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人質王女は幼馴染の国王の執着から逃れられない  作者: 狭山ひびき


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お兄様の婚約者候補 8

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 お茶会に行くなら自分も行くというお兄様を、ダイアナとイヴリン先生が言い負かして、わたしはフェアクロフト国に来て初めて、王城の敷地内より外に出ることになった。

 向かう先はギブソン公爵家よ。

 わたし一人では心もとないから、ダイアナが一緒について来てくれるの。


「いいか、すぐに帰って来るんだぞ?」

「無茶言わないでください、陛下。もういいですから、早く仕事に戻ったらどうですか」


 忙しいのに、わざわざ馬車に乗るわたしを見送りに来てくれたお兄様が、ダイアナに追い払われている。

 だけど、お兄様も負けていない。ダイアナを押しのけて、先に馬車に乗り込んだわたしの隣に座ると。


「やはり私も行こう」

「馬鹿なことを言っていると本気で怒りますよ」


 馬車に乗り込んだお兄様を、ダイアナが無理矢理引きずり出す。


 ……お兄様ったら、心配性なんだから。


 だけど、そんなお兄様の気持ちが嬉しいから、ついつい頬が緩んじゃうわ。


「お兄様、ダイアナが一緒だから大丈夫ですよ」

「私は、カレンが心無い言葉で傷つけられないかが心配なんだ」


 ええ、わかっているわ。アーネストお兄様が昔からずっと、わたしが傷つけられないように気を配ってくれていたことを。

 それでも離宮で暮らしていたときはすべて防ぎきることはできなくて、わたしが傷つくたびに心を痛めてくれていたことを。

 でも、わたしだっていつまでも守られているばかりの子供ではいられないのだから、いつまでもお兄様の庇護下でぬくぬくしていたらダメだと思う。


「お兄様、今日のお茶会、頑張ってきますね」

「頑張らなくていいんだ」


 もう、出鼻をくじくようなことを言わないでほしいわ。

 ダイアナに押しのけられたお兄様がいつまでも心配そうな顔を向けてくる。

 ダイアナが馬車に乗り込んで扉を閉めると、わたしは窓越しにお兄様に手を振った。


「行ってきます」

「ああ。気を付けて行っておいで」


 馬車がゆっくりと動きだし、ハラハラした顔をしているお兄様の姿が遠ざかっていく。

 ギブソン公爵家の邸は、王城からあまり離れていない。

 王城に近くなれば近くなるほど土地が高く、また購入するにあたって審査も厳しくなるから、自然と、お城の近くには高位貴族の邸が集まっている。

 わたしは、お城からギブソン公爵家までの短い道のりを馬車で揺られながら、ギブソン公爵家についての情報をおさらいしていた。


 ギブソン公爵家――これまで何人もの王妃を輩出し、また、何人もの王女が降嫁したことのある由緒正しい公爵家。

 はじまりは三百年前。当時の王弟殿下が臣下に下ったことにより、当時の国王陛下から爵位と領地を賜った。


 現在の当主は四十一歳。

 穏やかだけれど曲がったことが嫌いな実直なタイプで、政治手腕もかなりのもの。

 公爵であると同時に、法務大臣も務めており、彼が法務大臣になってから改正された法律は七つもある。どれも、もとは貴族に有利すぎる法律で、簡単に言えば、罪を犯しても逃げ道が用意されているようなものだったのだそうよ。

 ギブソン公爵はその逃げ道を徹底的にふさぐような法律に改正して――国内の貴族からすごく反発を食らったそうだけど、国王に就任したアーネストお兄様がすべて許可を出して押し通したんだって。


 そんな性格だから、元敵国の王女というだけでわたしを毛嫌いしたりはしないってダイアナは言っていた。

 むしろ、次男との縁談をわたしに持って来たのは、わたしを取り込むことでノウェスナー国との関係をより良いものに改善しようと考えたのではないか、だそうよ。


 そんな彼の一人娘であるダーラ・ギブソンが今日のお茶会の主催者。

 ダーラはわたしより一つ年下の十七歳で、アーネストお兄様の婚約者候補に名前を連ねたこともあるけれど辞退したんだって。なんでも、幼馴染の恋人がいるのだそうよ。


「カレン様、そろそろ到着いたしますよ」


 馬車に揺られること十分。

 と言っても、お城の玄関から正門を出るまでに数分かかるから、そう考えると本当に近いわ。

 大きな門をくぐると、短く刈り込まれた芝が敷かれた広大な庭が見えて来る。

 大きな噴水が庭の中央に、そして、可愛らしい小動物の姿に刈り込まれたトピアリーが点在している。

 奥に見える白壁の大きな屋敷はシンメトリーで、玄関扉に続く階段は半円状。

 夏で日差しが強いため、お茶会会場は室内のティーサロンだそうよ。


 わたしたちを乗せた馬車のほかにも、玄関の近くにいくつもの馬車が停まっていて、女性が降りて来るのが見える。

 きっと今日の招待客たちだろう。

 緊張するけれど……、今後、ノウェスナー国に戻ることになったら、わたしは社交の場に顔を出すようになるし公務もこなさなければならない。

 だから、お茶会の一つや二つ、きちんとこなせなくてはならないのよ。


 ……頑張るわ!





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