第21話 イリス領主の豪邸
「さて、街は数回に分けて運ぶのか?」
「そうだな。一応、魔王城の建設予定地も決まったことだし、街の引っ越しが終わってからでいいんだけど、その前に港町までの道路を整備したいんだよ」
「道路を?」
「ああ。路面を石板にしておけば、長雨が降っても道がぬかるまなくなる。そうすれば、かなり便利になるだろ?」
「確かにな」
イリスが頷く。
「魚介類は食材としても欠かせないからね。港町との往来が楽になれば、食料の流通もずいぶん良くなると思う」
「それは助かるな……」
「それと、貝殻を大量にここまで運びたいんだ」
「貝殻を? 何に使うんだ?」
「この前、鍛冶屋に行って頼んだ物も、そろそろ出来上がる頃だしな」
誠がそう言うと、イリスは楽しそうに笑った。
「また、誠は面白いものを作るんだな?」
「まあね」
誠は、建設途中の魔王城を見上げた。
「ここの魔王城の屋根の一部もそうだけど、人間界の建物や魔国の住人の家も基本的には木造で出来てるだろ?」
「ああ、それが普通だな!」
「でも、それだと火矢を放たれたり火魔法なら、屋根や壁が焼け落ちる危険がある」
誠は少し考えてから続けた。
「だから、コンクリートブロック造りにしたいと思ってさ」
「コンクリートブロック?」
聞き慣れない言葉に、イリスは首を傾げる。
「どんなものなんだ?」
「そうだな……人工の石を積み上げて、壁を作るようなものだと思ってくれ」
「ほう……」
「それを使えば建物そのものが丈夫になる。以前みたいに、あっちこっちにひび割れが入ることも、かなり減らせると思うよ」
「それは凄いな!」
イリスの目が輝いた。
「そんなものまで作れるのか!」
「まあ、材料さえ揃えばね」
誠はそう言いながら、港町から運ばれてくる大量の貝殻を頭の中で思い描いていた。
どうやら街の引っ越しにとどまらず、この地の建物そのものを大きく変えることになりそうだ。
「これで魔王城を建設するとなると、魔王様にも相談が必要だな。魔王城再建のためなんだが、イリス、口添えを頼めないか?」
「了解した!」
イリスは話を取りまとめるため、さっそく魔王様のもとへ移動する転移陣を描き出した。
※ ※ ※
「魔王様、イリスです! 魔王城の再建について、誠がお話ししたいことがあるというので、お連れしました」
「うむ、苦しゅうない。誠よ、して、どのような話だ?」
「はっ! 実は、現在の魔王城には無数の亀裂が入っており、わずかな衝撃でも崩壊しかねない状態です。そこで、再建にあたっては、これまでとはまったく異なる新しい工法を取り入れたいと考えております」
誠は一呼吸置いてから、続けた。
「まずはイリス様の屋敷の増築で、その工法を試したいと思っています。ぜひ、魔王様にも一度ご視察いただければと思いまして。また、今後の魔王城の補強には、鉄や鉱石も不可欠となります。これから着工いたしますので、折を見て見学にお越しください」
「なんでも、『鉄筋コンクリートブロック工法』とかいうものらしいですよ!」
イリスがそう補足すると、魔王は興味深そうに身を乗り出した。
「ほう、そうか! 誠の作るものには格別の興味がある。ぜひ一度、見に行くとしよう」
「それに、早い馬車を作ったそうではないか?それもどんな仕組みが気になっておる」
※ ※ ※
イリスは、街そのものを中央都市の魔王城建設予定地の近くへと移した。
そして中央都市へ入る辺りには、大きなブロックを積み上げた、ひときわ派手な凱旋門を造った。
凱旋門をくぐると、中心部までは広いブロック板を敷き詰めた大通りが続いている。
しばらく進んだところには、大きな十字路が設けられていた。
左へ曲がれば、イリスの領主屋敷がある。
いや、もはや「屋敷」と呼ぶには立派すぎる。
一階と二階をブロック工法によって築かれた巨大な城塞の上に今までのイリスの屋敷を重ねた、それは誰が見てもイリス城と呼ぶにふさわしいほどの威容を誇っていた。
その城の左手には広大な草原が広がり、街との境界には鉄芯を使った柵が設けられている。
その柵の内側では、数匹の羊がのんびりと放し飼いにされていた。
そして、凱旋門から続く大通りとイリス城へ向かう道が交わる交差点には、ブロック造りの大きな円形噴水が造られていた。
この噴水には、凱旋門の上部に設置された雨水タンクから細い管を通して水を送り込む仕組みになっている。
噴水には蛇口も取り付けられており、そこから流れ出る水量を調整できるようになっていた。
もちろん、流した水をそのまま捨てるようなこともしない。
噴水から流れ出た水は地下へと導かれ、下水として港町へ続く道路の外れを流れる水路へと流される仕組みになっていた。
途中には、大量の地下水をろ過するための設備も造られている。
そこにはスライムが放たれており、水の浄化を担っていた。
港町に近づくにつれて道路がひらけ、中央には大きな円形ロータリーと小さな噴水が設けられていた。
かつてイリス領の街が存在していたこの場所には、そのまま留まった僅かな家屋や店舗が残されている。
ここは旅人たちが立ち寄り、束の間の休息をとる憩いの場として重宝されていた。
噴水から流れ出た水は、そこからさらに水路を通り、最終的には側を流れる川へと合流する。
こうして、中央都市から港町へ続く道は、単なる移動のための道路ではなく、水路や休憩所まで備えた、快適で機能的な街道へと整備されていった。
生徒たちと引き込んだ人工水路は、凱旋門を超えてさらに延伸され、街の風呂屋へと開通した。
鍛冶屋のふいごや貝殻を焼く窯が完成し、セメントの原料やガラスを自給できる体制が整っていたからこそ、成し遂げられた偉業であった。




