第94話 子供が9人産まれたら野球チームを作りたいね
ミノスさんと三毛猫の喧嘩?は続いていた。
俺たち4人の周りを跳び回るように激しい激突を繰り返している。
周囲の人たちはそれに特に何の反応も示さずに、自分たちの傍に来た時だけ何事も無かったかのように躱して、また歩いていく。
みんなこれに慣れてるの?
「タイセイ様、止めなくてよろしいのですか?」
ロリ様が心配そうな顔でそう言ってきた。
「そうですねえ……。でも、俺たちは部外者ですし……」
これ以上巻き込まれるのは御免だしね。
「しかし、あの猫獣人の方はタマキ様のお知り合いなのでしょう?」
「違います!知りません!猫の他人です!」
それを言うなら赤の猫獣人かな?
「でもあの方は先ほどタマキ様と……」
「違います!私はタマキなんて名前じゃありません!」
じゃあお前誰よ?
俺が今までタマちゃんと呼んでたタマちゃん返してよ。
「それに、こんなのはこの村では日常茶飯事なんで、気にしなくて良いですよ。さあ!早く宿屋に行きましょう!」
そう言って俺の背中を押してくるタマちゃん(仮)。
これ以上関わりたくない俺としてはそれで良いんだけど、心配そうにオロオロしているロリ様と正義感の強いバックスさんが受け入れてくれるかなあ?
俺は2人の様子を伺いながら、とりあえず背中を押されるままに進みだした。
「ああー!!タマキ様!!待ってくださいよ!!」
ちっ!目ざとい奴だ。
もっと真面目に喧嘩に集中しなさい。
「タマキ様!!村長も捜しておいでです!!是非ともお会いください!!」
素早く俺たちの前に回り込んだ三毛猫がそんなことを俺に向かって言ってきた。
タマちゃん?背中にいるのは別猫らしいよ?
ん?村長?
それってこのチュウルで一番偉い人でしょ?まさか、そんな偉い人からもお金借りて……いや、タマキ様ってくらいだから――ああ、そういうことなのね。
「死ねやあぁぁ!!」
そんな物騒な叫び声を上げて三毛猫に襲い掛かろうとしている草食獣人。
前には三毛猫、後ろには猛牛。
――はっ!?挟まれた!!
ミノスさんが三毛猫へ向かう直線上に俺とタマちゃん。
身長の高いミノスさんからは、俺越しに三毛猫の姿が見えているんだろう。
じゃあ、俺とタマちゃん(仮)も視界に入ってるんじゃね?
何で無視して突撃してくるの?その他だから?
背中で丸まっているタマちゃんは気付いていない。
気配察知仕事しろ。
俺は咄嗟にタマちゃん(仮)を抱き抱えてその場から跳び避けようと考えた瞬間――
「お前が死ねよぉぉぉ!!」
正面の三毛猫もこちらへ向かって突進してきた。
馬鹿なの?お前は今の今まで話しかけていたタマちゃん(仮)のことを忘れるくらい馬鹿なの?
様付けする相手を間に挟んで喧嘩するとか何なの?
前後から猛スピードで迫って来られ、すでにタマちゃんを抱えて逃げる時間的な余裕は無くなった。
正面から三毛猫の蹴り、後方からミノスさんの菜切り包丁。
そのちょうど間に俺とタマちゃん。
「ゴラアァァァ!!」
「ウニャアァァァ!!」
――ガキィィィン!!
――バシィィィン!!
俺は腰の剣を抜いて菜切り包丁を受け止め、もう片方の手で三毛猫の蹴りを受け止めた。
ミノスさんとは明らかな体格差はあるが、ステータスがモノを言う世界なので関係ない。
でも、蹴りを受け止めた手の平は少し痛かった……。
巻き込まれたくないから手を出したくはなかったんだよねえ……。
「邪魔をすんじゃねえ!!やっぱりお前もそのクソ猫の仲間か!!」
「邪魔とか言うな!!あんたたちが勝手に人を巻き込んでるんだろうが!!喧嘩すんなら、俺たちのいないところで好きなだけやってくれ!!」
「なんだとテメえ!!その後ろの尻尾の女!その尻尾が猫獣人の証拠だろうが!!」
「おい馬鹿牛!!タマキ様に向かって失礼な口を利くな!!」
「はあ?タマキ様が何だって言いやがるんだ!!クソ猫はクソね――え?タマキ様?あんた!あのタマキ様なのか!?」
最初からそこの三毛猫がそう言っている。
聞こえてなかったのか?
