国王になった王子様 6
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――だから、アーネストお兄様が過保護なのは昔からだって、わかってはいる。
なのだけど……これは、どうしたものかしらね。
わたしに新しく教師が手配されると聞いて八日後。
わたしの元に、アーネストお兄様のおばあ様が王太子妃だった時に、王妃教育の教育係を務めたという方の娘が教師として派遣されて来た。
五十歳を少し過ぎたくらいの品のいい女性教師――イヴリン先生は、白髪交じりのブルネットの髪を一つにまとめて、丸眼鏡をかけた、おっとりと優しそうな先生だ。
そして、先生を直々にわたしの部屋に連れてきたお兄様は……何故か、先生がわたしに今後の授業について説明する横で、優雅にお茶を飲んでいる。
しばらくは好きにさせていた先生も、いつまでも居座り続けるお兄様にあきれ顔を浮かべた。
「陛下、わたくしはカレン王女殿下に意地悪なんてしませんから、いつまでも張り付いていらっしゃらなくて大丈夫ですわよ?」
するとお兄様は、しれっとした顔で。
「カレンが慣れるまでは側にいる」
「……と言うことは、授業のたびにこちらにいらっしゃると、そういうことでよろしくて?」
「ああ」
「陛下。お言葉ですけど、陛下の毎日のスケジュールはとても過密です。授業は週に五回のペースでスケジュールを組んでおります。とても毎回こちらに訪れるお時間が陛下にあるとは思えませんが?」
「時間はどうにかする」
「戴冠そうそう悪い噂が立ちますのでおやめください」
まったくである。
戴冠そうそう、怠惰な国王だなんて思われたら大変だ。わたしは大丈夫だから、お兄様はお仕事を頑張ってほしい。
アーネストお兄様はとっても不服そうだけど、ダイアナも横でうんうんと頷いているからか、ちょっと悔しそうに舌打ちした。
「わかった。では時間が許すときに来る」
「……まあ、それならばいいですが、邪魔だけはしないでくださいませ」
イヴリン先生は、部屋に居座るアーネストお兄様を見ないことにしたらしい。
アーネストお兄様はダイアナにお茶のお代わりを頼んで、暇つぶしに、わたしが作りかけていた刺繍を取り出してしげしげと眺めはじめた。
イヴリン先生は持参してきた数冊の本をローテーブルの上に並べる。
「王妃教育と一言で言っても、いろいろございます。代々の王妃様たちがすべてを網羅しているわけでもございません。本来であれば、国王陛下が苦手とするところを補うように学んだり、または王妃様本人がお得意なところを伸ばしたりするものですが……カレン様の場合は、お得意な分野を伸ばしたほうがよろしいでしょうね。アーネスト陛下は万能型なので、あまり苦手とする分野がございませんし」
それはわかったけれど、王妃教育ってどういうことなのかしら。
もしかしてアーネストお兄様は、わたしがノウェスナー国に帰った後で嫁ぎ先に困らないように、他国にも嫁げるようにしてくださるおつもりなのかしらね。
ちょっとよくわからないけれど、せっかく教育の機会が得られるのだから、教えてもらえることは吸収しておきたい。
「アーネスト陛下から、カレン王女殿下は内政の方がお得意だろうと聞きました。内政を中心に進めましょうか」
わたしって内政が得意だったの? 知らなかったわ!
まあ、外交なんてしたことがないから、いきなり外交について学びましょうねと言われても困ってしまったでしょうけど。
「内政と言っても分野が分かれておりますが、福祉関連と、あと、数字にお強いと聞いておりますので税務関係を最初に学びましょう」
わたし、数字に強かったの? これも知らなかったわ!
イヴリン先生が持っている情報は間違いなくアーネストお兄様がもたらしたものでしょうから、お兄様の目ではわたしってばそうなのね。
お兄様の期待を裏切りたくないから、頑張らなくては。
イヴリン先生から教科書の説明を受けていると、アーネストお兄様が思い出したように顔を上げた。
「ああそうだった、カレン。午後から仕立屋を呼んである。イヴリン夫人も交えて、ダイアナと三人でドレスを注文しておいてくれ。そうだな……ひとまずは十着ほどあればいいだろう。ダイアナ、必要だと思ったものはすべて買っておいてくれて構わない。……母上が取り上げていた八年間分のカレンの金も、母上の私物を売り払ってすべて回収したからな。好きなだけ買えるぞ」
お兄様、今、アナスタシア様の私物を売り払ったって言った? え? 聞き間違いよね?
ダイアナはにこりと微笑んで、まるでご褒美と言わんばかりにお兄様にバターケーキを差し出した。
「まあ、それは楽しそうですね。では遠慮なく、午後からお買い物三昧と行きましょう、カレン様」
詳しくツッコむのが怖くなったわたしは、「母上の私物を売り払って」という部分を訊き返すのをやめて、黙ってこくりと頷き返した。
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