第98話 父の気持ちと娘の想い
「そこの小僧おおぉぉぉ!!貴様はタマキと一体全体どういった関係なのだぁぁぁ!!」
マダラさんの怒声にも似た……いや、はっきりとした怒声が室内に轟いた。
「えっと……俺は……」
「タマちゃんとはただのパーティー仲間ってだけでして……」
「パーティー仲間だと!?貴様!うちのタマキを夜な夜な怪しげなパーティーに連れ出していると言うのか!!」
「そのパーティーじゃねーよ」
そもそも、そんな怪しげな宴が夜な夜な開かれてるような世界観じゃねーし。
「お父様!!タイセイさんは私の恩人でもあり、とても大切な人です!!失礼な態度は、いくらお父様であっても許しませんよ!!」
タマちゃーん!その言い方はマズイってー!!
「大切な人だとおぉぉぉ!!!!」
ほら、ベタなこと言うから、ベタな怒り方になっちゃったじゃん。
うん。でもこうなるって知ってた。
お父さん入ってきた時点でこうなるって……。
だからずっと気配を消して気付かれないようにしてたのよ。
「貴様ぁぁぁ!!今すぐに表に出ろ!!!!」
「お父様!!」
マダラさんは娘のことでリミッターでも外れたのか、とうとうキジさんとサバさんの2人でも抑えきれなくなっているようで、2人は顔を真っ赤にして全力で立ち上がったマダラさんの両腕にしがみついていた。
どうするか……。
説得する……今の興奮状態では何を言っても無駄そう。
逃げ出す……これが現実的かもしれないけど、タマちゃんやロリ様を置いて逃げ出すわけにもいかないよね。
戦う……今なら2人が抑えつけているから、この隙に一撃で脳天を叩き割ってしまえば……うん、これだな。
「あなた!」
静かに様子を伺っていたアズキさんが叱りつけるような口調でマダラさんを睨みつける。
また室内の温度が急激に下がっていくのを感じる。
「ア、アズキ、止めないでくれ!俺は父親としての役目を果たさねばならんのだ!!」
「父親の務めとは、娘の恩人に対して無礼な態度をとるばかりか、その身に襲い掛かろうとすることでしょうか?」
「うぐっ……し、しかしだな――」
「それに他国の王族の方がいらっしゃる前ですよ?その方のお仲間に手を出すという事がどういうことか、あなたなら理解しているのではないのですか?」
アズキさんはそう言うと、いつの間にか意識を取り戻していたロリ様へと視線を流した。
「他国の……王族?」
王族という言葉に毒気を抜かれたように大人しくなったマダラさん。
「……お気づきになられていたのですね。別に皆さまを騙すつもりはございませんでした」
メイド服のロリ様はすっと立ち上がりアズキさんとマダラさんを交互に見た。
「コノツギ王国のヒューナード・ボランド・ウルフシュレーゲルスターインハウゼンベルガードルフ・ロリエレット・フィラデルナード第一王女殿下でいらっしゃいますね?」
アズキさんははっきりとした口調で、一言も噛むことなくすらすらとロリ様のフルネームを答える。
「コノツギの……第一王女殿下……まさかあの――」
「まさか――あの、何でございましょうか?」
「あっ――い、いえいえ、何でもありません!」
何か言おうとしたマダラさんは、ロリ様に笑顔を向けられると慌てて次の言葉を止めた。
「あらためましてご挨拶させていただきます。私、コノツギ王国第一王女、ヒューナード・ボランド・ウルフシュレーゲルスターインハウゼンベルガードルフ・ロリエレット・フィラデルナードと申します。モフリーナ家ご当主であらせられる、アズキ・モフリーナ様。そしてソレカラ王国王族であらせられます、マダラ・モフリーナ王弟殿下にはお初にお目にかかります。私のことは気軽にロリとお呼びくださいませ」
「王女殿下。私はすでにこの家に婿入りし、すでにその地位も爵位も捨てた者でございます。そのような言葉遣いは不要でお願いいたします」
マダラさんはそれまでの豪快さが嘘のように丁寧な言葉づかいでロリ様に頭を下げた。
それよりも爵位を捨てた?
王族なのに平民になったということ?こんなに由緒ある家に見えるのに……。
俺がそんなことを思っていたのが顔に出ていたのか、それともこの世界の人あるあるの心の声を読み取ったのか――
「タイセイさん。このソレカラ王国では、王族以外に貴族と呼ばれる者はいないのですよ」
アズキさんがそう教えてくれた。
「王族以外に貴族がいない?それでこの国が成り立つんですか?」
基本的に国の政治を行うのは貴族が主体となっているはずだ。
当然それだけでは不可能なので、役所などの施設などの公共機関には平民の人も多く働いてはいるんだけど。
「この国では省庁と呼ばれる分担して国営を担当する機関がございます。そして各地を治める郷士と呼ばれる者たちが、そこで決まった政策や予算を元にそれぞれの街や村を統治しております。その郷士も基本的には平民という扱いになります。そしてその認可を行うのが王家、国王ということになります。私たちモフリーナ家も古くからこの村の郷士を務めさせていただいております」
省庁……これは日本と同じだな。
そして郷士が県知事とか市長とかのポジションか。
王族を置きながらも民主制に近い政治制度。
で、この和風の屋敷といい、この国を造った初代の勇者は日本人で間違いないね。
「伝え聞く話によりますと、この国の建国者である勇者様が、貴族というのは見た目ばかり気にして、平民を蔑み、表面上はニコニコしながら裏では悪だくみをし、最後には『ざまぁ』されるものなので作らなかったと聞いております。私にはその『ざまぁ』というものが何なのかは分かりかねますが」
しかもラノベ好きの日本人で間違いない。
ん?でも、前に勇者がこの世界に来たのは遥か昔のはずなのに……。
まあ、他の世界から呼び寄せることが出来るんだから、お互いの世界の時間軸が違っていてもおかしくはないのか。
「それで、王女であらせられるロリ姫様は何故うちのタマキと一緒におられるのでしょうか?」
話が逸れたとばかりに本筋へと戻すマダラさん。
「私も大切な人であるタイセイ様に同行させていただいているのですわ」
おいこら。
「うちのタマキだけではなく、王女様にまで手を出しているだとぉぉぉ!!この腐れ外道がぁぁぁ!!!!」
今のは絶対にわざとだよね?




