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人質王女は幼馴染の国王の執着から逃れられない  作者: 狭山ひびき


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私の最愛(SIDEアーネスト) 1

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「署名はだいぶ集まったな」


 アーネストが一人ごちれば、書類を整理しつつそれを耳にした宰相マガリッジ伯爵が顔を上げて微笑んだ。

 彼はアーネストが国王に即位して入れ替えた新しい宰相だ。ギブソン公爵の従兄でもある。つまり、ギブソン公爵派閥の人間だった。

 アーネストの父の治世では、ラングトン公爵家派閥の人間が大勢要職についていたため、マガリッジ伯爵を宰相にすると言えば反発は大きかった。


 だが、父が長年母の実家であるラングトン公爵家派閥を重用してきたせいで彼等は最近かなり助長しており、行動が目に余るようになっていた。

 離宮で暮らしていた頃のカレンへの嫌がらせもラングトン公爵家派閥が主体となっていたと聞けば、余計にだ。

 母を北へ追いやった今、彼等を国の中枢から追い出す好機でもあった。

 母と仲のいい弟グラッドウィンはもちろん反発したが、王は俺だ。あいつの意見に従う義理はない。ましてや――母と結託し、カレンを俺から遠ざけようと画策していたあいつは、俺の中では弟である以前に敵である。


「そうですね。すでに半数以上の貴族が賛成を示しております。あともう少しですよ」

「ああ。ラングトン公爵家派閥のせいで手間取るが、こればかりは地道に続けるしかないからな」


 アーネストの手元にある書類は、ノウェスナー国第二王女カレンを俺の妃にすることに賛同する貴族の署名を集めたものだった。

 カレンを妃にするための最大の邪魔者は母アナスタシアだったが、カレンに暴力をふるったことを理由に、モーガン医師の協力を経て北へ追いやることに成功した。

 グラッドウィン経由で文句は届いているが、王であるアーネストの許可なく王都へ戻ってくることはできない。もしアーネストの許可なく勝手に戻ってくるようなことがあれば、それを理由にもっと監視の厳しいところへ追いやるだけだ。


 署名も、本当はカレンがノウェスナー国へ帰る期限までに集めるつもりだった。

 しかし思っていた以上にラングトン公爵派閥とグラッドウィンの邪魔が入りなかなか進まず、ノウェスナー国にいるカレンの両親には内々に連絡を入れてカレンを娶りたいことと、現在国内をまとめている最中だから少し猶予が欲しいと連絡を入れ許可をもらっている。


 本当はカレンにも説明すべきなのだろうが、もしカレンの口からアーネストと結婚せずに国に帰りたいと言われたら正気でいられる自信がなかったので、ギリギリまで黙っていようと考えていた。

 カレンはおっとりしていて可愛らしいが、あれで賢い王女だ。

 カレンがアーネストのことを兄としか思っていなくとも、国交関係の利点をあげつらえて説得すれば、結婚を嫌がったりはしないだろう。

 結婚の了承さえ得られれば、あとは時間をかけてカレンの気持ちをアーネストに傾ければいいだけである。長期戦は覚悟の上。すでに十年待ったのだ、今更数年待たされようと、我慢できる。


「カレンがダーラと親しくなったおかげで、一気に署名が増えた。秋に間に合うといいのだが」


 秋に間に合わなければ、カレンが不安がるだろう。

 どうして人質期間が終わったのに国に帰れないのだろうかと落ち込むかもしれない。

 そうなる前に、署名を集めて求婚だけでもしておきたいところだ。ノウェスナー国との正式な合意は求婚後でも問題ないだろうから。

 カレンが親元に書いていた手紙は検閲が入るため、彼女が離宮でどのような扱いを受けていたのか、ノウェスナー国王夫妻は知らない。


 ただ、アーネストからカレンに対するラングトン公爵家派閥のあたりが強いことは、知らせてはいる。

 ノウェスナー国王夫妻はとても心配していたが、アーネストが必ずラングトン公爵家派閥の力を削ぐと約束したため、黙ってカレンを預けてくれているのだ。

 母は勘違いしていたようだが、人質と言え、娘の扱いがひどければ、ノウェスナー国だって意見できる。


 終戦後、ノウェスナー国はフェアクロフト国の属国になったわけではないのだ。関係はあくまでも対等なもの。ただ。フェアクロフト国の方が大国であること、それから先の戦争はノウェスナー国の先王がはじめたことを理由に、安全保障の観点から人質としてカレンが送られることになっただけである。カレンを人質としてフェアクロフト国に送らせたのは、ノウェスナー国にはもう戦う意思がないというのを内外に示すための措置であり、ノウェスナー国を属国のように従えるという意味合いはない。


 はっきり言ってしまえば、母やラングトン公爵家派閥の、これまでのカレンの態度を理由に上げれば、彼等を閑職に追いやることは可能だった。実際それを理由に、いくつかの目障りな人間は左遷した。

 とはいえ、これだけの理由で身分まで剥奪するのはさすがに無理があるため、これ以上の強引すぎる手段が取れないでいる。

 そしてラングトン公爵家派閥は、これまで虐げていたカレンが王妃になることを何より恐れている。報復されると考えているからだ。だから、何が何でも反対してくる。国交改善を理由に上げようともそんなことはお構いなした。彼らにとって国同士の関係よりも自分たちの幸せの方が上なのだから。


「ギブソン公爵家派閥は全員こちらの味方と考えてよろしいでしょうね。ラングトン公爵家派閥はこれまで最大勢力でしたが、陛下が彼等を重用しないとわかり、離脱者も増えているようです。そうですね、あともう少し署名が集まれば、議会での承認も容易でしょう」

「そうだな。できれば次……次に間に合わなくともその次の議会で承認が得られれば嬉しいところだ」

「間に合うようにこちらも手を尽くしております」

「助かる」

「いえ。イヴリンからもカレン王女殿下の評判は聞いておりますので。謙虚で聡明な方なのですから、歓迎しないはずがありません」


 マガリッジ伯爵とイヴリンは義理の姉弟の関係だ。マガリッジ伯爵の妻がイヴリンの妹なのである。


「宰相が味方してくれて助かる」


 アーネストはふっと笑うと、貴族の署名を集めた書類を鍵のかかる引き出しに納める。


 あと少し。

 あと少しだ。


 もう少しでカレン――最愛の君を、妻にできる。




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