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第99話 猫にマタタビ、眉間に一撃

「成程、今回この村に寄られたのは、タマキがうちのものに借りていたお金を返す為なのですね」


 何とか当初の目的を告げることが出来て一安心。

 激昂してたマダラさん?

 俺に飛び掛かってきた瞬間にアズキさんのチョップを眉間に喰らって、気絶したところをロープでぐるぐる巻きにされて部屋の隅に転がされてるよ。


「はい。それでこれが預かっていたタマちゃんの全財産です。いくら借りていたのか分からないんですけど、もしこれで足りなければ残りは俺が立て替えます」


 猫印の入った革袋をアズキさんの前に置く。

 タマちゃんの「あぁ……」という呟きが聞こえた気がするが気にしない。

 良いとこのお嬢様はそんな未練がましい声をお金にかけたりなんかしない。


「これはタマキが稼いだのですか?」


 袋の中身を見たアズキさんがタマちゃんを真っすぐに見つめながらそう言った。

 ギャンブルしなきゃ……借金がなきゃ……その何倍もあったはずなんだけどなあ。

 もちろんそんなことは言えないけどね。


「……はい。私が冒険者として稼いだものです」


 アズキさんはそう答えたタマちゃんを少しの間見つめた後、視線を俺の方へ向け――


「タイセイ殿。ここまでタマキを導いていただき、本当にありがとうございました」


 そう言って深々と頭を下げた。


「いえ、俺は別に……」


 こんな美人にそんなにかしこまった言い方をされると恐縮してしまう。


「生まれてからずっと外の世界を知らぬタマキがこうして冒険者としてやっていけているのは、ひとえにタイセイ殿と出会い、そのご助力を得たお陰。もし出会っていなければ、今頃は借金のかたにどこぞへと売り飛ばされていたやもしれません」


「お母様!!」


 全部知ってたんかーい。


「何いぃぃぃ!!!タマキはどこにも売らぬぅぅぅ!!!!」


――バシッ!!


 覚醒したマダラさんは、瞬時にアズキさんが懐から出して投げた扇子を眉間に喰らって再び沈黙した。




「地下迷宮の探索ですか……」


 一通り借金の話が終わり、俺たちがソレカラに来た元々の目的を伝えた。


「はい。詳しいことは言えないのですが、どうしてもそこに行く必要があるんです」


 この世界で悪神の記憶が失われている以上、あまり不安にさせるような話をするのは良くないだろう。

 言ったところで信じてもらえるとも思えないしね。


「タイセイ殿や、そこのロリ姫様とバックス殿が行かれるのは止めません。しかし、タマキの実力では足手まといになるのではありませんか?」


 冒険者として頑張っていることは伝わったようだけど、幼い頃からタマちゃんを見てきた母親からすると、やはり今でもひ弱な子供に思えてしまうのかもしれない。


「そんなことはありません。タマちゃんは十分に強いです。それこそAランクの冒険者よりも強いと思います」


 Aランクの冒険者には未だ出会ってないけども、ステータス的にはBランクだったロエベやラバンダよりも強いのは間違いない。

 しかも転職して得た能力のことを考えれば、俺だって勝てるかどうか……。


「Aランク……。ふふふ、タイセイ殿。さすがにそれは言い過ぎでありましょう?タマキは家を出てまだ数年しか経っておりません。このチュウルにおいてもAランクにまで上り詰めた冒険者は過去にそれほど多くはないのですよ?」


 それは村の人が普通に別の仕事をしてるからじゃないですか?

 ベジタリアンな店のミノスさんや、それと互角に喧嘩してた三毛猫のレフティさん、そこのキジさんとサバさん、みんな冒険者だとしたら相当なレベルの強さだと思う。


「アズキ様。タイセイ様のおっしゃっていることは間違っておりませんわ。タマキ様のお力は私もこの目でしっかりと見ております。コノツギの騎士であるこのバックスよりも圧倒的に強いと思います」


「がふっ!!」


 ロリ様。俺の言葉を保証してくれるのは嬉しいんだけど、隣でバックスさんがショックで吐血してるよ?


