第13話 三人の指導者
会議室の掲示板には、今回の人員確保について出された四つの案が示されていた。
1の案 南校の優秀な先輩生徒の登用
2の案 近衛兵団や騎士団からの出向
3の案 退役したベテラン武官の再雇用
4の案 他学科の若手教員を指導補佐として登用
会議の席で、幹部の一人が膝を打って声を上げた。
「1の案――南校の第一期生を登用する件だが、確か四年生は、あと半年もすれば卒業のはずではないか! 先日の対抗戦でも成績が良く、体格にも恵まれた優秀な生徒がいただろう。あの者たちはどうだ? 誠殿の指導を最も間近で受けてきた彼らなら、間違いなく即戦力になる」
「なるほど……。できれば南校からは、二名ほど欲しいところですね」
俺が頷くと、別の幹部が4の案を口にした。
「ならば、足りない分は4の案から補おう。現在、剣術科や魔法科で指導補佐を務めている若手教官の中から、優秀な者を二名、こちらで選出する。彼らに誠殿の柔道理論を学ばせれば、戦力としても十分に補えるだろう」
「助かります。では、教官の方々については、よろしくお願いします。生徒のほうは、南校へ戻り次第、さっそく相談してみます」
こうして、柔道科の指導者を確保するための具体的な人選が、少しずつ固まり始めていった。
※ ※ ※
会議を終え、イリスと共に南校へ戻った俺は、柔道科の生徒全員を集めた。
その中でも、特に優秀な四年生の三人――グーズ、ジョンソン、レイピウスを前にして、本題を切り出した。
「実は今日、魔王城で中央校の柔道科設立についての話し合いがあったんだ。そこで、卒業後の進路として、中央都市の学校職員――つまり、柔道の指導者として働ける枠を二名分、用意してもらえることになった」
突然の話に、三人は驚いたように目を見開く。
「もちろん正式な採用は卒業後だ。それまでは、俺がこれまで通りしっかり指導する。将来的にも安定した立場だし、何より、これは君たちの努力が認められた結果だ。返事は数日後でいい。親御さんともじっくり話し合って、自分たちの将来を考えて決めてほしい」
「指導者……俺たちが、ですか……」
グーズ、ジョンソン、レイピウスの三人は、真剣な面持ちで俺の言葉を噛み締めていた。
「よし、今日はここまでだ。気をつけて帰れよ」
俺がそう声をかけると、三人は校門へ向かって歩き出した。
俺は、その後ろ姿を静かに見送った。
「なあ……俺たちにとって、これ以上ないくらい良い話じゃないか?」
「ああ。卒業しても、柔道は絶対に続けたいって思ってたしな……」
背中越しにそんな会話を交わしながら、確かな希望を胸に家路につく三人の後ろ姿は、どこか頼もしく見えた。
――それから数日後。
返事を待っていた三人のうち、ジョンソンとレイピウスの二人が、中央都市への赴任を希望すると申し出てきた。
「ぜひ、中央都市へ行きたいです」
二人の表情には、決意がはっきりと表れていた。
一方、残る一人のグーズは、親元に残り、先祖代々受け継いできた土地や田畑を守らなければならないという家族の事情から、今回は辞退することになった。
(残念ではあるが、こればかりは仕方ないな。家族を大切にするのも立派な道だ。だが、あいつの気持ちを思えば……本当に良い話だったんだがな)
誠は、グーズの選択を温かく尊重しながら、中央都市へ行くことを決意した二人の顔を見つめた。
「よし、分かった。ジョンソン、レイピウスの二人は、近いうちに引っ越しや職員登用の手続きで少し忙しくなるぞ。手続き関係で分からないことがあれば、俺も全力で手伝う。だから、安心して準備を進めてくれ」
「はい! よろしくお願いします!」
誠の心強い言葉に、二人は緊張をほぐすように笑顔を浮かべ、力強く頷くのだった。
※ ※ ※
その後、誠はグーズを自宅に招いた。
「実は、実家の田畑を手伝うと言っていたお前に、ひとつ頼みがあるんだ」
「先生、頼みって何ですか?」
改まった誠の様子に、グーズは不思議そうに首を傾げる。
誠は、そんなグーズの目をまっすぐに見つめて問いかけた。
「お前、柔道は好きか?」
「大好きですよ! やめる気なんてさらさらありませんし、これからも鍛錬を怠るつもりはありません!」
「だよな! お前を見ていれば分かるよ」
誠は嬉しそうに頷くと、穏やかな笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「でだ……俺の弟子にならんか?」
「えっ……弟子、ですか?」
「ああ。冬場は畑仕事も休みになるんだろ? もし良かったら、俺のサポートをしてほしいんだ。学校の正規教員という形ではないが、指導者として、この南校の柔道科を俺と一緒に支えていってくれないか?」
その言葉を聞いた瞬間、グーズの顔がパッと明るくなった。
「先生! それなら俺、二つ返事でオッケーです!!」
グーズは感極まった様子で、力強く頷いた。
こうしてグーズは、南校の柔道科に残り、誠の一番弟子として指導を支えていくことになった。
――それから月日が流れた。
三人は無事に卒業していった。
ジョンソンとレイピウスは中央都市へ移り、柔道科の指導者として新たな道を歩み始めた。
一方、グーズは南校に残り、誠の一番弟子兼助教として柔道科を支えている。
誠は相変わらず、中央都市と南校を行き来する日々を送っていた。
中央校での指導者たちの教育も順調に進み、柔道を教える者たちは少しずつ増えていった。
ジョンソンとレイピウスの里帰りも、イリスに頼めば転移陣ですぐに戻ってこられるため、特に問題はなかった。
そのおかげもあり、三人は定期的に誠の家へ集まるようになっていた。
ある日のこと。
誠は三人を前にコーヒーを口に含みながら、しみじみとした表情を浮かべた。
「落ちこぼれだったお前たちがなぁ……」
誠の言葉に、三人は顔を見合わせる。
「確かに……」
三人は揃って頷いた。
「これも先生のおかげですよ。一番驚いているのは、僕たちなんですから」
そう言って笑う三人の顔を見つめながら、誠はゆっくりとコーヒーを啜った。
――かつては、誰からも期待されていなかった三人。
そんな彼らが今では、それぞれの場所で柔道を教える立場になっている。
誠は、そんな三人の成長を目の前にして、胸の奥が温かくなるのを感じていた。




