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狐の嫁入りを見てしまったら、九尾の狐の婿になりました。 〜普通ってどこに売ってる?〜 異世界スイートテイル(肉球マーク)  作者: 2番目のインク
第四章:ジプシー編 ― 星を渡る者たち ―

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1.今の星(邂逅)

「ん?」


 呼び止められた気がして、パパタローは振り返った。


 石畳の向こう。

 人の流れが一瞬だけほどけて——


 一人、立っている。


 人波の中に、ひとりだけ輪郭が合っている女がいた。


 年の頃は二十代半ばほど。

 背は高すぎず、低すぎず——記憶に残りにくい、ちょうどいい高さ。


 髪は黒に近い濃い色。

 光の当たり方で、わずかに茶が滲む。


 顔立ちは整っている。

 だが、美人かと問われると答えに困る。


 どこにでもいそうな、バランス。


 なのに——


 一度視界に入ると、なぜかもう一度見てしまう。


 表情は柔らかい。

 よく笑う人間のそれだ。


 ただし——


 笑う直前、ほんの一瞬だけ、何かを諦めたような間がある。


 その“間”だけが、妙に引っかかった。


 目が合った瞬間、距離が、消えた。


 驚きでもなく、警戒でもなく。


 「やっと見つけた」


 そう言いたげな、静かな確信。


 見覚えは、ない。


 はずだった。


 なのに。


 その立ち方。

 肩の力の抜き方。

 息を溜めてから笑う癖。


 知っている。


 いや、違う。


 戻ってくる。


 忘れていたわけじゃない。

 最初から——


 “ここに無かっただけだ”。


「白洲花社長でしょ」


 言われた瞬間、


 世界が、ずれた。



「……?」


 パパタローの目が少し広がる。


 女は、困ったように眉を下げてから——


 ふっと笑った。


「やっと会えた。意外と早かったかなぁ。」


 その言葉と同時に、


 胸の奥に、何かが流れ込んできた。


 夏。

 提灯。

 夜風。

 笑い声。


 知らないはずの記憶が、


 “思い出”ではなく、


 “現在”として流れ込む。


(……なんだ、これ)


 女の視線が横に流れる。


「凛ちゃんも、お面つけてくれてるんだ。かわいいかわいい。」


「え!?」


 カリンが素っ頓狂な声を上げる。


「な、なんで名前……」


 女は答えない。


 ただ、少しだけ首を傾げて——


 二人を見る。


「うん。見た目は変わったけど、やっぱり同じだ」


 その言葉に、


 “何かが確定する”。


「私は分かったのになぁー」


 ぽつりと落ちる。


「また、言ってくれないんだ」


 その瞬間、


 胸の奥が、裂けた。


 知らないはずなのに。


 知っている。


 何度も。


 何度も——


 言えなかった。


「お前……」


 名前が、出ない。


 出ないのに、


 “形だけがある”。


「せ——」


 言いかけた瞬間、


 女が小さく首を振る。


「…違うよ」


 やわらかく、でもはっきりと。


 遠くで鐘が鳴る。


 ざわめきが遠のく。


「でも、大丈夫」


 一歩、近づく。


「今回も、ちゃんと会えたから」


 その顔を見て——


 全部、戻った。


「……待ってたのに」


 誰の声か分からない。


 気づけば、


 女はもう一歩引いていた。


「じゃあね」


 背を向ける。


 人の流れに溶けていく。


「待て!」


 声が出た。


 女は振り返らない。


 ただ、


 手だけを軽く上げて——


「次は、ちゃんと言ってよ」


 消える。


 ざわめきが戻る。


 何も変わっていない。


 なのに、


 パパタローの中だけが——


 決定的に変わっていた。


「……誰、あれ」


 カリンの声が震える。


「……わからない」


 即答した。


 けれど——


 “もう分かっている”。


「まさか……」


 輪郭が、崩れる。


 いや、


 “完成する”。


「待て——!!」


 走る。


 息が焼ける。


 喉が裂ける。


 それでも、


「――静ッ!!」


 その瞬間、


 女が振り返った。


 迷いなく、


 飛び込んでくる。


「タロー!!」


 抱きしめる。


 そして、軽い。


 ありえないほど、軽い。


 腕の中にいるのに、


 “重さが無い”。


「……静?」


 触れている。


 確かに、いる。


 なのに——“掴めていない”。

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