甘く優しい籠の中 3
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左の足首からアンクレットが外されて、わたしはお兄様に連れられて久しぶりにお城に戻った。
やたらと兵士やお城の使用人たちに注目されるのは、きっと、どうしてまだ人質王女がここにいるのだろうと思われているからなのでしょうね。
だけど、それよりももっと気になることがある。
お兄様が向かっている先は、わたしが使っていた部屋とは違う方角のようなのだ。
……どこに行くのかしら?
てっきりお城の部屋に戻されるのだと思っていたけれど、違ったのだろうか。
もしかしたら、人質期間が終わったから、部屋が客室に変わるのかしら。
でも、お兄様が向かっているのは、王族の居住区だと思うのだけど、どういうことなのかしら。
お兄様は、まるで逃がさないとでもいうようにわたしの手をしっかりとつかんでいる。
逃げるつもりはないけれど、向かう先が向かう先だからちょっと足がすくみそうになるわ。
人質期間が終わったとはいえ、わたしは人質だった王女だ。
そのわたしが、フェアクロフト国の王族たちの暮らす特別な場所に足を踏み入れていいのだろうか。
……お兄様はともかく、グラッドウィン殿下あたりが眉を顰めると思うの。
だというのに、数歩後ろをついてくるダイアナも平然とした顔をしている。
廊下にいる使用人や兵士たちもわたしに咎める視線を向けるものはいなかった。
それが不思議で、わたしの中にたくさんの疑問符がぽこぽこと浮かび上がる。
「あ、あの、お兄様。いったいどこへ向かうのですか?」
「カレンの部屋に決まっているだろう。いや、ちょっと違うか。カレンと私の部屋だよ」
……え?
一瞬、幻聴が聞こえたかと思った。
今、お兄様は何と言ったかしら?
カレンと私の部屋、と言った?
……待って? お兄様は国王陛下よ? その国王陛下と、どうしてわたしが同じ部屋なの? それは、とってもまずいのではないかしら?
いくら妹のように思ってくれていても、実際は妹ではないのだ。
いや、そもそも、本当の妹であっても同じ部屋で過ごすのはおかしい。
だけど、何かを言いかけたわたしに向けられたお兄様の視線が冷たくて、思わず口を閉ざしてしまう。
わたしがあれやこれやと質問すると、お兄様の機嫌が悪くなることがあるけれど、今回もそれに該当する質問なのかもしれない。
……あとでダイアナに聞きましょう。
わたしに怒っている時のお兄様は同時にとても悲しい顔をするから。お兄様にそんな顔をさせたくないの。
わたしが黙ってこくんと頷くと、お兄様が一転してとろけるような笑みを浮かべる。
そうしてお兄様に連れてこられたのは、やはりと言うかなんというか、国王陛下とその妃が使う部屋だった。
わたしの部屋は、国王であるお兄様の部屋と内扉で続いていて、さらに寝室も同じというとんでもないことになっているのだけど――これに質問してもお兄様が暗い目をしそうだから、わたしは喉元まで上がって来た疑問をごくんと飲み込む。
「カレンが好きそうな内装に変えてみたんだが、どうだろうか? 手直ししたいところがあったら遠慮なく触ってもらって構わないよ」
淡いグリーンや黄色、ピンクや白など、やわらかく明るい色で揃えられた室内はとても可愛らしい印象を受ける。
お兄様がわたしのために内装をやり替えてくれたと聞いて、とても嬉しい。
だけど……この部屋をわたしが使ってもいいのだろうか。だって王妃の部屋だ。絶対のおかしい。そもそもわたしはノウェスナー国に帰らないといけないのに。
余計なことを考えたから、わたしの顔が少し曇ったのだろう。
表情の変化に気づいたお兄様が心配そうな顔をする。
「少し子供っぽすぎただろうか? カレンの好きな色を揃えて見たんだが」
わたしはハッとして首を横に振った。
「いえ! とても素敵です。ただ……」
「ただ?」
「ええっと……。わたしが、この部屋を使っても、本当にいいんでしょうか」
「当たり前だろう。この部屋をカレン以外の者に使わせるつもりはないよ。おいで。こっちが私の部屋だ。内扉の鍵は壊しておいたからかからないよ。自由に出入りできる」
今、鍵を壊したと言っただろうか。
……き、聞き間違いよね?
背後で、ダイアナが額に手を当ててため息をついている。
だけど、お兄様はとても機嫌がよさそうだ。
わたしの手を引いて、寝室と自分の部屋を案内する。
もう、自分自身では答えを見つけられないたくさんの疑問が浮かびすぎて、わたしはひとまず思考を停止することにした。
お兄様が楽しそうだし、水を差す必要もない。
きっとダイアナが答えを知っているはずだから、ダイアナと二人きりになるまでは、もう、何も考えずにお兄様の説明を聞いておこうと思った。
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