その頭の上の可愛らしい耳は飾りか?
見た目は牛で頭の中は鳥なのか?
「――!!ち、違いますよ!!私はタマキ様なんかじゃあり……ま……温泉?」
いや、タマちゃんはそんな親父ギャグ知らんやろ。
必死でタマキ様であることを否定しようとしたタマちゃん(仮)は、それまで深々と被っていたフードが今の2人の攻撃を俺が受け止めた際に起きた風で、(仮)ごと脱げていたことにようやく気付いたようだ。
その下から完全に露わになった素顔。
もう無理。諦めなー。
「ああ!やっぱりタマキ様ですよね!?村長のところのご長女様で、ご兄弟から多額の借金をしたあげくに行方をくらませていた!あのタマキ様ですよね!!」
ミノスさん説明ありがとう。
タマちゃんが借金していた相手というのは、どうやら実の兄弟らしい。
なるほど、確かに身内の方がお金は借りやすいけど、返せない時に気まずいわな。
でも逃げたらあかん。
「タマキ様……」
三毛猫もタマちゃんをじっと見つめている。
「タマちゃん。この村に来た目的は?」
「……借りていたお金を返す為です」
「誰からお金借りてたの?」
「上兄様と……中兄様……」
どうやらタマちゃんの上には2人の兄さんがいるらしい。
いや、この感じなら下兄様もいそうだから3人か?
「下兄様……。あと、下上兄様と下中兄様……それと……」
「ストーップ!!待って!タマちゃん何人お兄さんがいるの?!あと、その下上兄とかって呼び方何?!」
それはどれとどれの間に入るんよ?
「えっと、全部で9人ですね」
将来の夢は家族で野球チームを作ることです。
れっつエンジョイベースボール。
「下上兄様っていうのは下兄様寄りの上兄様ってことで、下中兄様は下兄様と下下兄様の間で――」
数字的にはAカップだけど、限りなくBカップ寄りなんだからね!!みたいな?
「――下上下兄様っていうのは」
「ありがとうタマちゃん。もうその辺で説明は良いよ」
「今ので解りました?」
「うん。大丈夫。よーく理解した」
理解する必要が無いということを理解した。
「で、結局はその9人のお兄さん全員からお金を借りたんだね?」
「あ、お父様からも借りてるんで10人です!」
「何で急に声張った?むしろ言い辛そうにトーン落としな」
家族10人から借金……。
預かってる金額で足りるのか?
「タマちゃん。正体がバレちゃった以上は先に家に行った方が良いね。行かなくても、どうせこの人が報告するだろうから」
俺は三毛猫の方に視線をやりながらそう言った。
「そう……ですね。分かりました!私も覚悟を決めます!!」
「いや、覚悟決めるの遅すぎるから」
「あの……タマキ様。こちらの方々はどなたでしょうか?」
そんな俺たちのやり取りをじっと見ていた三毛猫が聞いてくる。
こいつの目には、俺は透過GIFに見えてたのか?気にするの遅くね?
「この人たちは私の仲間です。決して失礼の無いようにお願いします」
急にタマちゃんの声のトーンが変わった。
あれ?どした?
「お仲間……ですか。承知いたしました!」
膝をついて頭を下げる三毛猫。
気づけばミノスさんも同じような姿勢をとっていた。
村長の娘ってそんなに偉いの?
「あなたのお名前は?」
「はい!私はレフティと申します」
三毛猫のレフティさんは、頭を下げたままそう答えた。
「ではレフティに命じます。私たちはこれより母上の下に参ります。あなたは先ぶれとして知らせに行ってください」
「かしこまりました!!」
そう言うとレフティさんは風の様に走り去っていった。
あまりのタマちゃんの豹変した態度に空いた口の塞がらない俺たち3人。
走っていくレフティさんの後姿をぽかんと眺めていた。
「皆さん、行きましょうか」
凛とした態度で俺たちを促すタマちゃん。
まるでこれまでのタマちゃんが本当にタマちゃん(仮)だったみたいな変わりよう……。
こちらの方が本当の自分だとでも言わんばかりに。
「あ、はい……」
ねえ、覚悟を決めたってそういうことなの?




