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パーティを追放された俺が魔王城をリフォームしたら魔国が強くなった件  作者: 一雲一人


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第20話 港町の往来に使う馬車


「この前、ヴァーミリオン・リンクから放った極大詠唱火炎は、すごかったぞ!」


「だけど、あれをそのまま敵や魔獣に使うわけにはいかないだろ? 下手をすれば、森や湖ごと消し飛んでしまうしな」


「確かに……」


 イリスは納得したように、深く頷いた。


「だったら、『スリープ』の魔法を試してみたらどうだ? あとは『過重力魔法』とか。相手の動きを封じて抵抗できなくすれば、いろいろと応用が利くんじゃないか?」


「ふむ、一理あるな」


 イリスは腕を組み、何かを考えるように頷いた。


「俺も、できることなら一つ試してみたい魔法があるんだよな」


「ほう。どんな魔法だ、誠?」


「試したいのは、逆に『反重力魔法』なんだ」


「反重力?」


「ああ。作業するときに、重いものを簡単に宙へ浮かせられたら便利だろ?」


 誠がそう言った、その直後だった。


 イリスは何も言わず、左手の指輪を外した。


「……イリス?」


 嫌な予感がした。


 だが、時すでに遅し。


 イリスは静かに目を閉じ、ゆっくりと詠唱を始めた。


「揺り籠を揺らす風よ、静寂(しじま)を纏(まと)いて漂え。重き瞼に星の余韻を――」


「ちょ、ちょっと待て! 俺が試したいのは反重力――」


「『深緑の微睡(まどろみ)』」


 ――ふわっ。


 誠の意識が、一瞬で遠のいていく。


(ディープ・ナイトスランバー……)


 そして――。


 誠は、あっさりと眠りに落ちた。


  ※   ※      ※


翌朝二人は!魔法陣の中にいた。


「随分と南領地に近い場所に城を築くんだな?」


「イリスはどうするんだよ?」


 誠とイリスは、新しく築かれる南領のイリスの屋敷、その建設予定地に立っていた。


 見渡す限り、丘陵地帯に広がる大草原。遮るものは何もなく、地平線まで見渡せそうなほどだ。


「中央との境界線は設けてないのか?」


「この辺はど田舎だったからな。別に仕切る理由もなかったんだ」


 イリスは、さも当然のように答えた。


「そんなもんか? でもさ、魔王城のすぐ隣に城を建てて、さらに街までここへ持ってくるのは、なかなか大変じゃないか?」


「そこなんだ。それで、これの出番ってわけさ」


 そう言うと、イリスは自分の指にはめられた指輪を見つめた。


「あ! もしかして……反重力魔法を使いこなせるようになってたりして?」


 誠が尋ねると、イリスは胸を張った。


「もちろんだ。城ごと運べるぞ!」


「あっちゃー……規格外すぎる」


「なら、さっさと家ごとに持ってくるのか?」


「誠、何を言ってる!」


「じゃあ、建て直すのか?」


「馬鹿な。街ごと運ぶんだよ」


「おぉー、そっかそっか!」


 誠は一度うなずいた。


「……って、すごすぎでしょ、イリス! そもそも魔王様が腰を抜かして、『きっと我の城も……』とか言い出すに決まってるぞ!」


 誠の脳裏には、魔王が目を輝かせながら城を指差す姿が、ありありと浮かんでいた。


  ※   ※      ※


街に戻ったイリスは、住民たちを集めると、今回の移転について告げた。


「四天王の一人、イリス領領主のお言葉! 皆の者、よく聞け!」


 イリスの声が街中に響き渡る。


「これより、この街は中央都市――魔王城の近くへと引っ越しをする!」


 突然の知らせに、住民たちの間からざわめきが起こった。


「今の場所でも、さして不便はない。だが、行商人との取引や、港町へ向かう際には不便を強いることになるだろう」


 イリスは一度、住民たちを見渡した。


「よって、その間は乗合馬車を定期的に走らせることにした。これを使って往来してくれ!」


「これは魔王様たっての願いでもある。しばらくの間、乗合馬車の費用は街が負担する!」


 イリスの言葉に、住民たちは顔を見合わせる。


「イリスも、なかなか大変だな……」


 少し離れたところで様子を見ていた誠は、思わずつぶやいた。


 そんな誠の脳裏に、以前、元のパーティーとともに乗合馬車に揺られたときのことが蘇る。


(そういえば、あのときも結構きつかったな……)


 おそらく、この世界の馬車も似たようなものだろう。


 そう察した誠は、イリスに乗合馬車を見せてもらうことにした。


「ちょっと見せてもらっていいか?」


「構わんが、何をするつもりだ?」


「改良できそうなら、やってみようと思ってさ」


 長旅で少しでも乗り心地が良くなれば、移動する住民たちの負担も減る。


 それは、誠なりのささやかな気遣いだった。


  ※   ※      ※


再生資材施設。


 その一角には、五台ほどの乗合馬車が組み上がっていた。まだ数台は製作途中だったが、完成した一台を見つけると、誠はその下へと潜り込んだ。


「やっぱりな……」


 車体の下を覗き込み、足回りを確認する。


 そこには、誠が期待していたサスペンションは付いていなかった。


「イリス、ちょっと頼みがある」


「何だ?」


「これから図面を描くから、鍛冶屋で作ってもらいたいものがあるんだ」


 誠はそう言って、長さの異なる三種類の板バネと、車軸に取り付けるベアリングの図面を描いた。


「これを作ってもらえないかな?」


 図面を受け取ったイリスは、首を傾げる。


「誠、この図面を鍛冶職人に見せればいいのか?」


「できれば、作る前に少し説明したいんだ。実物を見ながら話したほうが分かりやすいと思う」


 こうして誠は、イリスと鍛冶長(バルメッソ)の三人で話し合うことになった。


「まず、ここをこうして……それから、ここに板バネを入れる」


 誠は馬車の足回りを指差しながら、仕組みを一つずつ説明していく。


「この板バネが衝撃を吸収して、車体に伝わる揺れを抑えるんだ。そして、車軸にはこのベアリングを使う。車輪が滑らかに回るようになる」


「なるほど……」


 鍛冶長は図面と実物を何度も見比べながら、誠の説明に耳を傾けていた。


 そして、試行錯誤を重ねた末――。


「できたぞ!」


 ついに、サスペンションを備えた新しい乗合馬車が完成した。


 誠とイリスはさっそく試乗してみる。


「おお……!」


 馬車がゆっくりと走り出す。


 これまでなら、道の凹凸を拾うたびに大きく揺れていた車体が、まるで別物のように滑らかに進んでいく。


「すごいな……」


 誠は思わず感嘆の声を漏らした。


 今までの乗合馬車とは比べものにならないほど、乗り心地が良くなっている。


 さらに、実際に馬をつないで走らせてみる。


 ベアリングによって車輪の回転抵抗が減ったことで、馬車を引く馬への負担も明らかに軽くなっていた。


「これなら長距離の移動も、ずいぶん楽になるだろうな」


 誠は走っていく馬車を眺めながら、満足そうに頷いた。


 そして、この話はあっと言う間に魔王様の耳に届いた!


いや届いてしまったのであった。



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