お邪魔虫 1
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エレインは女王然とした堂々とした様子で、ぐるりとティーサロンを見渡した。
案内してきた執事が席をすすめようとしているのに無視である。なかなかすごい。
豪奢な金髪はくるくると少しの乱れもなく縦に巻かれていて、青いリボンで飾られていた。
ツンと尖った顎に、猫の目のように目じりが少しつり上がった碧眼。
ドレスは深紅で、この場ではとても浮いているように見える。
というのも、今日のお茶会のカラーコードは黄色、緑、青、ピンク、白なのだ。あの赤色のドレスをピンクと呼ぶには無理がある。
……なるほど。あれではマナーのおかしい方と言われても仕方がないわね。
わたしの今日のドレスは、お兄様が「ぜひに」と言った青色のドレスだ。本当はもう一着あった濃い方の青いドレスをお兄様がプッシュしていたんだけど、ダイアナが「こちらの方が印象が柔らかいです」と薄い青色ドレスを選んだ。お兄様は不満そうだったけれど、青だったから妥協したみたいよ。お兄様、よっぽど青色が好きなのね。着るのはわたしなんだけど。
エレインは会場を見渡した後で、わたしたちのいるテーブルに目を止めた。
すっと碧色の目を細めると、二人の令嬢を引きつれて歩いてくる。
後ろの二人は侍女かと思ったんだけど、ダイアナによれば、二人とも伯爵令嬢らしいわ。エレインの取り巻きなんですって。取り巻きがいるなんてすごいわね。
「ごきげんよう」
ばさっと扇を広げて、エレインが言った。
うーん、これは、わたしは返答したらダメなやつね。
社交界のルールってややこしいんだけど、完全に初対面の場合は、基本的には身分が上のものから話しかけるものなのよ。顔見知りなら別にそこまで厳密ではないんだけど。
ダーラの場合も初対面だったけど、彼女の場合はわたしがギブソン公爵家のお茶会の招待を受けた時点でこの線引きが曖昧になる。直接会ったことはないけれど、お茶会の正体を受けたからわたしはギブソン公爵家の皆様と顔つなぎになった、と認識していいのよね。
それと、ダーラは主催者だから、わたしに挨拶するのはおかしなことではない。
だけどエレインは完全に初対面なの。ここでわたしが答えたら、わたしの方がマナーを知らないと嗤われてしまうのよ。
……ここはダーラに任せましょう。
彼女はエレインと顔見知り出し、主催者だから受け答えしてもおかしくないわ。
そんなわたしの考えた伝わったのか、ダーラも扇で口元を覆うとにこりと微笑んだ。
「ごきげんよう、モットレイ侯爵令嬢。お席はあちらですわ。当家の執事がご案内します」
すると、エレインは眉を跳ね上げてわたしを見下ろした。
「こちらの方はどなたかしら」
「カレン王女殿下に失礼ですよ、モットレイ侯爵令嬢」
「あら、まああ! この方が人質の王女殿下ですの! まあまあ、ずっと幽閉されていたから存じ上げませんでしたわ。外に出られてよかったですわね。ねえ?」
エレインが取り巻きの伯爵令嬢二人に話しかける。彼女たちは「ええ」「まったく」とエレインの言葉に頷きを返した。
……うーん。これは嫌味よね。わたしにもわかるわ。
だけとやっぱり、わたしは話せないのよね。まず挨拶を交わしていないし。
この場合、わたしがエレインに名乗ればエレインと会話ができるようになるのだけど、こんなに失礼なことを言う人に名乗りたくないもの。
確かに、離宮にいた頃は半ば幽閉されていたようなものだったけど、今は違うのよ。まあ、お兄様がなかなか外には出してくださらないけど。
どうしたものかしら、とダイアナに視線を向けると、彼女の口元がぴくぴくと動いている。
……ああ、怒っているわ。どうしましょう。
何と言ってもダイアナはお兄様ですら言い負かすことができるほど口達者だもの。怒って言い返したらあっという間にエレインを黙らせてしまうでしょうね。でもお茶会でそれはまずいと思う。
わたしがいつまでも何も返さないからか、エレインはイラついたようにパシンと扇を閉じた。
「まあ! ノウェスナー国の人質王女はフェアクロフト国の言葉がわからないのね! これだから田舎者の王女は!」
明らかな挑発だったけれど、わたしはぐっと我慢した。ここで挑発に乗れば瞬く間にわたしが嗤いものになる。
「モットレイ侯爵令嬢! あまり言葉が過ぎるようなら、本日はお帰りいただくことになります」
「なんですって? たかが子爵家の男と婚約したギブソン公爵令嬢! 未来の王妃にそのような口を聞いてもいいと思っているのかしら? 陛下に言いつけますわよ!」
……お兄様に言いつけても、お兄様はダーラ様を罰したりしないと思うけど。
この場でどちらが悪いのかは一目瞭然だ。
わたしはともかく、ダーラまで攻撃しはじめたエレインには黙っていられない。
わたしが思わず口を開きかけると、すっとダーラが手で制した。
「どうぞご勝手に。ああ、お帰りはあちらです」
「な――」
「陛下にでも北にいらっしゃる王太后様にでもラングトン公爵にでも、泣きつきたければ好きになさればよろしいわ。けれどここは当家のティーサロンです。あなたのような礼儀を知らない方が居座っていい場所ではございません。ブレット、お客様がお帰りよ」
ダーラにブレットと呼ばれた執事が慇懃に頭を下げて、エレインに向き直った。
「どうぞ、玄関までご案内いたします」
エレインは顔を真っ赤に染めたが、ティーサロンにいる他の令嬢たちの視線が自分に集中していると気づいたのだろう。
憤然と踵を返すと、二人の取り巻き令嬢を連れてティーサロンから出て行った。
彼女がいなくなると、ダイアナがぱちぱちと手を叩き、それにつられたようにティーサロンにいた令嬢たちが拍手をする。
わたしも、ついつい手を叩いてしまった。
ダーラってば、すごいわっ!
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