お邪魔虫 6
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グラッドウィン殿下はわたしの休憩時間を見計らって部屋にやって来ると、挨拶もそこそこにダイアナに言った。
「ダイアナ、席を外してほしい」
もちろん、ダイアナは難色を示した。
ダイアナはわたし専属の侍女である。わたしに侍女が一人しかいない以上、基本的にはわたしの側を離れないし、もっと言えばグラッドウィン殿下は男性。
男性とわたしを二人きりにできるはずがないのだ。
「それは出来かねます」
「命令だ」
「では、陛下をお呼びします」
グラッドウィン殿下は顔をしかめて、それからあからさまなため息をついた。
「わかった。だったら室内にいることは許そう。だが、部屋の隅で壁を向いて立っていてくれ」
「……カレン様、何かございましたらすぐにお声がけくださいませ」
ダイアナは眉を顰め、けれども仕方がなさそうに部屋の隅に移動して壁を向いた。
グラッドウィン殿下はそれを確認してから、わたしが座っていたソファの対面に座る。
「カレン王女、少し相談があるんだ。……これを、黙って読んでほしい」
あらかじめ用意していたのだろう。
きっと、ダイアナが部屋から出て行かないことを想定していたに違いない。
わたしは差し出された手紙を緊張しながら受け取った。
それは、手紙というよりは要望書と呼んだ方がいいようなものだった。
読み進めていくうちに、わたしの胸がずーんと重くなる。
内容は、要約すればこうだ。
現在、アーネストお兄様にはいくつもの縁談が持ち上がっている。
けれども、アーネストお兄様はノウェスナー国からの人質――すなわち、わたしをこの国に拘束し自由を奪っていることを理由に、縁談を先送りしているという。
つまり、わたしという不幸な人人質がいるのに、目の前で自分が幸せになるわけにはいかないと遠慮しているそうだ。
アーネストお兄様は国王であり、跡継ぎを求められる立場。
そのお兄様が縁談を先送りにしているせいで、臣下たちとの関係にも亀裂が入り、君主としての資質を問われはじめているのだとか。
加えて、国王がいつまでも跡継ぎのことを考えないようでは国民感情をも刺激しかねない。要は、王家への支持率が下がるというのだ。
王制であるので、支持率が下がろうとどうしようと、王家がどうこうなることはない。
だが、国民の不満が膨れ上がると、クーデターなどが発生する可能性も皆無ではないのだ。
お兄様は特に若くして国王についたため、周囲から侮られがちで、本来後ろ盾になるはずの外戚とも、王太后アナスタシア様を北の離宮へ追いやったことで関係が悪化している。
ここは、早急に妻を迎えて、お兄様の権力の安定を図らなければならない。
ゆえに――
……わたしが、邪魔なのね。
手紙はこう締めくくられている。
『少し早いが、ノウェスナー国へ帰ってくれないだろうか。馬車はこちらで用意する。兄上に言えば邪魔をするかもしれないので、僕がこっそり手引するよ』
つい手紙を持つ指に力が入ってしまう。
ぐしゃりと皺の寄った手紙を見下ろし何も言えないままでいると、グラッドウィン殿下が言った。
「すぐに結論は出ないだろう。考えておいてほしい」
そう言って、グラッドウィン殿下はわたしに手から手紙を奪い取ると、穏やかに微笑んで立ち上がった。
「これが、双方の国のためだよ」
――国の、ため。
確かにそうかもしれない。
わたしの存在がお兄様の結婚の邪魔になるのならば、国交関係にもひびが入るだろう。
お兄様がよくても、他の貴族は国を乱す存在を許さないはずだ。
戦争が終わって、国交改善に乗り出している中、再び関係が悪化するのは、王女の立場からしても避けなければならないことだった。
グラッドウィン殿下が部屋を出て行くと、ダイアナが心配そうな顔で駆け寄って来る。
「カレン様、何を言われたんですか?」
わたしはゆっくりと首を横に振った。
「なんでもないわ。……なんでも」
言えるはずがない。
だって、ダイアナは優しいから。
わたしがグラッドウィン殿下に言われたことを伝えたら「そんなことはないですよ」と慰めてくれるだろう。
慰められると、甘えて流されてしまいたくなる。
流されて、自分にとって苦しいことは何も考えたくなくなるの。
だから、言えない。
これは安易に甘えてはならない問題だから。
……王女として、答えを。
わたしは、ノウェスナー国とフェアクロフト国の関係改善のために人質になった。
だから、わたしが一番に考えなければならないことは、両国の関係なのだ。
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