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第97話 飛び出し注意 まずは右見て左見て

「どうもお待たせいたしました。ええと、どこまで話しておりましたかしら?」


 10分ほど離席していたアズキさんが戻ってきて再び正面に座る

 左手の壁際には大きく顔を腫らしたままで着替えを済ませてきたタマちゃんの父親――マダラさんが頬を痛そうに擦りながら座っている。

 そしてその両隣にはマダラさんを監視をするようにキジ、サバと呼ばれていた2人がいた。


「――私が出て行くのを知っていて止めなかったという話です」


「ああ、そうでしたね。それは先程言った通りですよ」


「何故……」


「逆に何故止めなければならないのですか?」


「え!?」


 え!?

 何か話がおかしなことになってきた?


「ま、待て!お前はタマキが出て行くことを知っていたのか?!」


 マダラさんが驚いたように声を上げる。

 どうやら彼は聞かされていなかったらしい。


「もちろんです。あなたたちが気付かないことの方が不思議で仕方ありませんでした」


「……お前はタマキがどこに行ったのか知っていたのか?それで捜索隊を出すことに反対していたのか?」


「子が自らの意思で家を出て行くのです。それを無理やり連れ戻すなど無粋なことを何故出来ましょうか。――タマキ、私が一度でもあなたが冒険者になるということに反対しましたか?」


「え?お、おい……」


 マダラさんが何か言おうと腰を浮かしたが、アズキさんに睨まれるとシュンとして大人しくなる。


「あなたは私に一度も冒険者になりたいと言ったことがありますか?」


「冒険者!?タマキが!?」


 おっさんはそこから知らなかったのか……。


「……ありません。でも!言ったら――」


「私が反対すると、そう思ったのでしょう?」


「……はい」


「私はあなたが父や兄たちにお金を借りて家を出る準備をしていることに気付いていました。まあ、この人たちは気付いていなかったようですけども」


「俺はタマキにどうしても欲しいものがあるからと言われて……。じゃあ買ってやると言ったんだが、どうしても自分で買いに行きたいと強く言うものだから……」


 マダラさんはぼそぼそとそんなことを言っているが、最初のライオンのような覇気は全く無く、まさに借りてきた猫獣人状態で猫背になっている。

 そうか、家族に借りていたお金は、タマちゃんが村を出て行くための資金だったんだ。

 おっさんにしてみれば娘に小遣いを渡したくらいにしか思ってなさそうだけど。


「あなたが過剰なほどにタマキを溺愛しているからこんなことになったのです。少しは反省しなさい」


「え!?お、俺のせい!?」


 今度こそ立ち上がろうとしたらしいが、その瞬間に両腕を掴まれてしまい、またもや腰を下ろさせられてしまう。


「まあ、あなただけのせいというわけでもありませんけども。タマキに甘いのは他の兄たちや、それに私も似たようなものですが。タマキ、あなたは自分が冒険者になりたいと言えば、私には反対され、父や兄弟には出て行かないように引き留められる。そう思ったのでしょう?」


「……その通りです。特にお父様は絶対に私が危ないことをするのを止めると思いました……」


「あ、当たり前だ!!タマキに万が一、いや、かすり傷一つでもついたら大変ではないか!!」


「あなたがそんなだから、タマキは私たちに黙って家を出て行ったのですよ」


「――ぐっ!どうしてだ!どうしてそこまでして冒険者になりたいのだ!危ないんだぞ?魔物は怖いんだぞ?俺が付いているならまだしも、お前だけでそんな危険なことをしなくてもいいじゃないか!?」


 言っていることは無謀なことをした娘への説教のように聞こえるが、叱ることで溺愛する可愛い娘に嫌われたくないという感情が強いようで、問い詰めるような口調とは裏腹に、にまあぁぁぁとした気持ち悪い笑顔を浮かべている。

 シリアスな場面で笑わすの止めて欲しい。


「だって!お兄様やお父様たちは狩りに行ったり他の国に出かけたりしているのに、私だけはずっと家に残されたまま!みんなの村の外での話を聞くだけの私がどれだけ外の世界に憧れたか!お父様たちは全然分かってないんです!!」


「――タ、タマキ!?」


 この家に来て初めて普段のタマちゃんらしく自分の感情を表に出した。

 この村に来た目的とは完全に別の話になってしまったが、ここから引き返すことは出来ないんだから、このまま流れに身を任せるしかない。いざとなったら――


 俺は石……。

 俺はそこら辺に転がっているただの石……。

 いやむしろ石になりたいと願う強い意思。

 このまま家族の話し合いの中で全部解決しますように!!

 絶対にこっちに飛び火してくんな!!


「タマキ、少し落ち着きなさい。父も兄たちも、ずっと屋敷にいるあなたが喜んでくれると思って外の世界の話をしていたのですよ」


「でも私は――」


「そ、そうだ!俺は良かれと思って――」


「まあ、それもただの自己満足でしたが」


「ガフッッッ!!!」


 お、さっき殴られたダメージが今頃響いてきたのか?


「しかしタマキにも非があります。あなたが外の世界に憧れを持ったのならば、それを口に出せば良かったのです」


「……でも反対されるでしょう?」


「先ほども言いましたよ?一度でも反対しましたか?と。あなたがそこまでして冒険者に、村の外の世界に出たいと言うのならば、この母が全ての障害を排除します」


 そう言ってマダラさんを睨みつけるアズキさん。

 マダラさんは超反応を見せてキジさんかサバさん――髪が茶色いからこっちがキジさんか?その背後に隠れてしまった。

 でもおっさんの方がデカいから丸見えだぞ?


「お母様……」


「あなたがこっそりと村の者に教わって弓の練習をしていたことも知っています。何度か森に入っていたことも。そこまでして娘が望んでいることを、どうして母が止めることが出来ましょう」


「お母様……」


「タマキ、どうでしたか外の世界は?あなたが思っていた通りの世界でしたか?」


 それはとても優しい声。

 母が娘に語りかける慈愛に満ちた声だった。


「……思っていたよりもずっとずっと大変でした。なかなか仲間は出来ないし、魔物は強くて怖いし、その日の食べる物にも困ることが多かったです」


 それはタマちゃんがギャンブルにお金を使っていたからね。

 あれがなきゃ、もう少し普通の生活が出来ていたと思うよ。


「でも、タイセイさんに出会ったことで私の目の闇に道がぱあっと開けたんです!とっても明るくて真っすぐに未来に伸びていく道が見えたんです!!」


 突然自分の名前が飛び出してきたことに驚いてタマちゃんを見る。

 しかし、言った本人は特に何ともない顔をしている。

 何故そこで俺の名前を出す?!


「……タイセイ?タマキ……それはそこに座っている男のことか?」


 ほらあ、一番やっかいなブチ猫が釣れちゃったじゃん……。




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