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人質王女は幼馴染の国王の執着から逃れられない  作者: 狭山ひびき


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お兄様の婚約者候補 5

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 ダンスを終えると、わたしはお兄様とジュースを飲みながら休憩していた。


 お兄様はアルコールの方がいいんでしょうけど「今日はカレンのナイトだから」なんてちょっぴり気障なことを言って、わたしと同じくオレンジジュースを飲んでいるの。

 わたしやお兄様の元には、挨拶に来る貴族が後を絶たないんだけど、お兄様ったら、面倒くさがって周囲を護衛騎士で固めちゃったのよ。「休憩中だ」なんて言って。

 いいのかしらって不安になったんだけど、わたしと目が合った貴族の多くはなんだか微笑ましいものを見るような顔で笑って「では改めます」と去っていくの。


「カレン王女、誕生日おめでとう」


 騎士に囲まれた中にいたわたしたちの元に、アーネストお兄様の弟のグラッドウィン殿下がやって来た。

 スパークリングワインを手に、にこやかに微笑んでいる。


「ありがとうございます、グラッドウィン殿下」


 たまに晩餐の席でご一緒するから、グラッドウィン殿下とはもちろん顔見知りだし話したこともあるのだけど――どうしてかしら。わたし、この穏やかな殿下のことがほんの少しだけ苦手かもしれないわ。理由はよくわからないのだけど。


 グラッドウィン殿下は、今日は水色のシャツに、黒い上下をお召しだった。ジャケットには銀糸で刺繍が入っている。

 アーネストお兄様より一つ年下の二十歳の殿下は、とっても女性に人気なようで、わたしとお兄様が踊り終えた後で、数名の女性と順番にダンスを踊っていたけれど、疲れたから休憩に来たのかしらね?

 するりと騎士たちが作る壁の中に入って来たグラッドウィン殿下は、お兄様に視線を向けた。


「兄上とダンスを踊りたいという女性があっちで待っているよ」

「今日はカレンとしか踊らない」


 招待客は年配の方が多かったけれど、若い男性や女性がまったくいないわけではない。

 きっと高位貴族の令嬢たちなのだろう。

 品のいいドレスに身を包んだ令嬢が数名、グラッドウィン殿下が示した先で固まってこちらを見ていた。


「またそんなことを言って。いい加減、結婚相手を決めないといけないだろう?」


 結婚相手、という言葉にずきんとわたしの胸が痛くなる。

 アーネストお兄様はまだ結婚相手を決めていない。

 お兄様は二十一歳で、しかも国王陛下だから、そろそろ相手を決めないといけないはずなのに、そんなそぶりはまったくないの。


「余計なお世話だ」

「そうやっていつまでもカレン王女殿下を盾に逃げ続けるわけにはいかないだろう? だって王女はもうすぐ国に帰るんだから」

「うるさいぞ」


 お兄様の機嫌が目に見えて悪くなった。

 グラッドウィン殿下が肩をすくめる。


「カレン王女殿下からも言ってやってくれないかな? いつまでも妹代わりの王女殿下に貼りついて国王としての重要な跡継ぎ問題という義務から逃げ続けている、この困った兄上に」


 グラッドウィン殿下はにこやかなのに、どことなく言葉に棘がある。


 ……えっと、つまり……わたしに、お兄様に結婚をすすめろって、そう言いたいのよね?


 グラッドウィン殿下はわたしの気持ちを知らないだろう。

 だから仕方がないのだけど……好きな人に、誰かほかの令嬢と結婚してくださいなんて、言いたくないわ。


 つい視線を落としてしまうと、アーネストお兄様がわたしの肩を引き寄せた。


「カレンに余計なことを言うな。ダンスならお前が代わりに踊ればいいだろう。とっとと向こうに行け」

「僕はさっき彼女たちと踊ったばかりなんだけど……」


 アーネストお兄様に追い払われて、グラッドウィン殿下がため息を吐きながら騎士たちのバリケードの外に出る。

 お兄様はそんなグラッドウィン殿下と、その奥にいる令嬢たちに背中を向けるように角度を変えて、わたしの手からからっぽになったグラスを取り上げた。


「カレン。あっちに美味しそうなケーキがあったよ。行こうか」


 お兄様に誘われたら、もちろん否やなんてないけれど――なんだか、令嬢たちの視線が突き刺さるようよ。


 きっとわたし、彼女たちから見たらお兄様を独占する嫌な女なんでしょうね。






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