新展
結果が惨敗だったのは去年も一緒だ。
悪餓鬼も含め、クラスの皆が涙ぐんでいるのに私だけが平気な顔をしているのも去年と一緒。
だけど……
「なんか、すみません」
お昼ごはんの時間、たまたま廊下で会った彼女に頭を下げる。
「…え?何の話?」
出会い頭に謝られて、彼女は随分と困惑した声を出した。
「折角先生にパワーもらったのに、勝てなかったから…」
「…ああ」
ふふっと笑う彼女。
「せ、先生からしたら"なんだそんなこと"な案件かもしれないですけ…」
「一生懸命、頑張れた?」
私の言葉を遮って、彼女は問いかけた。
顔を上げると、いつものように優しく微笑む彼女がいる。
「え…と……自分なりには」
「うん」
1つ頷いて、また、私の頭の上に手の平をのせた。
「それならOK」
"行事ごとっていうのは、結果だけが全てじゃない"
数ヵ月前、彼女に言われた言葉を思い出す。
「そっか…」
今するべきことは、次に向かって準備をすること。
「落ち着いた?」
「はい、ありがとうございます。先生」
笑顔を返すと、彼女は満足そうに手を離した。
「ファイト」
優しく背中を押される。
クラスのためとか、別にこの行事が好きだからとかじゃないけど、応援してくれる彼女のために、頑張ろう。
午後、A組は学年競技で1つ優勝した。
ただ、午前で開いた差は一歩届かず、結局負けてしまった。
「今年は単級だから、予想以上に虚しなるなぁ」
のんびりと、でも寂しそうに坂本先生は呟いた。
「……そーですね」
放送機材を片付けながら、相槌を打つ。
別に適当に言ったわけじゃない。
どう返事をしたらいいのか少し迷ったのだ。
「ま、まあ、次の合唱コンで挽回しましょうよ」
こういう時、気の利いた言葉の語彙があればいいのになぁなんて思う。
だけど思うのは、一時的だ。
「そうだな~…羽山、いいこと言ったな」
爽やかな笑顔をこちらに向けて、坂本先生が言う。
嬉しさの片隅で、こうして笑えばイケメンなのに、どうして彼は残念に見えるのだろう、とぼんやりと考えた。
でもそれも、一時的なことだ。
-6月-
「明後日のお祭り、どうする?柚子ちゃん」
梅雨の6月。
じめじめと少し湿った部室で、あかりさんに問われた。
「う~ん…」
少し考える。
「あ」
そして思い出した。
「今年はヴァイオリンのお稽古と多分被るから行けないわね」
「なるほど!」
「じゃ、私も今年は行かないでおこうかな」
「え??」
あかりさんの発言に思わず驚く。
「別に、愛と行ってきたらいいじゃないですか」
「いやでも去年はほら、柚子ちゃんが行くって言って行ったから。それに私、人混みって大して好きじゃないしね」
「そーですか」
地元のお祭りは小規模だし、もうこの歳になると飽きてくるというものだ。
「愛は?」
「よっちゃんと行きます~」
「ふーん」
"よっちゃん"こと野村葉ツ羽は、愛の1つ下の妹だ。
姉より背が高く、姉より少しだけ勉強ができ、ついでに言うと、うちの学年のしっかり者ランキングだと多分ワースト5には必ず入るであろう姉―――つまり愛より天然で、自称ドS。
まあでも、見ているこちらとしては可愛いもんである。
「あんたらって仲いいの?」
「いやぁ…どうなんでしょ?」
(普段やられっぱなしの)姉の愛が優しいから、上手くいってるんだろうな。
「柚子ちゃんの弟君は?」
「塾」
私の弟、羽山紅葉は、現在小学4年生。中学受験をするべく、塾に通っている。
「はぁ~兄弟揃って勉強ですか」
「私、塾行ってないわよ」
「それであの点数って…化け物ですね」
愛の一言にあかりさんが吹いた。
「柚子ちゃん化け物……まぁ、あり得なくもないか」
「え、何それ。どういうことですか?」
「だってほら、擬態するでしょ。いろんな場所で」
「あー」
でもその化け物、現代社会に結構いると思いますよ。
「あ、今日、休みだ」
祭り当日。土曜日のため学校はお休み、そしてヴァイオリンもお休みだった。
「あかりさんにメールしてみよ」
"今日休みだったんだけど、お祭りどうする?"に対する答えは、アニメコラボカフェの写真が添付された本文のないメールだった。
彼女の場合、答えはNOだ。
「暇…だなぁ…」
勉強でもするかと問題冊子に手をかけた時だった。
机に置いたばかりの携帯が、着信を告げる。
発信主は賢ちゃんだった。
「もしもーし」
「あら、お元気?変わらないわね」
ほんの1か月前は教室内で聞いていた声が、電波に乗ってこちらに届く。
「柚子さ、今日はなんか予定あんの?」
「特に何もないけど」
「え!?祭りは??」
「あー…」
私はそこで、今日がヴァイオリンのレッスンのお休みの日だったことと、唯一の頼みの綱であるあかりさんがお祭りに来れないことを話した。
「あれ?お前って、雛形と仲良かったっけ?」
「美術部仲間よ」
「あーそういう」
「何、意外だった?」
「いや別に~」
いつものように他愛もない話をする。
だけど、向こうに言いたい用事があることは明確だ。
「…で、用事は何?」
「………………」
私が尋ねると向こうはだんまりになってしまった。
「何よ」
「あ、あのさ」
おずおずと賢ちゃんが声を出した。
「早く言いなさいよ、らしくもない」
「俺……」
やや沈黙があってから、意を決したように賢ちゃんが一呼吸した。
「俺さ、柚子が好きだ」
衝撃の一言。
今の私には、それ以外、言い表すことができなかった。




