甘く優しい籠の中 2
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季節はすっかり秋になった。
わたしが離宮に閉じ込められて三週間が経つだろうか。
本当であれば、そろそろ十年の人質期間が終わる頃である。
……お父様たち、心配していないかしら?
そういえばわたし、予定より早く国に帰るって手紙を出したんだったわ。
それなのにいつまでも帰って来ないわたしに、お父様たちが心配しているかもしれない。
もっと言えば、人質期間がもうじき終わるのに、わたしの返還のやり取りがされないことにもやきもきしているだろう。
お父様たちに手紙を書きたいけれど、外部との接触を禁止されているわたしには手紙を書くことができない。
「ねえダイアナ。今、外はどんな様子かしら? わたし、もうそろそろ国に帰らなくてはならない時期だと思うのだけど」
お兄様がいない時間を見計らってダイアナに訊ねれば、とっても困った顔をされた。
「申し訳ありませんカレン様。わたくしの口からは現時点では何も言えず。……すべてが終わればあのくそったれ陛下をぶん殴っても構いませんので、どうぞ今しばらく耐えてください」
「ええっと……ええ?」
くそったれ陛下って、もしかしなくてもお兄様のこと?
どうしてわたしがお兄様を殴ることになるのかしら?
ダイアナはわたしの左足首に視線を落として、そっと息を吐く。
「わたくしといたしましては、いっそのことわたくしが物語の王子様になってカレン様をここから助け出して差し上げたいくらいなのですが……現在、とても慌ただしいのです。大変忌々しいことですが、ここが一番安全なのですよ。何故なら陛下ががちがちに守りを固めていますからね」
「それは、いいのだけど……」
閉じ込められていることに不満があるのではなくて、国同士の問題に発展しないかしらってことが心配なのよね。
でも、どういうわけかお兄様は、わたしが国の関係とか、お兄様の立場とかを心配すると、とっても怖い顔をするのよ。だからお兄様には直接聞けないの。
わたしがちょっとでもそんなことを口走ろうものなら、「鳥籠に閉じ込める」とか「いっそカレンの視界を塞いでしまおうか」とか「あまり余計なことを言うなら国王の椅子などとっとと燃やして捨ててカレンを連れて遠くに逃げる」とか「ダイアナがいるから余計なことを考えるのだろうか。ダイアナを追い出して私の影武者に国王をやらせて、カレンの世話はずっと私がしようか」とか意味不明なことばかり言うのよ。怖い顔で。
……お兄様ったら、いったいどうしたのかしら?
ダイアナが慌ただしいというくらいだから、お兄様は疲れているのかもしれない。
疲れを癒して差し上げたいけれど、わたしのちっぽけな力ではお兄様のお手伝いは難しい。だからここを訪れる時は、余計な心労は与えないようにしようって思うのよね。
だから、お兄様の機嫌が悪くなるようなことは言わないようにしなくては。
「でも、あらかたのことは終わったようですので、カレン様が個々から出られる日も近いですよ。……いろいろ準備もあるので、出たら出たでまた慌ただしくなりそうですけど」
慌ただしいことが終わったらまた慌ただしいことができるのね?
外がどうなっているのかとっても不安になって来るけど、戦争が怒っているわけではないのだと思う。さすがに戦争であれば離宮に閉じ込められていても気配でわかるものね。
だから外国からの賓客とか、重要な貿易とか協定とか、そういう問題が起こっているのかもしれないわね。
だとしたら、お兄様が疲れるのも納得だわ。外国とのやり取りはとっても気を遣うものね。
「お兄様が心配だわ。ダイアナ、どうすればお兄様のお心をお慰めできるかしら?」
「カレン様が刺繍したハンカチでもあればすぐにご機嫌になりますよ。手持無沙汰でしょうし、刺繍道具とハンカチを用意しましょう」
「そ、そう? じゃあお願いするわ」
そんなものでお兄様の機嫌がよくなるのかどうかは甚だ謎だったけれど、お兄様はよくハンカチを欲しがるから刺繍はいいかもしれないわね。気晴らしになるし。
ダイアナに進められるままにチクチクとハンカチに刺繍を刺し、それが十枚くらい溜まったころ。
秋も深まったある日――わたしは、離宮から出る許可を得るとともに、衝撃を受けることになる。
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