お邪魔虫 3
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
それはお茶会から四日後のこと。
イヴリン先生の授業を終えて、ダイアナとティータイムをすごしていた時のことだった。
「え? グラッドウィン殿下が?」
部屋の外にいた衛兵が来客を告げに来て、わたしは思わずダイアナと顔を見合わせた。
グラッドウィン殿下がわたしに用があるらしい。
アーネストお兄様はわたしの部屋に頻繁に訪れるけれど、グラッドウィン殿下がわたしの部屋に来たのは、離宮で暮らしていた時から考えてもはじめてのことよ。
グラッドウィン殿下は穏やかな方だけど、アーネストお兄様と違ってわたしとは一定の距離を取っている。
王太后アナスタシア様が北の離宮に移られてからは特に距離を取られた気がするわ。きっと、わたしのせいでお母様が離宮に追いやられたと思っているのだろう。あながち、間違いでもないし。
ダイアナも怪訝そうな顔になっている。
……わざわざ部屋に訪ねて来たってことは、きっとそれほど重大な用事があるのよね?
アーネストお兄様からは不用意に部屋を出るなとは言われているけれど、来客の対応をしてはいけないとは言われていない。
まあ、わたしの部屋に来客があること自体ほとんどないのだけど。
グラッドウィン殿下をお待たせするわけにもいかないから、わたしは衛兵に部屋にお通しするように告げた。
するとすぐに、グラッドウィン殿下とそれからもう一人、見たことのある令嬢が入って来る。
エレイン・モットレイ侯爵令嬢だった。
ダイアナが眉をひそめて立ち上がる。
わたしも、どうしてエレインがグラッドウィン殿下と一緒なのかはわからなかったけれど、殿下相手に座ったままなのは不敬なので立ち上がった。
「ごきげんよう、グラッドウィン殿下。本日はどうされたんですか?」
グラッドウィン殿下にカーテシーで挨拶をすると、彼は穏やかな表情のままエレインをちらりと見やる。
「すまないね。エレインがカレン王女に会いたいと言っていてね。なんでも、先日のお茶会でカレン王女に無礼を働かれたとか。だから謝罪をしてほしいそうだよ」
「なんですって?」
ダイアナがすっと一歩前に出る。
わたしは慌ててダイアナを止めた。いくらダイアナがアーネストお兄様の乳兄妹だろうと、グラッドウィン殿下に食って掛かるのはまずい。
だけど、謝罪とはどういうことだろう。
また、無礼を働かれたと言われてもわからない。
「あの、グラッドウィン殿下。無礼とは?」
すると、エレインが扇を広げて顔を隠し、大袈裟な声を上げた。
「まあ! ひどいですわ王女殿下! おとぼけになるなんて! あの日、わたくしにあんなにひどいことをなさったのに……! わたくし、悲しくて、ここ数日夜も眠れていませんのよ!」
その割に、肌はとっても艶々しているようだが。
ダイアナの表情がどんどん険しくなっていく。
グラッドウィン殿下はエレインを見、それからわたしを見た。
「カレン王女。エレインは未来の王妃だ。あまり失礼なことをしないでいただけると嬉しい。両国の関係のためにも、きちんと謝罪いただけないだろうか。エレインも、謝罪さえもらえれば水に流すと言っているんだ」
ええっと、こういう場合、わたしはどうしたらいいのだろうか。
やってもいないことに対して謝罪なんてできない。
だけど、グラッドウィン殿下には謝罪を求められていて、しかも謝罪をしなければ国交関係にも問題が出ると脅されている。
ここは、わたしが目をつむって謝るのが正解なのだろうか。
でも、謝ったら、わたしが悪いと認めることになる。何も悪いことはしていないはずなのに、それは納得いかない。
もちろん、王女たるもの、国のために飲まなければならない不条理があることは知っている。
それがその不条理に当たるのかどうかは別として、国の関係を出されたら、わたしは嫌だとは言えなかった。
