第100話 忘れない気持ちと遺されたもの
「えっと……今、未踏って言った?」
「お母様、私たちはこれより早速マタタビの塔へ向かいたいと思います」
ねえねえタマちゃん。
今、未踏って……。
「この村の獣人の猛者でさえも最上階を攻略した者は過去におりません。それでも向かうと言うのですか?」
OH……。
それってダンジョンよりも危険な場所なんじゃね?
「私たち4人で挑んで構わないのですよね?」
「もちろんです。それでも最上階にいるベビーベアを倒すことは難しいでしょう」
名前は可愛いな。
ベビーベア?小熊がボスなん?余裕じゃね?
「過去には熊獣人族最強にして『黄色い破壊神』の異名を持ったプーザンが手も足も出ずに敗れた相手です。たとえ4人で挑んだとしても、『黄色い破壊神』プーザン――」
「よし!!みんな準備は良いね!!アズキさん!俺たちはすぐに、今すぐに出発するんで話はそれくらいにしましょう!!」
「え?――そうですね。皆さんがやる気になっているのに、これ以上『黄色い破壊神』ブ――』
「わー!わー!わー!!」
「タイセイさん、急にどうしたんですか?!」
「タイセイ様?」
「タイセイ殿?」
「さあ、出発だー!!」
悪神よりも怖いところに喧嘩を売るつもりはないよ。
屋敷を出た俺たちは、アズキさんたちの案内で馬車に乗ってチュウルの村から南へと向かっていた。
馬車に揺られること約30分。
目的地に着いたと言われて降りたところは、石柱が円形に並んだ遺跡のようと場所だった。
何か似たようなものを外国の遺跡で見た事があるな。
数メートルおきに並んだ石柱の中心には、柱と同じ材質のように見える石が、やはり円形に敷かれてステージのようになっている。
あれ?塔はどこ?
まさか塔というのは名前だけで、実はここから地下に――
「これは……転移ゲートでしょうか?」
それを見たロリ様がそう呟いた。
うん。俺もそうじゃないかって思ってたよ。……本当だよ?
「そうです。ここよりマタタビの塔のある場所まで転移いたします」
転移ゲート……前にロリ様が言っていたやつか。
うん。あの襲ってくる鳥居とは全然違うね。
どっちかというと、この方が全然転移ゲートっぽい。
「では皆さん。ここの中央に立ってください」
先にアズキさんが従者の人とそこに進み、俺たちはキョロキョロと周囲を見回しながら後に続いた。
「では参ります」
アズキさんが躊躇いも無くそう言うと、足元の地面から光が溢れ出してきた。
アズキさんの魔力に反応して転移ゲートが発動しだしたようだ。
やがて眩い光で周囲の景色が見えなくなっていく。
全身を感じたことのない魔力が包み込む。
僅かに温かさを感じるその魔力に身を任せていると、一瞬身体が宙に浮いたような感覚が襲ってきた。
そして光が消えていく。
時間にして数秒だっただろうか、視界が戻ると先ほどと同じような遺跡の中に立っていた。
そして目の前には天を突くような塔?が姿を現した。
「これが世界から忘れられた聖遺物――マタタビの塔です」
アズキさんがそう説明してくれる。
しかしその見た目は想像していた塔とは様相が異なるものだった。
ん?今なんて言った?
正面に入り口と思われる扉が見える。
塔全体は茶色いレンガのような石造りで出来ていて、上に向けて左右にジグザグしている。
左へ、右へ、左へ、右へ。まるで非常階段のような形で建っている。
真っすぐに伸びている塔を想像していただけに、これはどうやって倒れずに立っているんだろうという疑問が浮かぶ。
あ、これ、キャットタワーだ!!
マタタビの塔って、でっかいキャットタワーだった!!
「皆さんにはこの最上階、10階にいるベビーベアを倒していただきます。準備は――覚悟はよろしいでしょうか?」
神妙な顔つきで俺たちを見回すアズキさんに、俺は無言で頷いて肯定の意思を示す。
「この塔の中では命の危険となるような攻撃を受けた場合、または戦闘不能と判断された場合は強制的に塔の外へと転移させられます。その際に最低限の治療が施されていますので命を落とすようなことはありませんが、それでも怪我は負いますし痛みもあります。それまでに失った手足なども戻りませんので、どうせなら一撃で戦闘不能になる頭や心臓などをやられることをお勧めいたします」
そのシステムってどーなん!?
首飛ばされたり、心臓潰されたりしても大丈夫だけど、腕とかちぎれたら戻らないってこと?!
こんな中途半端なの作ったん誰よ?
絶対にあいつだろー!!
真面目に世界の管理しろや!!
聖遺物ってことはあいつが片づけ忘れた玩具かなんかじゃねーの?
え?……世界から忘れられた聖遺物?
アズキさん、まさか……。
「タイセイさん、本当に行くんですか?私……」
「大丈夫。俺たちならいけるって。それに、こんなところで躓いてる場合じゃないからね。一緒に最後まで行くんでしょ?大事な事を忘れちゃ駄目だよ」
「――はい!」
「私がいるのを忘れないでくださいませ」
おっと失礼。
自分に酔いすぎて、ロリ様のことを忘れそうになってた。
「もちろん忘れてなんてないですよ。ロリ様だって俺たちの仲間です。いや、タマちゃんも含めてすでに家族です!」
何となく押しかけてこられたけど、今となってはロリ様も運命共同体のようなものだしね。
そう思った俺の心を何かがチクッっと刺した。
最後は俺一人で何とかしようと思っている事を知られたら、その時、二人はどんな風に思うんだろう?
でも今はそんな事を考えている場合じゃない。
「じゃあみんな準備は良い?」
俺の言葉に頷くタマちゃんとロリ様。
「では、私たちはここで待機しておりますので。……ご武運をお祈り申し上げます」
アズキさんに見送られて、俺は鉄で出来た扉をゆっくりと押し開ける。
ぎいぃという軋む音を立てて扉が開くと、塔の中は意外と明るかった。
「行ってきます」
俺はアズキさんに振り返ってそう言うと、そのアズキさんの後ろで寂しそうな顔で足元の石を蹴っているバックスさんがいた。
……あ、そっちは途中から完全に忘れてたわ。




