謎の行事
-11月-
「「合同学習??」」
昼休みの廊下。私と莉保ちゃんの声が重なる。
「はい!…あれ?2人とも小学校の頃やりませんでしたか?」
由東先生が不思議そうに首を傾げた。
「やった覚えがないわ…」
「ボク、遠くの小学校に行ってたからわかんないなぁ」
「そうですか~」
"合同学習"というのは、この11月から2月までの長期間行う行事で、近隣の小学校5、6年生と私たち中1がグループに別れて、調べものをして発表する、というものだそうだ。
3学年の中で私たちは一番上、つまりリーダーになるんだけど…
「頂点に実行委員がいるんですよ」
「実行委員…」
"合同学習実行委員"。要するに、運営側というわけだ。
「で、それをボクたちにやれと?」
「強制じゃないんですけど、先生がこの企画の進行を任されちゃったんで、どうせならやりやすい生徒の方が改革もできていいなぁなんて思ってまして…」
「うわ、私欲丸出し」
へへっと照れ笑いをする由東先生。
いや、誉めてないし。
「ま、考えときます」
「ボクも~」
「ありがとうございます」
先生が恭しく頭を下げたところで、丁度予鈴が鳴った。
「ではでは、また後で」
「はーい」
次の授業は国語。
うきうきと教室に入る。
そう言えば、6時間目の学活は何をするのかしら?
「小学校の頃にやったやつも多いと思うけど、今日は"合同学習"についての話をするぞ~」
なるほど、6時間目の学活に決めるのね。
「急なことだから考えたいやつもいるやろうし、実行委員の最終決定は明日にするな~」
坂本先生はそう言った。
「柚子、どうする?」
掃除時間、啓ちゃんが話しかけてきた。
「どうって?」
「実行委員、やるの?」
「ああ~」
そんなこと訊かれても私半強制なのよね……
どうせ莉保ちゃんもやるだろうし。
「やるつもりでいるわ」
「そっか」
そうなればどうせ私の隣には啓ちゃんが立つんでしょう。
あ、でも、今は後期の学級委員なのよね、啓ちゃん。
役職も、10月までは前期、11月から後期として、バトンタッチをする。
まあ、私みたいに通年放送委員、国語係なのも少なくないのかもしれないけど。
「決めるのは明日だから、まあゆっくり考えてみるけどね」
とはいえ半強制なのだから、考える余地なんてないんだけれど。
「…というわけで、よろしくお願いします!」
翌日の放課後。
会議用の教室で、由東先生がにこやかに挨拶をする。
対して私の顔は一段と暗い。
なぜなら、隣にやつがいるからだ。
「何でそんな不服そうな顔なんだよ」
「理由が分からないなら、あなたの脳みそは鶏以下よ」
明宏。よきライバルでありながら、色んな意味で天敵である。
何よりもこいつと一緒に仕事をして意見が初めから一致したことなんてない。
私が好きなようにもさせてくれないし。向こうも妥協なんてしないし。
「"鶏以下"ってとこが柚子らしいな!」
今、思いきり不穏な空気を消し去ったのはC組の山原夏々。
私と家が近所で、小学校も一緒な上に、今も私と登校している子。
なぜ今の今まで出てこなかったのかというと、まあ、別段出てくるような話がなかったからだ。
仲が悪いわけじゃないけど。
「"らしい"って言わないでくれる?私が辛辣な人みたいじゃない」
「お前辛辣以外の何者なの?」
「え?柚子は辛辣だろ?」
明宏と夏々、両方から突っ込みを受ける。
夏々は話し方が少し男の子っぽいので、乱雑だと勘違いされやすいけど、実はとても繊細な乙女だ。
ていうか、馬鹿言わないで。
私そんなに辛辣じゃないわ。
「まあまあ、先に委員長決めちゃいましょう!」
"どうでもいい"感が滲み出ている由東先生が口を挟んだ。
この人は時々、笑顔と雰囲気のギャップのせいで、優しいんだか怖いんだかわからなくなる。
「委員長ねぇ……」
周りを見渡す。
A組の実行委員は私と明宏、B組は男子の方はよく知らない子だけど、女子は前期で学級委員をしていた伊丸桃歌さん、C組は夏々と浦松涼太。
浦松も前期の学級委員だ。
まあ、別に元学級委員がたくさんいるんだし…
「先生的にはですね……」
"別に誰でもいいんじゃない"という私の言葉は、由東先生が話し始めたことによりかき消された。
そのフレーズ、ずいぶん前にも似たような感じで聞きましたよ。
後、"的にはですね……"で止めないでください。
周りの人からしたら不審以外の何でもないでしょう。
「誰かいますか?」
私の表情が変わったのを見届けてから、もう1度にこやかに、由東先生は訊ねた。
「……はーい」
もうこれは手を挙げるしかないわね。
目配せをすごくされてるし。
「じゃあ、羽山さんで!」
とびっきりの笑顔で先生はそう言った。
いやまあ、ほぼ強制だし。私が断れないだけなんだけど。
なんか、納得いかないわね。
そう思っていると、教室に彼女が入ってきた。
「遅れてごめんなさいね。…で、どこまで進みました??」
「あ、福原先生。今、委員長まで決まりましたよ」
「そう。委員長は誰?」
私がそっと手を挙げると、
「あら、柚子ちゃんなのね」
と彼女は言った。
「いいんじゃない?委員長」
少し悪戯っぽくこちらを振り向く彼女。
なんかもう、立候補とか強制だとか、どうでもいいや。
「ごめんねぇ!姫」
朝一番に莉保ちゃんが、なぜか私に謝った。
「え?どうしたの?」
「だって、実行委員、なれなかったから」
「ああ」
C組の実行委員は夏々だから、まあ、莉保ちゃんがなれなかったことは知っているんだけど。
大方、じゃんけんに負けたか、夏々の圧に負けたかのどっちかだろう。
「話し合いで山原さんの圧に負けちゃって…」
やっぱり。
「そうだったのね。ま、夏々は少し強引だから仕方無いわよ」
「うん……」
莉保ちゃんは少しだけ残念そうだった。
-12月-
「――で、明日から冬休みに入るんですが、自分たちの課題、調べておくべきことはやっておくようにしてください。以上です」
実行委員の連絡を告げ、帰りの挨拶をする。
「柚子、じゃあ、27な」
「また連絡するわ」
啓ちゃんと賢ちゃんが声をかけてくる。
「ええ、また」
私も返事を返した。
最近、啓ちゃんと賢ちゃんと私の3人でグループトークなるものを作った。
発端は賢ちゃんが"仲のいいこの3人で遊びに行きたい"的な話をして、グループを勝手に作ったことによるんだけど。
そして冬休み中に1度、3人でカラオケに行くことになった。
正直、すごく楽しみだ。
鼻唄を唄いながら廊下を歩いていると
「柚子ちゃん」
彼女に呼ばれた。
「何ですか?」
上機嫌で返す。
「ちょっと、いい?」
手招きをされ、私も答える。
入った先は、相談室だった。
「ちょっと言いたいことがあるんだけど」
「はあ」
「あなた、男女の距離感って分かってる?」
???距離感?
「はあ、まあ」
「近すぎるから注意しておこうと思って。由東先生とか、吉原とか」
だってまあ、意識したことないし。
そもそも啓ちゃんは幼馴染みだし。
言い返したいけど、彼女がこれを訊ねる真理が分からないから、あんまり余計なことは言わない方がいいのかな。
「分かりました。…じゃあまあ、気を付けます」
「うん、よろしくね」
微笑まれてドキッとする私。
正直言うと、距離感を本当に測りたいのは女の子の方なんだけどなぁ。