「……わかりまし――」
わたしが折れて謝罪をしようとした、そのときだった。
バタン、と大きな音を立てて部屋の扉が開いて、息を切らしたアーネストお兄様が飛び込んできた。
「お兄様?」
「カレン! 無事か⁉」
……無事って…………。
つい、噴き出しそうになってしまう。
身の危険が迫ったわけでもないのに、お兄様はいつも大袈裟だわ。
グラッドウィン殿下とエレインはまさかお兄様が来るとは思っていなかったのか、大きく目を見開いていた。
アーネストお兄様はグラッドウィン殿下を睨みつけて低い声を出す。
「グラッドウィン、これはどういうことだ?」
グラッドウィン殿下は肩をすくめた。
「どうも何も、先日のお茶会でカレン王女殿下がエレインに無礼を働いたそうなんですよ。両国の関係を考えるとそのままにはしておけませんので、禍根が残らないようにこうして仲裁に――」
「なるほど、エレインに謝罪させようとしたわけか」
「え? い、いえ――」
グラッドウィン殿下は戸惑った顔でアーネストお兄様を見た。
そうよね。わたしに謝罪させようと思って来てみたら、アーネストお兄様からエレインにわたしに謝罪しろと言われたんだもの。
エレインは扇を畳むと、わっと両手で顔を覆った。
「ひどいですわ陛下。わたくし、何もしておりません。カレン王女殿下の方こそ、わたくしに――」
「茶会の件について、ギブソン公爵家から何があったのか子細の報告を受けている。今ここで、何があったのかを事細かく語ってやろうか? それでもしグラッドウィンがカレンを責めるのならば、グラッドウィンの王族としての資質を疑うことになるが」
「……エレイン、どういうことだい?」
グラッドウィン殿下は、本当に何も知らなかったのだろう。
きっとエレインの言い分を聞いてここに連れて来ただけで、あの日に何があったのか正しい情報を持っていなかったに違いない。
「陛下、騙されてはなりませんわ! ギブソン公爵家は自分たちに都合のいいことを言っているだけです! ギブソン公爵令嬢だって、あの日、わたくしに無礼を働いたんですのよ!」
「ならば、その場にいた他の令嬢を呼んで来よう」
「え――」
「カレンの言い分もギブソン公爵家の言い分も公正でないというのなら、他の令嬢たちに何があったのか私見を挟まず正しい情報を話してもらえばいい。誰か、あの日の出席者リストを」
「お、お待ちになって! わっ、わたくしだって、そこまで大袈裟にしたいわけではありませんわ! ただ、カレン王女殿下に謝罪をいただければそれで……」
「だから、その謝罪が本当に必要なものなのかを判断するために、正しい情報を確認しようというのだが?」
エレインが目に見えて青ざめた。
まあ、そうよね。あの日は明らかにエレインが悪かったもの。ダーラはエレインに無礼なんて働いていないわ。無礼を働いたのはむしろエレインの方だもの。
どうするのかしらと思って成り行きを見守っていると、突然、エレインがグラッドウィン殿下に向かって倒れ込んだ。
「エレイン?」
「す、すみません殿下。わたくし、眩暈が。医務室に運んでくださいませんこと?」
「……白々しい」
ダイアナがぼそりと呟くと、グラッドウィン殿下に倒れ込んだままのエレインがキッとダイアナを睨みつける。
グラッドウィン殿下はこの場からエレインを退場させた方が賢明と判断したのだろう。彼女を支えるようにして立たせ、お兄様に向き直った。
「兄上、エレインの体調が悪いようなので医務室に運びます」
「……好きにしろ。謝罪の件についてはこちらで精査しておく」
「はい」
エレインは悔しそうに唇を噛みしめつつ、最後にわたしを睨んで、グラッドウィン殿下に連れられて部屋を出て行った。
面白い!続きが気になる!続きが読みたい!と思ってくださった皆様、
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ









