お兄様の婚約者候補 6
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結局、わたしの誕生日パーティーではお兄様は片時もわたしの側から離れずに、いろんな意味で注目を集めたわたしの元には、次の日から、どういうわけか縁談が舞い込むようになった。
「まあ、そうでしょうね」
わたしの部屋に届けられる縁談という名の手紙や肖像画に、ダイアナは微苦笑を浮かべている。
「え? こうなるのがわかっていたの? わたしにはわからなかったわ。人質王女にどうして縁談が来るの?」
ノウェスナー国に戻ってからならまだわかる。わたしは年頃の王女なので、それなりに縁談は来るだろうと思っていた。
だけど、フェアクロフト国に滞在中に縁談が来るとは思っていなかったわ。
「来ますよ。特に陛下に代替わりなさってからは。これまでは先王陛下と王太后様のせいでカレン様は軽く見られていましたが、隣国の年頃の王女殿下で陛下とも親しく教養も申し分なし。何よりお可愛らしいのですから、表に出れば縁談が殺到するのはわかりきっていました」
「ええ⁉」
「それにしても……まあまあ、ギブソン公爵家からも来ているではないですか。王太后様のご実家の公爵家と何かと対立なさっている家なのに、まさか送って来るなんて。相手は次男ですが、優秀で、非常に有望株ですよ。外見も申し分ありません」
ほら、とダイアナが縁談と一緒に送られて来た肖像画を見せてくれた。確かに端整な顔立ちの青年だ。もちろんアーネストお兄様の方がカッコいいけれど。
「楽しそうね。ダイアナ」
「ええそれはもう。ようやくカレン様が注目されたのですから」
ふふふ、とダイアナが笑う。侍女としては、主人が注目を集めるととても気分がいいらしい。
「デートのお誘いもたくさん来ていますよ。どうします?」
「どうしますって言われても……」
わたしは人質だし、お兄様がいないときは部屋から出ないように言われているから、知らない方とデートなんて無理だわ。
「ねえダイアナ。昨日のあの場に年頃の男性はとっても少なかった気がするのだけど、どうしてデートのお誘いが来るの?」
「本人はいなくても親が来ていたではないですか。もちろん親がカレン様を見て息子をせっついたに決まっています」
つまり、わたしのことをまったく知らないけど、とりあえずお兄様と仲良しで有用そうな王女だから捕まえておこう、ってこと? 全然嬉しくないデートのお誘いだわ。貴族や王族の結婚なんてこんなものなんでしょうけど。
でも、パーティー一回でこんな縁談が来るのなら、お兄様の元にはすごくたくさんの縁談が舞い込んでいるんでしょうね。
届けられた縁談を見るでもなく見ていると、アーネストお兄様が部屋にやって来た。
積み上げられている肖像画に眉を顰め、大股でわたしの元まで歩いてくると、わたしが読んでいた手紙をひょいっと取り上げる。
「カレン、こんなものを読むんじゃない。目が潰れるよ」
「お兄様、手紙を読んだくらいで目が潰れることはないと思いますよ」
「いーや、潰れるな。ダイアナ、カレンの目の健康のために、ここにある余計な手紙と肖像画はすべて廃棄しておくように」
「……ハァ」
返事の代わりにため息をついて、ダイアナがローテーブルの上の肖像画や縁談の手紙の片づけをはじめた。
「お兄様、今日はどうなさったの? この時間なら……秋の収穫祭の会議があったんじゃなかったかしら?」
「私のスケジュールを把握していて偉いなカレンは」
それは、アーネストお兄様が毎週の頭には自分のスケジュールを持ってくるからよ。わたしの卓上カレンダーの横に置いてあるんだから、嫌でも目に入るもの。まあ、嫌じゃないけど。
「会議は延期にしたんだ。カレンを連れて行くと言ったら、大臣の一人が文句を言い出してな。今度左遷しておく」
「それはやめた方がいいと思います」
気に入らない臣下をポンポン左遷していたら大変なことになるわよお兄様。
「お兄様、確かに意見してくる臣下は鬱陶しいかもしれませんが、何でも言うことを聞く人たちだけで周りを固めていたら大変なことになりますよ。……って、イヴリン先生に教わりました」
「そうかそうか、北の離宮で朽ち果てている母上にも聞かせてやりたいな」
「陛下、王太后様は生きていらっしゃいます」
ダイアナがあきれ顔で突っ込んだが、お兄様は聞こえていないのか振り向きもしない。
しょうがないから、わたしもダイアナの言葉を繰り返した。
「お兄様、アナスタシア様は生きていらっしゃるそうですよ」
「そうか、とっととくたばればいいのにな」
……あの、お兄様。アナスタシア様は実のお母様ですよね?
アナスタシア様は次男のグラッドウィン殿下を贔屓しがちだったから、アーネストお兄様とはあまり仲がよくないとは聞いていたけれども、「くたばればいい」なんて言いすぎだと思います。
「えーっと、とにかく。お兄様は苦言を呈した臣下も重用すべきですよ」
「だがあいつは、カレンのことを無価値な人質王女と言って嗤ったぞ」
「今後の外交を考えると老害にしかならない大臣ですね。左遷でいいと思います」
ダイアナ⁉
どうしましょう、ダイアナまでお兄様の意見に同意しちゃったわ!
おろおろしていると、お兄様がわたしの隣に座って……ってあら? どうしてわたしを抱き上げて自分の膝の上に座らせたのかしら。まあ嬉しいからいいんだけど。
「ただ意見する臣下を左遷したりしないさ。国にとって害にしかならない阿呆だから左遷するんだ。それなら構わないだろう、カレン」
「そ、そういうことならもちろん、仕方のないことだと思います」
「わかってくれて嬉しいよ」
お兄様はこの話は終わりだなんて言ってダイアナにお茶の用意を頼んでいるけれど、まだ気になることがある。さっき、お兄様が変なことを言っていたわ。
「お兄様、収穫祭にわたしを連れて行くって?」
「そうだ。カレンも行きたいだろう? パーティーにも出席したんだ。公務にも顔を出してもいいと思ってね。もちろん、私と一緒の時だけだが」
……でも、わたし、人質王女よ?
あと、秋の収穫祭ってことは、わたしの人質期間が終わっているんじゃないかしら。
人質期間が終わればノウェスナー国に帰国するはずなんだけど、収穫祭の計画にわたしが組み込まれても大丈夫なのかしら?
「お兄様、収穫祭は秋ですよね?」
「もちろん秋だ。秋が待ち遠しいね」
そうなの?
わたしは、秋なんて来なければいいのにと思っていたわ。だって、お兄様とお別れする季節だもの。
……お兄様は違ったのかしら?
なんだか、わたしとの別れを心待ちにされているようで胸が痛い。
わたし、たまにアーネストお兄様のことがわからないわ。
運ばれて来たクッキーを笑顔でわたしの口に運ぼうとするお兄様はもしかして――とっととわたしとお別れしたかったり、するのかしら……。
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