではない。
途中には馬用の休憩所も設けられており、ステータス画面から取り出した栄養剤を混ぜた干し草も用意されている。
さらに、噴水から汲み上げられた新鮮な水まで自由に飲めるようになっていた。
――これだけ環境が整っていれば、馬だって走らないわけがない。
「……もはや、馬車の旅というより高速移動だな」
誠は、快適になりすぎた移動速度に苦笑するのだった。




