おまけ.死神とメイダの話
焚き火の爆ぜる音が、パパタローの問いかけを吸い込んでいく。
カテリーナは、月光に照らされた自身の白い手袋を見つめ、静かに口を開いた。
「……なぜ、私が死神になれるのか。それは呪いでも、後天的な魔法でもございません。……私の魂の底に、千年前の『無謀な恋』が眠っているからですわ」
彼女の語る声に合わせて、夜霧が揺れ、過去の幻影を映し出す。
「……かつて、生者の立ち入らぬリスフェルドの地に、一人の『死神』が降り立ちました。形を持たぬ死の概念、ただ淡々と魂を刈り取るだけの存在。……そこへ、一人のメイダの戦士が挑みかかったのです。戦うことだけを生き甲斐とし、神すらも獲物と定めた、傲慢なまでの武人」
幻影の中で、黒い鎌と巨大な鎚が激突し、火花が散る。
「……死闘は数日間に及びました。死神は驚いたのでしょう。己の鎌を弾き飛ばし、死を恐れぬどころか、戦いの中に悦びを見出すその生命の輝きに。……そして戦士もまた、己の剛力をすべて受け止め、底知れぬ静寂を湛える死神の美しさに、生まれて初めて拳を止めた」
二つの影が、荒野で向かい合う。
「……あろうことか、二人は『番』となったのです。……死神は戦士に、命の灯火を視る術を教え、戦士は死神に、大切なものを護るための力と、この世への執着を教えた。……神の理と、獣の闘争本能。その禁断の交わりこそが、私の一族の始まりですわ」
「……アジャラカモクレンテケレッツのパー ……」
カテリーナが立ち上がり、死神の鎌の石突きを地面に2度突く。
その言霊が、眠っていた二つの血を呼び覚ます。
戦場にそびえ立つ幻影の木蓮。その白い花びらは、死神の冷徹な「断絶」と、メイダの熱き「破壊」が混ざり合った、この世で最も美しい暴力の結晶。
「……死神の家系でありながら、メイダの重装歩兵。……一見すれば不自然な私のこの姿こそが、二人の先祖が残した愛の形なのですわ。……さあ、パパタロー様。……花見の続きと参りましょうか」
漆黒に染まったカテリーナが、ハルバードを構える。
背後の木蓮から、死を告げる花吹雪が荒れ狂う。




