国王になった王子様 4
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生活拠点がお城に移って、一週間が経った。
国王陛下になったアーネストお兄様は以前にも増して忙しそうだけど、必ず、毎日の朝食と夕食は一緒にとってくれる。
朝はわたしの部屋で、夜はお兄様の部屋か、もしくは広いダイニングルームだ。
ダイニングルームで夕食――晩餐を取るときは、アーネストお兄様の一歳違いの弟グラッドウィン殿下も一緒だから、少しだけ緊張してしまう。
アーネストお兄様と違って、グラッドウィン殿下とはあまり会ったことがなかったから。
噂によるととても優秀な第二王子で、性格も穏やかな方だというけれど、一方でアーネストお兄様とグラッドウィン殿下はあまり仲が良くないとも聞く。
グラッドウィン殿下は、アーネストお兄様と同じく銀色の髪だけど、瞳はお兄様と違って灰色で、身長もお兄様より少し低くて華奢だ。
これもあくまで噂だけど、アナスタシア様は長男のアーネストお兄様よりグラッドウィン殿下の方を可愛がっていた、とも聞くわ。
だからなのか、お兄様がアナスタシア様を北の離宮に送った際は、グラッドウィン殿下から苦情が入ったんだそうよ。
アーネストお兄様はまだ結婚していないし子供もいないから、現時点でグラッドウィン殿下が王位継承順位一位なの。
帝王学以下、国王として学ばなければならないことは、アーネストお兄様もグラッドウィン殿下も共に学んでいるから何ら問題ないそうよ。
「アーネストお兄様は十九歳だし……そろそろ、結婚に本腰を入れないといけないわね」
午後。ちくちくとアーネストお兄様のハンカチに刺繍を入れながらつぶやけば、わたしのためにお茶を入れてくれていたダイアナが手を止めて微笑んだ。
「そうですね。でも、陛下は、どれだけ縁談を持って来られても全部突っぱねていると聞きますわ。きっと、すでに想う方がいらっしゃるのでしょう」
「想う方……」
つきん、と胸の奥が痛くなる。
……それが本当なら、アーネストお兄様が愛する女性って、いったいどんな方なのかしら。
綺麗な方かしら。
上品な方かしら。
聡明な方かしら。
どちらにしても、わたしのような役にも立たない人質王女でないことは確かね。
国王であるお兄様の隣に立っても恥ずかしくないような素敵な女性に決まっているわ。
「じゃあ、近いうちにご結婚……されるのかしら?」
「いえ、もう少し先になるでしょうね。具体的には……あと、二、三年ほどはかかるのではないでしょうか? 根回しが必要ですので」
「まあ、そうなのね」
じゃあ、わたしが人質期間を終えてノウェスナー国に帰るまでは、お兄様は誰のものにもならないということかしら。
……結婚するお兄様に、面と向かっておめでとうございますなんて言えないから、よかったわ。
ホッと胸をなでおろしていると、ダイアナがわたしの前にティーカップを差し出してくれる。
「ですので、カレン様も、これから少し頑張っていただかなくてはなりません」
「わたしが?」
「ええ。具体的には追加の教師が手配されます。王女殿下として必要な学習はすべて終わっていると陛下から聞いておりますが、周囲を黙らせるために、もう少し上乗せをしていただこうかと」
「?」
わたしが追加のお勉強をしたら周囲が黙るって、どういうことかしら?
でも、わたしが学ぶことでアーネストお兄様やダイアナが楽になるのなら、もちろん否やはないわ。どのみち、ここですることと言ったら、本を読んだり、アーネストお兄様に乞われてハンカチに刺繍を入れるくらいだもの。
「ようやくうるさいのがいなくなって、陛下はとても嬉しそうですよ」
「うるさいの?」
「まあ、あと一匹残ってはいるんですけど」
猫か犬か……動物の話かしら?
もしかしたら、お城で子犬か子猫が生まれて、里親に出したのかもしれないわね。
あと一匹残っているのなら見てみたいけど、でも、情が移ったら里親に出すときに寂しくなってしまうから、我儘は言わない方がいいわね。
「ですので、カレン様はどうぞご安心してお過ごしください」
「? え、ええ、わかったわ。その、追加の教育の件だけど、いつ頃からはじまるのかしら?」
「早ければ来週でしょうか。陛下が教師の人選をしておりますので」
「お兄様自ら教師を選んでいるの⁉」
「もちろんです。カレン様にお付けする教師ですからね」
アーネストお兄様ったら、国王になったばかりでとっても忙しいはずなのに、どうして自分から余計な仕事を増やすのかしら?
……わたしのことは気にしなくていいから、ちゃんと休んでほしいわ。
わたしはとっても心配しているのだけど、ダイアナは何故か楽しそうにしている。
「陛下はすごくカレン様が大切なんですね」
そうね。実の妹のように大切にされている自覚はあるわ。
でも、わたしのことより、今は国王陛下なんて身分になったお兄様自身のことを第一に考えてほしいのよ。
……お兄様って、昔から全然変わらないんだから。
わたしはそっと息を吐き。五年前のことを思い出した。
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