「にわかには信じられない話ですね……。しかしロリ姫様までもがそうおっしゃるのでしたらタイセイ殿の言葉は真実なのでしょう……。タイセイ殿、すでに本人から聞き及んでいるとは思いますが、タマキは猫獣人としての力をほとんど受け継いでおりません。普通に冒険者として生活をしていくというのであれば、それでも止めるような真似はいたしませんが、我々ですら近寄らぬ地下迷宮に入るというのであれば話は違います。これまで放っておいて今更何をと思われるかもしれませんが、タマキは私にとって大事な娘であり、この家の者にとっても大切な家族なのです。そのタマキが命の危険のある場所に行くことを良しとはいたしません」


「お母様……」


 気絶しているマダラさんを見る。

 隣でその背中に手を当てて押さえているサバさんとキジさんを見る。

 そして最後に真剣な眼差しで見つめてきているアズキさんを見る。


 この人たちが近寄らないってくらい危険ダンジョンなの?

 そういえば、この大陸にはいくつかダンジョンがあるのは知っていたけど、どこも踏破されたって話は聞いてない……。

 それは国家の力をもってしても無理だったということか……。


「やっぱり今回は――」


「しかしそこまで皆さんが本気なのでしたら仕方ありません」


 もう少し準備を整えて……から……とかにしたかったなあ。


「皆さんが、そしてタマキが地下迷宮に挑むにふさわしいかの試験をさせてください。それに合格出来るのであれば、私もタマキが同行することを認めましょう」


「試験……まさか!?」


 タマちゃんは試験と言う言葉に驚いたような声を上げた。

 俺は別の意味で嫌な記憶を思い出した……うう……試験、イヤ。試験、コワイ。


「タマキはこの村でいうところの試験が何なのか、当然知っていますね?」


「……マタタビの塔」


「そうです。この村に昔から伝わる試練の塔。皆さんにはそのマタタビの塔の最上階に登っていただきたいと考えています」


「マタタビの塔?」


「お母様!?最上階は――」


「タマキは黙っていなさい。マタタビの塔とは、その存在理由も誰が創ったのかも全てが不明の摩訶不思議な塔であり、その各階には魔物のようなものがおります。この地域に住む者は昔から塔に入り、どこまで上階に行けるのかで自らの武勇を示すのです。皆さんにはそこの最上階である魔物のようなものを討伐してもらいます。それが出来るのであれば、タマキも地下迷宮に挑む権利があると認めましょう」


 タマちゃんを見ると、視線を落とし、怯えたように体を震わせている。

 そんなにヤバいところなのか?

 それに魔物のようなもの、という言い回しも気になる。


「――1つ聞いても良いですか?今アズキさんは『魔物のようなもの』とおっしゃいましたが、そこにいるのは魔物ではない、それに似た何か?ということでしょうか?」


「ええ。厳密に言えば魔物ではないと言えると思います。その者たちは何度倒しても、次に他の者がその階に行った時には再び現れるのです。そして倒すとその姿は死体を残すことなく、霧のようにどこかへ消えてしまいます」


 それは敵がリポップするということかな?

 でもこの世界の魔物は肉体を持っているから、倒してもその身体は残る。

 何も残らなったのは――あの影の手くらいだ。


「ロリ様、バックスさん」


 俺1人で決めることは出来ないので、それまで黙って話を聞いていた2人に意見を求める。


「タイセイ様の進みたい道をお進みください。私はそれについて行くだけですわ」


「私もロリ様の決めたことに従いますぞ」


 2人は笑顔でそう返してくれた。


「――分かりました」


「タイセイさん!!」


「タマちゃん。こないだタマちゃんは置いて行かれたくないみたいなことを言ってくれたよね?俺だってタマちゃんを置いて行くつもりは無いよ」


 俺はタマちゃんの目をしっかりと見てそう告げた。


「……お母様。マタタビの試練、確かに承りました。必ずや未踏の最上階を攻略してみせましょう」


 覚悟を決めたのか、珍しく真剣な顔になったタマちゃんは、アズキさんに向けてはっきりとそう宣言した。


 ……ん?未踏?

 みーとぅーかな?



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