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人質王女は幼馴染の国王の執着から逃れられない  作者: 狭山ひびき


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逃亡の果てに 2

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 馬車の窓から差し込む朝日で、わたしは目を覚ました。


 馬車は夜の間ずっと走り続けていたのだろうか。窓の外の景色が見慣れないものになっている。

 朝日に照らされた窓外は、遠くに青々とした山脈があり、手前側はブドウ畑が続いていた。

 ブドウは今が旬なので、馬車からははっきりとは見えないが、きっとたくさん実っていることだろう。


 お兄様はその年に取れたブドウで作られたフレッシュなワインが好きで、毎年献上されたものを美味しそうに飲んでいたのを思い出す。

 わたしもお酒は飲めなくはないのだけど、すぐに顔が赤くなるらしくて、グラス一杯ほどでいつもお兄様に止められるのよね。食事よりカレンを食べたくなるからそのくらいでやめておけって、意味のわからないことを言うの。


 お兄様の顔を思い出したわたしは、途端に寂しくなって窓に張り付くと、見えないとわかりつつも馬車が来た道を眺めて見たりする。


 昨日の深夜に城から出たのに、もうこんなに寂しくなってどうするのかしら。

 この調子で、この先やっていけるの?


 ……わたし、本当にお兄様に依存していたのね。


 十年の生活で、アーネストお兄様がいるのが当たり前になっていた。

 つらいことがあっても、怖いことがあっても、全部お兄様が守ってくれた。だから、お兄様さえ側にいてくれたら大丈夫だと、安心しきっていたの。


 馬車がお兄様から遠ざかっていくにつれて、お兄様との思い出まで遠ざかっていくような錯覚がする。

 お兄様が用意してくれた優しい鳥籠から勝手に逃げ出してしまったわたしはもう、あの場所には戻れない。


 苦しくなって、思わず「止めて!」と叫びたくなる衝動にかられながら、わたしは馬車の窓にコツンと額をつけた。





 馬車はそれから一時間ほど走って、休憩と食糧などの物資の仕入れのために近くの町に立ち寄った。

 わたしは案内役の女性と、馬車を停めた近くのカフェで休憩を取っている。

 護衛の男性は水と食料など、次の休憩場所までに必要な物資の買い物に出かけた。


 ノウェスナー国へ向かう道中に必要な費用はすべて、グラッドウィン殿下が準備してくれた。

 わたしはほんの少ない荷物を持って来ただけだ。


 ……念入りに準備してくれたってことは、それだけ、わたしを国から追い出したかったってことでもあるのよね。


 グラッドウィン殿下にとって、わたしはそれほどまでに目障りだったのだろう。

 休憩がてらカフェで朝食をとって、わたしは食後のオレンジジュースを飲みながらそっと息を吐き出した。

 順調に行けば、二週間ほどでノウェスナー国に到着するだろう。


 ……二週間。


 長いようで、短い。

 二週間も経てば、わたしはフェアクロフト国から完全に出てしまう。

 その後は、ノウェスナー国の王女として、お兄様とは対外的な付き合いとなるだろう。


 ……そう言えば、お父様たちには知らせたのかしら?


 お兄様に内緒で動いていたので、もちろんわたしからノウェスナー国のお父様たちへ連絡は入れていない。わたしの手紙は検閲されるからだ。

 グラッドウィン殿下は、予定より早くわたしが帰ることをお父様たちに連絡してくれたかしら?

 城から出てしまったので、グラッドウィン殿下とも連絡の取りようがない。

 確認できない以上、対策は取っておいた方がいいだろうか。


 ……次の町で手紙って出せるのかしら?


 郵便屋がある町であれば、そこに手紙を渡せば届けてくれるだろう。

 お兄様からプレゼントしてもらった未使用のレターセットの残りは、馬車の荷物の中に入れてある。念のためにインクとペンも持って来た。

 案内役の女性によれば、王都からほど近いこの町にはあまり長居をしない方がいいそうだから、休憩が終わればすぐに出立となる。手紙を書く時間はないが、今日の夜に宿泊のために立ち寄る町なら手紙を出す時間もあるだろう。


 ……うん。念のためにわたしからも手紙を書いておきましょう。


 何も聞かされていないと、わたしが逃げ出してきたと思ってお父様たちが仰天してしまうものね。

 わたしが残した置手紙を呼んだアーネストお兄様がお父様に連絡を入れてくれる可能性もあるけれど、確実ではない。

 何もしていないとついついお兄様のことを考えてしまうし、手紙を書くには違う事柄に意識を向けるのにもちょうどいい。


 わたしはそうと決めると、次の町まで書く予定の手紙の内容を考えて時間を潰すことにした。





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