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人質王女は幼馴染の国王の執着から逃れられない  作者: 狭山ひびき


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甘く優しい籠の中 1

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 お兄様はここのところ、機嫌がいい。


 この前の、瞳に暗い色を宿していたお兄様は、あの時だけだったようで、暇を見つけては離宮に来て、せっせとわたしの世話を焼いている。

 まるで、わたしの部屋が城に移される前に戻ったみたいに。


 あの時と違うことは、この離宮にはわたしに冷たい使用人がいないと言うことだろうか。

 ダイアナはお兄様がいないときは常に側にいてくれるし、離宮にいる使用人たちもみんな優しい。聞いたところ、今の離宮にいる使用人は、ギブソン公爵家の派閥に属する者たちだそうだ。

 彼等からダーラ・ギブソン公爵令嬢がわたしに会いたがっていると聞いたけれど、お兄様によって来客が禁止されているために来られないのだと言っていた。


 お兄様は今、重要なお仕事をしているのだと思う。

 それが何なのかはわたしにはわからないけれど、わたしを完全に隔離していることを考えると、かなり慎重さを求める案件なのだろう。

 いまだに足にはチェーン付きの金のアンクレットが輝いているし、外部との接触を禁止されているし、まったく不安がないというわけではないけれど――、なんとなく、わたしが黙って城から逃げ出したことに激怒しているみたいだから、余計なことは言わない方がいいだろう。


 ……でも、どうしても一つだけ、すっごく気になることはあるんだけど。


 それは、お兄様が夜には必ずわたしの元を訪れて、わたしの部屋で夜を過ごして帰ると言うことだ。

 別に、何かあるわけではない。

 わたしのベッドにもぐりこんで、朝までわたしを腕の中に抱き込んで寝ているだけ。

 もちろん、わたしの心臓はドキドキしすぎて爆発寸前だけど、お兄様にとってはわたしは妹のようなものだから、お兄様は一緒に眠っても何も感じないのだろう。


 でも、結婚できる大人になった男女が毎夜同じ部屋で、同じベッドで過ごすというのは、周囲に多大なる誤解を与えると思うのだ。

 お兄様は聡明な方だから、そのくらいわかっているはずなのに――


 ……このままだったら、お兄様に変な噂が立つかもしれないわ。


 今日も今日とて、腕に抱き込まれているわたしは考える。

 例えば、人質王女を囲っているとか。

 人質王女と愛人関係にあるとか。

 とにかく、不名誉な噂が立つかもしれない。

 それだけは阻止しなければと、わたしはお兄様の腕の中で顔を上げた。


「あの、お兄様」

「……うん?」


 半分眠りに落ちていたのか、どこか気だるげな声がした。


「ええっと、すごく言いにくいのですけど……あの、毎日夜にわたしの元にいらっしゃるのは、その……お兄様の立場的に、あまりよろしくないのではないでしょうか?」


 控えめに、身長に言葉を選んで訊ねてみたつもりなのだけど、わたしがそう言った途端、お兄様の様子が一変した。


 気づいたら、くるりと視界が回って、わたしはお兄様に抑えつけられるようにのしかかられる。

 頬のラインをなぞるようにお兄様の指が滑って、わたしはぞくりとした。

 夜の帳が降りた室内で、お兄様の表情までははっきりとはわからない。

 だけど、闇に浮かび上がるお兄様が、とても怖い顔をしているような気がした。


「なるほど、カレン。今度は私の立場か。国、王女の立場、そして私の立場……いったいどうすれば、カレンの中で私より優先する邪魔な存在を消し去ることができるのだろうね。やっぱり、こんなぬるい閉じ込め方ではダメだったかな。もっと……そうだね。いっそ、私の部屋を回想して、カレン専用の鳥籠でも作ってしまおうか」


 わたしの頬を撫でる手つきはとても優しいのに、言っていることはちっとも優しくない。

 つまりそれは、わたしを小鳥のように鳥籠に閉じ込めようと、そう言っているのだろうか。


 ……ほ、本気じゃ、ないわよね?


 だけど、わたしの言葉の何かがお兄様の逆鱗に触れたのは確かだった。


「ご、ごめんなさい。でも、お兄様が悪く言われるのは……」

「私は一向に構わない。むしろどうしてカレンの元で過ごして悪く言われなくてはならないのか理解できないな。カレンは私のものだ、そうだろう?」


 低い声で、耳元で命令するように訊ねてくる。


「は、はい……」

「私が、私のものの側で過ごすことに、問題なんてないはずだ。違うか?」

「ち、違いません」

「ならばこの話は終わりだ。次によけないことを言ったら、本当に鳥籠を作って閉じ込めるよ。わかったね?」


 こくりと小さく頷くと、お兄様の気配がふわっと優しくなった。

 頭を撫でられ、体勢が元に戻って、またわたしはお兄様の腕の中。

 満足するようにわたしのつむじのあたりに顎を乗せて、お兄様が「おやすみ」と囁いてくる。


 ……てっきり、いつものお兄様に戻ったと思ったのに、きっと、まだ怒っているのね。


 わたしが黙ってお城から出て行ったことを、お兄様はまだ許していないのだろう。

 わたしはしょんぼりしつつも、わたしを抱きしめるお兄様の腕の中は優しくて、何も考えずに目を閉じてしまう。


 お兄様が怒るから、立場とか他人の視線とか、そういうのは気にしなくていいのだと自分に言い訳して、お兄様に甘えるわたしは、きっと、とてもずるいのだ。




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