お兄様の婚約者候補 4
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お兄様のエスコートでパーティー会場に入ると、ホールの中にいた貴族たちの視線が一斉にこちらを向いた。
招待客はお兄様が厳選したため、数で言えば五十余人と言うところだろうか。若い人よりも年配の人の方が多い。
緊張してがちがちになっているわたしの肩を引き寄せ、お兄様が朗々と通る声で告げる。
「ノウェスナー国第二王女カレン殿下だ。こうして皆の前に姿を見せるのははじめてのこととなるため、顔を知らない者も多いだろう。終戦以降、ノウェスナー国との国交関係は日に日に改善している。我が国に賓客として滞在している友好国の姫だ。みな、失礼のないように。――カレン王女殿下、十八歳の誕生日おめでとう」
人質という言葉を使わず、お兄様がわたしを賓客として紹介してくれた。
眉をひそめた人が何名かいたようだけど、お兄様の紹介に穏やかな表情で手を叩いてくれる人が概ねだった。
想像していたよりもずっと優しい雰囲気に、わたしはホッと胸をなでおろす。
お兄様にふわりと背中を押されて、わたしはカーテシーをした。
「陛下にご紹介に預かりました、ノウェスナー国第二王女カレンと申します。こうして皆様にお会いできて光栄です。若輩者ですので、無作法が目につくこともあるやもしれませんが、どうぞ、よろしくお願いいたします」
わたしの挨拶にも大勢の貴族が手を叩いてくれた。
お兄様に手を取られて、わたしはダンスホールへと向かう。
今からファーストダンスを踊るのだ。
わたしとお兄様がダンスホールの中央に立つと、楽団がワルツの演奏を開始する。
オーソドックスで踊りやすいテンポの曲だ。きっとお兄様がわたしが困らないように選曲してくれたのだろう。
すっと腰を引き寄せられて、片手をお兄様と繋ぐ。
もう片方の手は、お兄様の肩に添えた。
お兄様が力強く、けれども優しくリードしてくれて、わたしはリズムに揺られて踊り出す。
くるりとターンするたびに、ふわりと軽いドレスのスカートが、青い花が咲くように広がる。
最初は緊張していたけれど、いつもダンスの練習をお兄様とするからか、だんだんと踊ることを楽しめるようになってきた。
大勢の人が見ていても、お兄様と向き合っていると、まるで二人だけの世界にいるような錯覚を覚える。
……十年、長いようで短かった気がするわ。
アーネストお兄様とこの国ですごすのも、あと少し。
先日、お父様とお母様から、早く会いたいと手紙が来ていた。
……わたしも、会いたい。
だけど、お兄様から離れるのは、やっぱり寂しい。
アーネストお兄様がいたから、わたし、この国で十年を生きていられたのよ。
だって、この国に人質としてきたばかりの頃は、お兄様以外誰も味方がいなかったんだもの。
離宮の使用人にいじめられて泣くわたしを、アーネストお兄様が庇って守ってくれなかったら、限界に達して離宮の窓から身を投げる――なんてことも、あったかもしれないわ。
当時八歳だったわたしは、両親から引き離されて、たった一人でこの国に来て――周りは全員敵だらけで、最初の頃は毎日泣いていたもの。
そんなわたしに手を差し伸べてくれたのが、アーネストお兄様なの。お兄様、ただ一人なの。
……大好きよ、お兄様。
だけど、この気持ちは口にできない。
口に出せば、お兄様は困ってしまうでしょう。
妹としか見ていなかったわたしから、異性として好きなんて言われたら、優しいお兄様はきっと、返答に窮してしまうわ。
だからね、この気持ちは秘密なの。
ずっとずっと、秘密にしておくのよ。
わたしはいずれ、ノウェスナー国の王女として誰かに嫁ぐ。
もしかしたら、その誰かを好きになれるかもしれないし――なれないかもしれないけれど、この気持ちは世に出してはならないものなの。
でも、ちょっとだけ。
こうしてお兄様とダンスを踊っている今だけは、ちょっぴり、お兄様と恋人同士になったような幻想を抱いてもいいかしら?
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