逃亡の果てに 1
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銀色の月が照らす夜道を、馬車が静かに進む。
一秒ごとに遠くなる城のあたりを、見えないとわかりつつも、わたしは馬車の窓に張り付いて眺めていた。
……ごめんなさい。ごめんなさい。お兄様……。
これが、ノウェスナー国とフェアクロフト国のためなのだ。
どうせあと少しでノウェスナー国に帰国する予定だったのだから、それが少し早まっただけのこと。きっと、お兄様だってわかってくれる。
馬車が静かに王都の南門を出ると、わたしは窓の外を眺めるのを諦めて、行儀が悪いと知りつつも馬車の座面に横になった。
馬車の中にはわたし一人しかいない。
あとは、御者台に男女が一人ずつ座っているだけだ。
御者台に座っているのは、一人は護衛で、一人はノウェスナー国までの道案内だという。
男女一人ずつなのは、仮にも王女が男だけを連れて旅をするのはよくないとグラッドウィン殿下が言ったからだ。わたしもそう思うが、そもそも人目を避けて護衛一人と道案内一人だけという少人数で祖国へ向かうという時点でいろいろ問題なのだけど。
……大勢で向かうと見つかる可能性が高いから仕方がないんだけど。
きっと、こんな少人数で人目を避けるようにノウェスナー国に戻ったわたしを見たら、お父様たちは仰天するでしょうね。
――わたしはつい先ほど、城から抜け出した。
拍子抜けするくらい簡単だった。
誰もわたしが城から逃げ出すなんて考えていなかったからだろう。
わたしはグラッドウィン殿下の指示で、夜、堂々と部屋の入り口から抜け出したのだ。
グラッドウィン殿下に指示された時間には、殿下が手を回した衛兵が見張りについていて、彼らが手引きしてくれた。
深夜ともなれば城の警護担当は少なくなるし、衛兵である彼らはあの時間帯にどこに見張りがいてどこが手薄なのかを知っていた。
わたしは誰にも咎められることなく城の外に出ることに成功し、あとは、用意されていた馬車に乗り込んで今に至るというわけだ。
……お兄様はきっとすぐに本に挟んだ手紙を見つけてくれるだろうから、大丈夫よね?
お兄様宛の手紙にはわたしがいなくなった事情と、それからダイアナは何も悪くないのだから咎めないでほしいと書いてある。聡明なお兄様のことだから、読めば納得してくれるはずだ。
部屋から抜け出すために今日は一睡もしていなかったから馬車に揺られていると眠くなってくる。
まだ深夜だし、特に何もすることはないからこのまま眠らせてもらおう。
わたしは、持って来ていた少ない荷物の中から、刺しかけだったお兄様のハンカチを取り出すと、きゅっと握り締めて目を閉じる。
……お兄様。
泣いてはだめ。
これは、わたしが選択して、決めたことなのだから。
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