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人質王女は幼馴染の国王の執着から逃れられない  作者: 狭山ひびき


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逃亡の果てに 4

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 ひんやりとした何かが額に乗せられた。

 心地よいその冷たさに、わたしはぼんやりしながら目を開ける。


「まだ寝ていろ。熱が下がっていない」


 近くから、聞き慣れた、それでいてひどく懐かしいような気持ちにさせる声がした。

 声のする方へ顔を向けようとしたけれど、大きな手がわたしの目元を覆い隠す。


 ……そんなはず、ないわ。


 きっとこれは夢だろう。

 優しい夢だ。

 だけど今は何も考えずに、この夢の中で揺蕩っていたい。

 わたしは現実に戻るのを拒絶するように、大きな手のひらに目元を覆い隠されたまま、静かに目を閉じた。



     ☆



 ……ええっと、わたし、やっぱり夢を見ているのかしら?


 次に目を覚ましたときは、わたしの意識ははっきりしていた――と思う。

 だけど、目の前の現実に混乱したわたしは、やっぱり意識が混濁しているのか、それとも夢の中にいるのかもしれないと、自分の意識がちょっと疑わしくなってきた。

 わたしのはっきりとした記憶では、グラッドウィン殿下の手引きで城を抜け出し、ノウェスナー国へ向かって移動している途中の宿で、何者かに襲撃されそうになったはずだ。

 わたしはバスルームの棚の中に身を潜めて、きっとそこで意識を手放したのだと思う。

 そこから先の記憶ははっきりとしないのだけど……今のこの状況は、明らかにおかしいだろう。


 だって、わたし、この部屋を知っている。

 わたしがお城に部屋をいただく前に暮らしていた、王城の敷地内にある離宮の部屋だ。

 わたしが過ごしていた頃のまま、ほとんど変わっていない。


 違うと言えば、ベッドサイドの棚や出窓に花瓶が置かれて、綺麗な花が生けられていることくらいだろう。わたしがここで暮らしていた頃に、部屋に花を生けてくれる人は誰もいなかったから。

 ベッドに上体を起こしてわたしは考える。


 ……夢なのかしら? それとも……。


 もしかして意識がないままに死んでしまって、懐かしい夢を見ているのだろうか。

 どうせ夢を見るのならここではなく、お城の部屋で暮らしていたときの夢を見たかった。

 そんなことを思いながら、本当にここが離宮なのかどうなのか確かめたくなってきたわたしは、ちょっとだるい体をのそのそと動かしてベッドから降りる。――と。


「?」


 しゃら、と軽やかな音が聞こえて、わたしは足元を見下ろした。

 いつの間に着替えさせられたのか、肌触りのいいワンピースタイプの夜着を着ていたわたしの素足の左の足首に、金色の細いアンクレットが輝いている。


「こんなもの、つけていたかしら?」


 そもそもわたしは装飾品をあまり持っていない。あるのはお兄様からプレゼントされたものと、人質としてフェアクロフト国に行くことが決まった時にお母様からもらったブローチだけだ。

 金色のアンクレットなんて所有していないし、そもそも寝ている時にアクセサリーなんて身に着けるはずが……と首を傾げたわたしは、細いアンクレットの様子がおかしいことに気が付いた。

 アンクレットには同じく金色の細いチェーンのものがついていて、それがどういうわけか非常に長い。

 わたしはしゃがみこんでチェーンを引っ張ってみると、それはベッドの天蓋の支柱まで伸びているようだった。


「……あれ? 繋がっている?」


 足首のアンクレットから伸びたチェーンが、ベッドの天蓋の支柱に結び付けられているチェーンと繋がっている。

 これはどういうことだろう。


 チェーンは非常に長い。長いのだけど、なんで繋がれているのかしら。

 わたしはまだ半分夢の中にいるような気分だったので、興味が示すまま、チェーンの長さを確認して見たくなった。


 チェーンを片手で緩く持ったまま部屋の中を歩いてみる。

 部屋の中は不自由なく歩き回れる長さのようだ。バスルームにも行ける。

 細いくせに意外と頑丈で、引っ張ってくらいでは切れそうにはなかった。


「うーん?」


 これが夢なら変な夢だ。

 正直、これがあることが不自由になるのかどうかも怪しいくらい、長くて軽くて細いチェーン。

 歩くたびにしゃらしゃらと軽やかな音を立てるのがむしろ楽しいくらいである。


「綺麗なチェーンね。本物の金……じゃないわよね?」


 本物の金は脆いはずだから、引っ張れば簡単に千切れるだろう。金色だから多少金が入っているかもしれないけれど、金よりも他の金属の方が多い合金のはずだ。


「でも、本当にこれはどういうことなのかしら?」


 わたしはソファに腰かけて金色の細いチェーンを指に巻き付けて遊ぶ。

 人の気配はないし、他に誰もいないのだろうか。


 ……これが夢なのかどうなのかもわからないし、しばらく待っていようかしら?


 夢ならそのうち覚めるだろうし、そうでないなら誰かが来るだろう。

 場所が見知ったところだったからなのかどうなのか、わたしはこの状況に慌てたりはしなかった。

状況がわかるまで大人しくしておこうと、わたしは置かれていた水差しからコップに水を注ぎ、くぴっと飲んだ。




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