新学期
柚子達もいよいよ2年生。
学校内の話ですが、新しい出会いや、新しい展開も出てきます。
拙い文章ではございますが、お楽しみいただけたら幸いです。
「え~と、は、は………」
クラス名簿を順番に眺めていく。
「あ、あった!」
羽山柚子、13歳。
今日から、中学2年生。
-4月-
「柚子ちゃん!おはよ!」
「おはよう、愛」
今年も私はA組だった。
ちなみに愛も一緒だ。
「仲いい男の子みんな離れちゃったね~」
「あー…そう、ね」
啓ちゃんはB組、明宏と賢ちゃんはC組だったらしい。
夏々や莉保ちゃん、あかりさんも違うクラスなので、クラスメイトで仲がいいのは愛となっちゃんだけ…だろうか。
ガヤガヤと騒々しいクラスを見回す。
昨年のB組率が高い。特に男子。
合唱コンの時に騒がしかった例の男子も同じクラスだ。
あいつは一樹をこき使っているらしい。
…正直、不安しかない。
「このクラスで修学旅行行くの……」
「不満そうですね」
「当たり前でしょ」
馬鹿ばかりというのは困り者だ。
私が楽しくない。
「まあまあ、由東先生もいるから大丈夫ですよ!」
「そうよね」
愛の意見に賛同する。
が、あまりいい予感はしなかった。
「それでは、各学年、クラスを担当される先生方の紹介です」
始業式の終盤、いよいよ、各学年担当の先生がわかる。
自分のクラスの担任に関しては、昇降口前に張り出されていたクラス名簿に載っているため、この場で感動は全くない。
…が
「3年進路担当、由東晃亮先生」
3年?進路担当??
前に出てきた彼を見て、聞き間違いでないことを確信する。
「…何それ、聞いてないんですけど」
地声でぼそりと呟くと、隣に座っていた男子が驚いた顔でこちらを見た。
だって私、由東先生と修学旅行行く気満々だったのに。
壇上で紹介を続ける校長を恨めしく睨み付けるも、無論、私の思念が届くはずもなかった。
「どうしてあなたがここへ?」
始業式が終わり、私はB組に来ていた。
「久しぶり!柚子ちゃん」
私に向かって手を挙げる彼は、2年前と何ら変わりない屈託のない笑顔を見せた。
高野蒼司先生。
B組の先生で、今年赴任してきた。
実は小学校時代に、5・6年生の学年担当を持っていてくれた先生で、当時からとても仲が良い。
「先生は小中学校の免許を持ってるからな!」
「いやそういうことじゃなくて」
私の棒読みに楽しそうに笑う彼は、相変わらず冗談が好きな人だ。
「柚子ちゃん、高野先生と知り合いなの?」
例の如く、彼女が話に参加した。
「はい。小学校時代にお世話になった先生です」
「ふーん…じゃあ、井山と吉原も知ってるのね」
「はい。3人とも、5・6年は同じクラスだったので、高野先生に直接担任は持ってもらってないんですけど…」
「あぁ、そうなの」
「柚子ちゃんとは仲よかったんで、なんでも知ってますよ!」
彼女に対して自信ありげに、高野先生はガッツポーズをつくった。
「ふーん、そう」
穏やかな声で彼女も返す。
大雑把な高野先生が気付いたかどうかは知らないけれど、彼女の眉間に少しだけシワが寄った。
「付き合いは浅いけど、私も柚子ちゃんと仲いいから」
捨て台詞のようにそう言って、彼女は下の階へ行ってしまった。
「噂に聞いていた通り、かっこいい先生だなぁ」
高野先生の呟きに、私は
「知れば知るほど、可愛らしい先生ですよ」
と返しておいた。
-5月-
「…でまあ、例の如く怪我したんですけど」
今日は体育大会。
天気は快晴で絶好の運動日和だが、私の気分は全く晴れていない。
「あー、これはまたひどい転け方ね…」
理由は多々あるが、今一番気分が晴れないのは、先程の競技でまさかの味方と正面衝突して転ける、なんてアクシデントがあったからだ。
ずる向けになった左肘を見て、秋谷先生は顔をしかめた。
「…だから嫌いなんですよ、この行事」
「まあまあ、文句言わないの」
「次の競技、絶対手ぇ抜いてやる…」
「こらこら」
消毒液がしみるのと、怪我をした苛立ちで思わず悪態をつく。
「はい、完成」
「ありがとうございます」
きっちり巻かれた包帯は、動かしてずれることもなく、痛くもなかった。
「ま、手は抜きすぎずに頑張ってきますよ」
ハチマキをヒラヒラ振って、救護テントを抜けた。
「あれ?柚子ちゃん?」
観戦ブースの自分の席に帰る途中、彼女に会った。
「先生」
私の左肘を見て、顔をしかめる彼女。
「なに、えらく派手にやってるけど…」
「台風の目で前にいる男子とぶつかった拍子に転けまして…」
へへっと頭をかくと、彼女はため息を吐いた。
「気を付けなさいよ、ヴァイオリニスト。あなた、手に傷なんか付けちゃ痛々しいんだから」
「はーい」
口は少々悪いが、彼女の優しさを感じる。
「全く…あ、そろそろ戻らなきゃね」
「そうですね」
次は"人間橋"という競技だ。クラスで1人、上を駆けていく人と、2人が伴走者になり、残りのメンバーが文字通り橋になって速さを競い合う。
実行委員の方で上を走る人を決めたらしく、それは彼ら彼女らのお友達がすることになったのだけれど、体重的に一番軽いのは私だ。
ヴァイオリンと重ねて――一昨年までの話だけど――ずっとバレエと新体操をやっていたから、多分クラスで体幹がいいのも私だ。
でも言わなかった。
決まってしまったことはもう仕方がないし、何よりも私にやる気がない。
明宏とか啓ちゃんもいないから、丁度いいとか思って。
だけどまあ、どちらにせよやる気がない。
クラスのせいとは敢えて言わない。
たまたま気分が乗らなかっただけ。
私ってそういう人間。
「柚子ちゃん大丈夫なの?今更だけど」
「何がですか?」
「ほら、クラスであなたが一番軽いだろうし、小学校までバレエと体操やってたんでしょ?だから、むしろ下はしんどいんじゃないかって思って」
「ご心配なく。そこまで非力じゃないんで」
「そう?なら、頑張ってもらわないとね」
ふっと笑って、彼女は私の頭の上に手を置いた。
身長162㎝の彼女からしたら、145㎝あるかないかの私の頭の位置は非常に手が置きやすいらしい。
だからいつも、ぽんぽんとされるのだけれど。
「同じブロックとしてあなたの健闘を祈りますわ、お嬢様」
落ち着くアルトボイスでそう告げると、彼女は悪戯な笑みをこぼした。
「…じゃあ、頑張ります」
不意打ちと照れで耳まで赤くなっているのを感じながら、そう答えた。
兎に角彼女が言うのだから仕方がない。
「まあでも、包帯外れない程度にね」
しっかり巻いてある包帯をそっと撫でて、彼女はメインステージの方へと行った。
きっと今から審判の仕事があるんだろう。
「私も戻ろう」
左に巻かれた包帯にそっと触れる。
触れても、動かしても外れない。
所作が綺麗な女の人って、すごく好きだな。
1人でふっと笑う私であった。




